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キャサリン・パーマは、オーク材のダイニングテーブルを布巾で拭いていた。
滑らかな木目に沿って、何度も手を動かす。手に馴染んだ木の感触だけが、ほんの少し気持ちを落ち着かせてくれた。
窓の外には、いつもと変わらない景色が広がっている。庭も、向かいの家も、通りを走る車も、以前と何も変わっていない。
それなのに、この家だけが別の場所になってしまったように感じる。
もう、ここには以前の暮らしはなかった。
そのとき、電話が鳴った。
静かな部屋に、鋭い音が響いた。
キャサリンは布巾を置き、電話のところまで歩いた。受話器を取り上げる。
「ハロー」
低い声が部屋に響いた。
「こちらはパーマさんのお宅でしょうか?」
男の声だった。
「ええ」
「私は雑誌の記者で、娘さんの事件について取材をしている者ですが――」
キャサリンは目を閉じた。
またか。
それだけを思った。
リザの名前が新聞や雑誌に出るたび、こうした電話がかかってきた。記者たちは何度も家に電話をかけ、リザについて尋ねた。
どんな娘だったのか。
何をしていたのか。
誰と付き合っていたのか。
知りたいのは、それだけだった。
家族がそのたびに何を失っていくのかなど、彼らには関係がなかった。
キャサリンは何も言わずに受話器を置いた。
そのまま電話の前に立っていたが、やがてゆっくりと椅子に腰を下ろした。
あの日から、家の中から笑い声が消えた。
夫のスペンサーも、去年、心疾患で亡くなった。
キャサリンには、その死さえ事件と無関係には思えなかった。
事件のあと、リザの名前は新聞や雑誌に何度も登場した。
そこに書かれていたのは、娘についての事実ではなかった。
リザの裏側を暴くような記事が次々と掲載され、ある雑誌には、ロサンゼルスのナイトクラブで男たちと親しげにしている若い女の写真まで載った。
写真に写っていたのはリザではなかった。
それでも記事を読んだ人々は、その女をリザだと思った。
やがて、リザは売春婦だったという噂まで広がった。
スペンサーは、それを何度も目にした。
何も知らない人間たちが、娘の名前を使って好き勝手なことを書いている。
キャサリンは、そのことが夫を少しずつ追い詰めていったのだと思っていた。
また電話が鳴った。
キャサリンは顔を上げた。
しばらく動くことができなかった。
やがて視界が滲んだ。
彼女は椅子に座ったまま、声を立てずに泣いた。




