ゆあ専用アイテムに追加機能がつきました
「ルビー結構たまったよ!お手柄〜!町で換金しよう〜」
カークさんがニコニコ微笑む。
つの生えウサギを弓で倒してルビーをね⋯⋯
ガイさんがしつこくあたしにやれやれいうから!
もうヘトヘト⋯⋯
もう、日も暮れてきた⋯⋯
「がんばったな!よし!この辺りで今日は野宿だな」
ガイさんがそういってあたしの頭を撫でる。
湖のほとり⋯⋯
西の空がゆっくりと茜色から深みのある紫へと溶け込んでいき⋯⋯
そのグラデーションが静かな湖面にそのまま映り込んでいる。
まるで足元にもうひとつの空が広がっているみたい⋯⋯
夕日を浴びてキラキラと橙色に輝く水面を、心地いい夕暮れの風が優しく撫でて小さな波紋を作っていく。
対岸に見える森の木々が黒いシルエットになって浮かび上がり⋯⋯
静まり返った湖畔には、サラサラと揺れる草の音と心地よい水音だけが穏やかに響いていた。
うわっ!
初めてみた!
ユニコーンとか出てきそう!!!
「なんか幻想的ですね!」
あたしが辺りを見回すと
「夕暮れの湖って綺麗だよね!さあ!暗くなる前に魚でもとろう!」
カークさんは手慣れた手つきで釣りざおを取り出して、釣りを始める。
後ろではガイさんが簡単に休む所をつくっている。
テントなんて大層なものはないそうなの。
だから、そのまま草に転がって寝るとからしい⋯⋯
運よく洞窟とかあるとそういうとこで休むみたい。
今日は草に寝転んでねるのかなー
「あたしも何か手伝いますか?」
「今日のところはそこで座って休んでろ。つの生えウサギ退治でヘトヘトだろ?」
休む場所の準備を整えたガイさんが、薪の束を抱えてこちらへ歩いてくる。
地面にゴソゴソと薪を組み上げながら、フッと優しく笑った。
「火を起こしたら、カークが釣った魚を焼いてやるから。手伝いなら明日、体力が回復してから頼むよ。ほら、草の上だけど⋯⋯ここ、少しは柔らかいぞ」
ガイさんは自分が敷いた上着の上をポンポンと叩いて、あたしに座るよう促してくれる。
その横で、湖に糸を垂らしていたカークさんが振り返ってニッと笑った。
「そうそう! 今日の晩ごはんは任せてよ。あ、でも⋯⋯もしどうしても手伝いたいなら、火が起きた後に一緒に魚を焼くか、星が出てきたらどっちが先に流星を見つけられるか勝負する? ほら、見なよ。そろそろ一番星が見えそうだ」
指差された空を見上げると、深紫色に染まった空の低いところに、小さく輝く光がひとつ灯っていた。
夜の冷たい風がそっと頬を撫でるけれど、隣でパチパチと音を立てて起き始めた焚き火の温もりが、じんわりと心地よく広がっていく――。
「さ、魚が釣れるまで、その綺麗で幻想的な景色をゆっくり眺めてなよ!」
東の空はもうすっかり夜の準備を始めていて、その濃密な藍色のキャンバスに、たったひとつ、輝く強い光――が凛と灯った⋯⋯
「あ!一番星?」
まだ周りに他の星は見えなくて、その一つだけが夜の訪れを知らせるみたいに、ダイヤモンドみたいに青白くキラッと輝いている
「うん。そうだね!」
カークさんが空を見上げて教えてくれる。
わぁーこういうの初めて⋯⋯
「でも、油断するな。外は魔物がたくさんだからな!」
ひっ!
急に怖いことを⋯⋯
こうさ、アニメみたいに、バリアなる結界みたいなのをはったりてきないものなの?!
あたしはそんなことを考える。
あたしの左腕に付く腕輪⋯⋯冒険に必要な魔法⋯⋯生活魔法が使えるようになるとはいうけどさ⋯⋯
そういうのないのかしら?
私は腕輪を
ジーと眺める。
と⋯⋯
キラキラ⋯⋯
「え」
腕輪が光り⋯⋯
腕輪から文字が浮かび上がる。
『ゆあ専用・おやすみ安心バリア機能を追加
ゆあを中心とした半径5メートルに「絶対侵入不可の結界」を張ることができる。雨風はもちろん魔物も野生動物も一切入ってこれない。
※効果は8時間。1日1回
ただし、腕輪をゆあ以外がつけると、一生結界からでられなくなる機能が追加』
⋯⋯
えー?
す、すご⋯⋯
最後の一文の追加はいちいち余計だけどすごい⋯⋯
「ん?なんかあった?」
カークさんが魚をたくさん持ってあたしの横に座る。
ガイさんはその魚を受け取ると、器用に串を刺して焼き始めている。
「なんかですね⋯⋯腕輪の効果が増えました⋯⋯今いきなり⋯⋯」
「はぁ?どういうこと?」
カークさんが怪訝そうな顔でこっちを振り向く。
「えっとですね……『おやすみ安心バリア』っていうのが追加されたみたいで……」
あたしは腕輪に浮かんだ文字を読み上げながら説明した。
「あたしを中心に半径5メートルに結界を張れるみたいです。8時間だけ雨風も魔物も入ってこれない完全無敵バリア!⋯⋯なんですけど⋯⋯」
「ちょっと待て、急に生えてくるような性能かそれ!?」
カークさんが焼き魚を串ごと落としそうになりながら目を丸くする。
「で、ほかになんて書いてあったんだ? 顔が引きつってるぞ」
ガイさんが鋭い目で腕輪とあたしの顔を交互に見つめてきた。
「えっと⋯⋯よくあることなんですけど⋯⋯今回は、あたし以外の人がこの腕輪を付けると、一生結界から出られなくなるそうです⋯⋯」
『いや重ッ!!!』
ふたりのハモリが静かな湖畔に響き渡った。
いやあ⋯⋯ほんと2人は仲いいなぁ。
「しかし、その呪いみたいな極悪仕様なに?ゆあの専用のそれらはみんななんかそういうの付いてるよねぇ!弓も他人が触ると⋯⋯だよね?」
カークさんが本気で青ざめた顔であたしを見る⋯⋯
あたしはコクコク頷く。
「あはは⋯⋯ゆあの専用装備、ほんと尖ってるよねぇ⋯⋯。でもさ! まぁ、これで今夜は魔物の心配なしで熟睡できるってことでしょ? これから先もってことだよね?!お手柄だよ!ゆあ!」
カークさんが気を取り直したようにニコニコと、笑い出した。
「とりあえず⋯⋯発動してみたらどうだ?」
ガイさんがおそるおそる薪をつつきながらあたしを見る。
あたしはゴクリと唾を飲み込んで、腕輪をそっと撫でてみた――。
んー
バリアはってください!
そう祈ると。
ふわふわっとなにか優しいものにつつまれたような……
あたたかくて柔らかい光が、あたしたちの周りをくるんと包み込んだ。
見上げると、あたしたちを中心に綺麗な半球体のドームが広がっていて、うっすらとピンクゴールド色にキラキラ輝いている。
「うわぁ! すごい、本当にバリア?」
恐る恐る手を伸ばして触ってみると、まるで大きくて柔らかいシャボン玉の内側に触れているみたいに、ぷにっと心地よい弾力が手に伝わってきた。
「お?!風がピタリとやんだな。寒さもまったく感じない」
ガイさんが驚いたように見回す。
「本当だ! なんかぽかぽかして温かいねぇ。それに⋯⋯見てよこれ!」
カークさんが立ち上がって、結界の壁の向こう側にそっと手を伸ばしてみる。でも、彼の指先は透き通った壁にポンと跳ね返されて、外には出られない。
「へえぇ~! 中からも外からも完全に遮断されるんだ。これなら雨が降っても濡れないし、風で火が消える心配もないんじゃない?」
外の冷たい夜風の音や波の音は心地よく聞こえるのに、中に吹き込んでくる風は一切なし。
まるで透明で快適な部屋が、湖畔の草の上に一瞬で完成しちゃったみたい。
「まあ、野宿の環境としては破格だな。よくやった、ゆあ」
ガイさんが焚き火の火加減を見ながら、フッと満足そうに目を細めた。
「えへへ⋯⋯あたし、役に立ちました?」
「大手柄だよ! これなら今夜はぐっすり大爆睡決定だね!」
カークさんがニッコリ微笑む。
香ばしく焼き上がった魚の匂いが結界の中にふんわり満ちてきて、あたしのお腹がぐぅ~っと小さく鳴った⋯⋯




