14 街の人からの感謝と貴族のお嬢様
「あ、リサさん! おはよう」
「子供達を助けてくれてありがとう!」
次の日、街へ出店の準備に行くと街の人達から挨拶とお礼を言われた。
「お、お早う御座います……」
嬉しいけれど慣れてなくて、足早に道を通り過ぎた。
『魔女だ! 帰れ!』と怒鳴ったり、石を投げられたりしなくなるといい。
「リサさん、新鮮な林檎をあげるわ!」
果物を売っているお店の人からりんごをもらった。
「えっ。いいの、ですか? 」
良い香りのするりんご。袋に入れてくれた。
「いらないよ! 美味しいから食べて!」
「ありがとう……御座います」
りんごをいただいてしまった。美味しそう。
「リサさん! これうちのお店のパン! 持っていって! お金はいいから!」
パン屋のおじさまが私へ袋に入ったパンをくれた。つい受け取ってしまった。
「お金は、払います!」
タダなんて……。りんごにパン。嬉しいけれど……。
「いや、俺の息子が攫われていて。あんたのおかげで助かった。今日だけだから! パン、買いに来てくれ!」
攫われていた子供のお父さんだったようだ。
「わかり、ました。今度、買いに……行きますね」
周りにいた街の人が、微笑みながら私を見てくれている。嬉しくて……泣きそうになった。
果物屋さんとパン屋さんのお店の人にお礼を言って、自分の出店へ向かおうとした。
「あなたが、リサさん?」
冷たい声が私を呼んだ。高級な服屋の前に二人の女性。
一人は騎士のジルさん。もう一人は豪華なアクセサリーを身に着けた、貴族の方とわかる女性。
少し年上のジルさんと、同じくらいの女性が私を見ていた。
「は、い……? そうです、けれど……」
ジルさんは分かるけれど、お隣にいる貴族の女性はあったことのない人。
「この子です、アビゲイル様」
ジルさんが貴族の女性に顔を寄せて言った。
「まぁ! この子なのね! クラウン様にしつこく、色目を使っているのは!」
扇を閉じて、私にその先を向けた。
色……目? 私が……? まともに顔を見られないのに……?
私はそっとフードを上げて、アビゲイル様と呼ばれた人を見た。
金色の巻き毛は丁寧に巻かれており、爪はきれいに手入れされていた。頭から足先まで完ぺきに磨かれたお嬢様だった。
「クラウン様はお忙しいのに、なにか弱みでも握られているのか、平民のこの子へ親切にしています」
「まあ!」
扇で吉元を隠した。
お二人は私がクラウン様の弱みを握っている、と言っている。……弱み?
「だからなのね! こんな地味な子に、親切にするなんて……!」
アビゲイル様は、私を軽蔑したような目で見た。ジルさんは私を見てあざ笑っていた。
「……違います」
自分が地味なのは自覚している。でもクラウン様は弱みなんか握られないし、私は握ってない。
思わず声を出していた。
「え?」
「なに……?」
私が言い返すと思ってなかったのか、二人は驚いていた。
「クラウン様は……、弱みなんか握られないし、私は弱みなんて握っていません」
二人の顔は見られなかったけれど、両手をきつく握って声に出して言った。
「ま、まあ! 平民のくせに、この私に逆らうなんて!」
パシッ!
「いたっ……」
アビゲイル様は持っていた扇を私に投げてきた。手の甲へ当たった。見ると赤くなっていた。
「不愉快ですわ! 帰りましょう!」
「は、はい! アビゲイル様」
ジルさんは私に当たった扇を拾って、アビゲイル様と行ってしまった。
残された私は自分の出店へ歩いて向かった。
「あ、リサさん! あれ? ……どうしたの!? 血が出ているわよ!」
硬い扇が甲に当たってケガをしてしまった。出店の中で手当をしようとした。
「あ……」
言わない方がいいのかしら……?
「手当……するので。また……」
「あ! リサさん」
心配するルルさんを置いて、出店の中へ入ってしまった。また迷惑をかけてしまうと思ったから。
いつもローブの中のポケットや、持ち歩いている袋の中から傷薬を取り出した。
椅子へ座ってそれらをテーブルの上へ並べた。
傷の手当は慣れている。手早く薬を塗って包帯を巻いた。
「アビゲイル様……」
きれいな人だった……。そんな方が地味な私に、なぜあんなことを言うのだろう。
クラウン様は私に、助けられたことを恩に感じているだけなのに。
ジルさんも初めから、私のことを良く思ってないようだった。やはりクラウン様の親切に、甘えているのがいけないのだろうか。
「そうね。もう恩は返してもらっているわ」
お祭りもそろそろ始まるし、ライザに変わらなくてはいけない。
弱気ではライザになれない。
「よし……!」
私は出店の中の地面へ手のひらを向けた。呪文を唱えて魔法陣を展開する。
淡い光が地面に魔法陣を描いていく。複雑な模様が出来上がって消えた。
屋敷からこの出店まで、移動できるように魔法陣を描いた。
ライザが直接ここへ来られるようにした。
リサは街中を通って来て、ライザの姿は晒さない。同一人物と思わせないためだ。
本来魔女は人を害する存在ではなかった。豊富な薬草の知識や魔法で人々を救ってきた。
体の不調や悩みがあれば相談を聞いて、合う薬やアドバイスをした。
代々そうしてきたし、私もそのつもりだ。……街の人の力になれたらいい。




