10 街の中へ
「私といると……、何か言われて、しまうかも……」
私のせいで、ルルさんまで悪く言われたら申し訳ない。俯いて自分の両手を重ねた。
「え? ああ! 大丈夫よ! 何か言われたら私が言い返してあげるわ!」
ルルさんはそう言って、胸をドン! と叩いた。私は顔を上げた。
「ね? だから、街の中を見にいきましょう?」
ニコッと微笑んで、ウインクをした。
「ありがとう……」
そんなことを言ってくれる人はいなかったので、嬉しかった。
「ふふ……」
ルルさんと一緒に並んで街へ向かった。
街の入り口から自分の出店までクラウン様と歩いてきたが、その時よりも準備が進んでいた。
看板などがもう飾られていて、何のお店か知ることが出来た。
今まで街の入り口から見ているだけで、お祭りに参加できなかった。それがこうして、街の中を歩いていけるなんて……。
「あ! あのお店は何かしら?」
面白そうな出店を見つけては、ルルさんが話しかけてくれる。楽しい。
しばらく歩いていくと、何人かこちらを見てヒソヒソ話しているのに気が付いた。
フードを深く被り直した。
お年寄りはまだ、私ではない魔女のことを覚えていて忌み嫌っている。
「魔女だ……」
老女が私に向かって歩いてきた。
「……リサさん、私の後ろへ」
ルルさんが私の前に出てくれた。
ユラリ……と、おぼつかない足取りで歩いてきて私達の前で、立ちとまった。
「災いをもたらした、魔女! この街から出てお行き!」
私を指さして、大声で言った。
周りの人達は、老女の大声に驚いてこちらを見ている。
「あ……」
幼い時に連れられてきたお祭りで、大勢の人に罵倒されたことを思い出した。
祖母は私を庇い、ローブに隠してくれた。でも、声は聞こえていた。
『どうして私達は何もしていないのに、街から出て行かないといけないの?』
私はそのことを祖母に言えなかった。――悲しそうにしていたからだ。
その時のことを思い出して、体が震えた。
「違うわ! この人は災いの魔女じゃない!」
ルルさんが、私は災いの魔女じゃない! と老女に言ってくれた。
「もうかなり昔の話だし、違う国の魔女の話でしょう!?」
老女はルルさんの言葉に怯んだ。涙が出るほど嬉しかった。
「そんなことはない! 魔女は、魔女だ!」
ルルさんは一歩前に出て、老女を見下ろした。
「これ以上、この人を侮辱することは許せません」
「ひっ!」
ルルさんは騎士だ。威圧感を出して老女を睨んだ。
街の人はお互いに顔を見合わせて、ルルさんと老女を見た。
「老人を怖がらせるなんて、ないわ……」
ルルさんに注目がいった。
「ルルさん……」
私はルルさんの袖を掴んだ。迷惑をかけてしまう。
「何ごとだ!」
その時に、集まっていた人をかき分けて私達の方へ進んできた騎士。
「クラウン様!」
ルルさんは、クラウン様の姿をみてホッとしていた。私の姿を見つけて察したようだ。
ルルさんがクラウン様へ、何があったか説明をしている。私のせいで人が大勢、集まってしまった。
このまま街から逃げ出したかった。――何も言えず、俯いて震えていた。
「なるほど。……とにかく。皆は祭りの準備の、続きをしてくれ!」
クラウン様はルルさんから説明を聞き終わると、集まっていた人たちへ自分の持ち場へ帰るように声をかけた。
「は――い」
「はい、はい」
集まっていた人たちは、クラウン様の声かけに応えて戻っていった。
「おばあさん」
「ひぃいい!」
クラウン様が老女に声をかけると、後ずさりして怖がってしまった。
「……おばあさんが嫌っている魔女は、違う魔女だ。彼女は関係ない」
クラウン様は老女に、ハッキリと言った。
「でも魔女だ」
ギョロリと目を大きく開いて、クラウン様へ否定の言葉を言った。
「彼女は俺を含めて、多くの者を救っている。良い魔女だ」
その瞬間……。
クラウン様の言葉を聞いて、私の色褪せていた風景が光り輝き出した。
初めて世界が眩しいと、気が付いた。
クラウン様の姿を見ると、動悸が激しくなった。……病気だろうか?
「すぐに認められないのは、分かる。だが罵倒するのはいけない」
「う……」
騎士団の副団長に言われれば、大人しくなるしかない。
「ふん!」
ジロリと私を睨みつけて、どこかへ行ってしまった。
「やれやれ……。まだ魔女を、嫌う者がいるなんて……。すまない、遅くなった」
クラウン様は私に近寄って、声をかけてくれた。
「い、いえ……。ルルさん、クラウン様……ごめんなさい」
また私は下を向いた。迷惑をかけてしまった。
「謝らなくていい。向こうから罵倒してきたと聞いた」
クラウン様は周りを見渡して言った。警戒しているようだ。
「そうよ。謝らなくていいわ」
ルルさんは私の肩に手を置いて、話しかけてくれた。
謝らなくていい? ……迷惑をかけたのに優しい。
でも私は、震えて下を向いているしかできなかった。
もう私は小さい子供じゃない。
さっきのように、また何か言われるかもしれない。
その時にまた、二人に守ってもらうしかないの? ……それじゃいけない。
騎士の二人は忙しい。
私が、何とかしないといけない。
震える手をギュッと握って、顔を上げた。




