18 美味しいパンケーキのお店
「……占いの出店でトラブルがあったと、お客さんに教えてもらった」
「……!」
騎士であるクラウン様に、誰かが報告をしてくれたのだろう。
多分、無理やり横入りしてきたハインズ様のことだ。
並んでいたお客さんが順番を譲ってくれたので占いをしたけれど、占いの内容が気になるものだった。
『街の、貧しい地域を再開発したいと思っている』
『今、住んでいる者たちを追い出して新しい宿屋を作る』
聞いていて、とても不愉快な内容だった。だけど私情を出してはいけないので占った。
結果は『住んでいる方々と協力をお願いしていけば、追い出して一からやっていくより利益が出る』と結果が出た。
しかしハインズ様は、馬鹿馬鹿しい! と言って占いを信じてくれなかった。
横柄な態度で帰って行ったのには呆れた。
占いの結果が自分の思う通りではなかったので、怒ったのだ。
「大丈夫だったか?」
クラウン様は私を心配してくれたようだ。
「あ……。ええ、大丈夫……でした」
暴力は振るわなかったし、すぐに帰ったし……。ただ、料金はもらえなかったけれど。
「その……。食べながら話をしよう。どうぞ」
出来立てのパンケーキ。美味しそうだ。
クラウン様に食べるように勧められたので、ナイフとフォークを使って食べ始めた。
フルーツが新鮮だし、パンケーキはふわふわで美味しい。
「美味しい、です」
個室だったのでフードを外していた。私は自然に笑顔になっていた。
美味しくて、クラウン様に話しかけたら微笑んでくれた。その笑顔が素敵で見惚れてしまった。
「気に入ってくれて良かった。確かにパンケーキがふわふわで、美味しいな」
クラウン様は豪快にパンケーキを大きく切って、口に運んでいた。一口が大きい。
まさかクラウン様が甘党だとは思わなかった。
美味しそうにパンケーキを食べるのを見て、微笑んだ。
「俺みたいな男が、甘いものが好きなんて……おかしいかな?」
あっという間にパンケーキを完食したクラウン様が、私に話しかけてきた。
「……いいえ。美味しいものに、性別は……関係ありません」
美味しいものに女性だからとか、男性だからとか……ないと思っている。
「そうか。……ありがとう」
ちょっと照れたようなクラウン様が可愛らしいと思ってしまった。
個室の窓からは緑がいっぱいの中庭が見えて、赤くなった顔をそちらに向けて誤魔化した。
「聞きたい事……というのは、先ほど話にあったトラブルの男のことだ」
クラウン様は、優しい微笑みからキリリと引き締めた顔になった。
「怪しい動きをしていると近隣住民から相談があった。……何か、聞いてないか?」
私はクラウン様の話を聞いて心当たりがあった。でも……。
「何か聞いたとしても……、お客様の情報は教えられません」
真っ直ぐに顔を見て伝えた。これは占いをする上で、他の人にお客様の情報を漏らさないというもの。
プライベートのことを話してしまうのは、信頼を裏切ることになる。
「そう、だよな。すまない」
クラウン様は、私に頭を下げた。無理やり私から聞き出そうとする人もいるというのに。
「……貧しい地域。――それ以上は、言えません」
ポットからティーカップへ紅茶を注いだ。ミルクティーにして飲んでみた。
紅茶も美味しかった。
「ありがとう」
クラウン様は私をジッと見つめて、礼を言った。私の一言で、何か気がつけばいい。
私は【貧しい地域】としか言っていない。誰が……と、言っていない。
料金を払わなかった者に、礼儀なんてない。
「また困った者が来たら、俺を呼んでくれ」
真剣な顔をして私に言った。本気に心配していることが分かって嬉しかった。
「あ、ありがとうございます……」
どうしてそんなに優しく笑うのだろう。ドキドキして、下を向いてしまった。
「リサさんがずっと……、俺の側にいてくれたらいいのに」
顔を上げてクラウン様を見てみると、手のひらで口を隠していた。言い間違いをしたのだろうか?
どういうことだろう……? 側にいてくれたらいいのに?
占いで、アシスタントをして欲しいということだろうか。
「そろそろ出よう」
クラウン様は、ガタンと音を立てて立ち上がった。
「あ、はい……」
クラウン様の言った意味が分からないまま、フードを深く被り直してお店を出た。
「一人じゃ、この店に入れないから助かった」
「あの、お金を……」
まとめてクラウン様がお金を払ってくれたので、自分の分のお金を払おうとした。
「いや、おごりだ。払うと言った」
お店の前でお金のことで揉めるのは良くないので、おごってもらうことにした。
「あ、ありがとうございます……。美味しかった、ですね」
「ああ! リサさんと、また来たい」
ニコニコと微笑んでいるクラウン様。良い笑顔だった。
「あっ……と。休憩時間が終わる。すまないが、送っていけない」
「いいえ。大丈夫です。……ごちそうさまでした」
頭を下げてクラウン様へお礼を言った。
そのあと、クラウン様は仕事へ。私は一度家へ帰ることにした。
クラウン様と、美味しいパンケーキを食べたのは夢のようだった。
まさかそれを見られていたのに、二人は気がつかなかった。




