19 悪意
冷静に考えてクラウン様と一緒に、パンケーキを食べられたのは夢のようだった。
まず、街の人気のお店に入れたこと。一人ではお店に入れなかった。
次にパンケーキが評判通り、美味しかった。
それに顔は怖いけれど、街の皆に慕われているクラウン様と一緒に美味しいパンケーキを味わえた。
噂に聞いていた、お互い想い合っている恋人同士のようなデートみたいだった。
クラウン様は紳士的で、忌み嫌われている魔女の私にも気遣ってくれた。
今頃、クラウン様の優しい笑顔を思い出して、ブワッ……と顔が赤くなった。
自分の両頬を手で覆った。
帰り道、歩きながら一人で赤くなっていた。
「あら? リサさん、もう帰るのかい? 気をつけて帰るんだよ」
「はい。ありがとう、御座います」
八百屋のおかみさんが私に声をかけてくれた。
最近は、何人かの街の人とも挨拶出来るようになったので嬉しい。
にやけた顔を見られないように、フードを深く被って下を見て歩いていた。
「ちょっと! あなた、どういうおつもりかしら!?」
「え」
ヒステリックな声が聞こえて、顔を上げた。――ジルさんだった。
私を見る目はきつく、睨んでいた。体中から私に対する嫌悪が感じられた。
「ジルさ、ん……?」
どういうおつもりかしら……とは、どういうことなのだろう。
「平民のくせに、クラウン様と一緒にお食事なんて!」
ジルさんに……、見られていた。
きれいな人なのに、顔を歪ませて私をきつく睨んでいる。……浮かれていた気持ちがしぼんでいく。
ジルさんの大声に、周りに人が集まってきた。このままではいけない。
「……ごめん、なさい」
フードを深く被り直した。頭を下げて私は逃げ出してしまった。
走っている途中。自分の弱さが悲しくて、瞳から溢れるものが抑えきれなかった。
「はぁ……」
次の日、気が重くて街へ行きたくなかった。でも占いたい人が待っているので、行かなくてはいけない。
ライザの格好をして転移魔法陣で行くことにした。
転移魔法陣で移動すれば、すぐ出店の中だ。
様子を見に、出店の外に出るともう人が並んでいた。リサの姿ではないので仕方なく整理券を配ることにした。
「整理券をどうぞ」
「えっ!? あ! ありがとう御座います」
ライザの姿で整理券を配っていると、並んでいた人がかなり驚いていた。
【占いの館 ネムノキ】の中か、薄暗い出店の中でしか会ったことのないライザが、歩いて整理券を配っているから驚くのも無理がない。
「ライザさん、初めて近くで見た……」
ザワザワと並んでいる人たちが騒いでいる。配り終えて出店の中へ入った。
姿を現したのは、いけなかったかしら……。
順番に占いをしていく。
恋占い、商売繁盛の相談、失くした物の捜索など占った。
「ありがとう御座いました!」
二十人ほど占った時、ちょっと休憩をしていた。
集中力を使うので時々休まないと、占いの精度が低くなってしまう。
「おい! 俺の順番は、まだか!?」
いきなり怒鳴り声が聞こえてきた。お茶を淹れて飲もうと立ち上がったときだった。
「この声は……」
聞き覚えがあった。
横柄な態度で順番を抜かして占いを聞きに来た、ハインズという男だった。
街の人も逆らわないようにしている人物らしい。
「入るぞ!」
占いに来ているお客さんに、準備が出来たら次の人を呼ぶようにしている。
お客さんも前の人を見てそれに倣ってくれていた。でもこの男性は、自分のルールで生きているらしい。
「お客様……。わたくしのルールに従って下さらないならば、占いはいたしません」
はっきりと、ハインズさんに伝えた。
「なっ!?」
ライザは誰にも屈しない。
「なっ、生意気な! ……まあいい。今日は大人しく帰ってやろう」
フン! と鼻を鳴らして意味ありげな、いやらしい顔をして帰っていった。
「ライザさん……。大丈夫ですか?」
何度かこの出店に来て、相談を受けているお客さんが心配そうに話しかけてきた。
「ええ、大丈夫です」
魔女ライザは毅然とした態度で伝えたけれど、赤面症のリサの心情は怖くて泣きそうだった。
「嫌がらせされないと良いけれどねえ……」
後ろに並んでいたおばあさんが心配そうに言った。
「気をつけてね。何かあったら、お城の騎士さんに助けてもらうといいわよ」
並んでいたお客さん達に言われて「わかったわ」と頷いた。
お祭りは数日続いて、占いのお店は盛況だった。




