衝撃の事実を知りました⋯⋯
「隠していてもゆあにはバレるだろうか⋯⋯ほら、頭に出るんだろ?」
ガイさんがぽそっと言った。
「まぁ⋯⋯あたしの特殊能力的な⋯⋯今日もおふた方⋯⋯プリン食べたいって出てます⋯⋯」
言いにくそうに言うと。
「わぉ。あのプリン美味しかったもんねぇ」
カークさんが笑って言った。
今あたし達はギルドをでて、一度宿に戻って、話を整理しようってなったの。
ガイさんの部屋に集まってる。
あたしの特殊能力は2人にもちゃんとバレていて、くだらない内容は最近は伝えもしてないんだけどね。
「だから、隠し事はできないって思っている」
ガイさんはそう言って微笑んだ。
あー⋯⋯
それが⋯⋯
どうも、恥ずかしい秘密だけ見れるような気がしてます。とか言いにくいよね⋯⋯
「ガイダール国のことなんだが⋯⋯」
ガイさんはそう言ってあたしを見る。
ん?なんか話が思ってたのと違う方向に?
「俺はガイダール国の王子なんだよ」
ん?!
なんですと?!
おおおおお!!!
「え、えぇぇぇぇえええ!? お、王子様!?」
あたしは素で声をひっくり返して、ガイさんとカークさんの顔を交互に見比べた。
宿の部屋の、ごく普通の木製椅子にどっかり座っているこのイケメンが……国のトップの血筋!?
「何をそんなに驚いてるんだ。俺の名前を聞いた時から、薄々感づいていると思ってたんだが」
ガイさんは呆れたようにため息をつくけれど、いやいやいや!
名前がガイでガイダール国だからって、直球で王子様だなんて普通思わないでしょ!?
「ちょっと待ってください! じゃあ、なんで王子様がこんなところで冒険者みたいなことしてるんですか!? 命狙われて逃亡中とか、そういうやつですか!?カークさんは?カークさんは何者?!」
「あはは! ゆあちゃん、物語の読みすぎだよ〜僕はね〜ガイ王子付の側近なんだけど。友人でもある!」
隣でカークさんが楽しそうにクスクス笑いながらそう言った。
「まあ、カークとは同じ乳母で育った兄弟みたいな間柄だから。側近とは名ばかりだな」
ガイさんは腕を組み、真剣な眼差しであたしを見つめ直した。
「俺は第六王子なんだ」
えー
6人兄弟?!
「お兄様が5人?」
あたしが聞くと
「あぁ。第六王子だ。姉も上に2人。だから、王位継承もあるわけないんだがな」
でも国の名前に似てんじゃん⋯⋯
それは関係ないのかな?
「身分的には気楽な身分なんだが⋯⋯国で跡目争いに巻き込まれてしまってな。俺みたいな末っ子が出しゃばることでもないから⋯⋯国をでることにしたんだ」
ガイさんは困ったように苦笑いを浮かべた。
え?なにかあったのかなぁ?
「うん⋯⋯第六王子ではあるんだが。魔力が桁外れに大きくてな⋯⋯兄さんたちを差し置いて俺を跡目にという勢力が勢いを増してきていて⋯⋯俺は国の王になる気もないから。カークと国を捨てた」
そうなんだ⋯⋯
「そう言う事情で国を出ることもあるんですね⋯⋯お兄様達は⋯⋯止めたりは?」
ガイさんはフッと笑うと
「むしろ命を狙われたよ⋯⋯」
えっ?!
あたしはびっくりして2人を見た。
「やっぱりさ、力の強い者が弟だと邪魔って思うんだろうね。ガイは格別だったからね⋯⋯」
カークさんはそう言ってガイさんを見る。
あたしは息をのんだ。
「命を、狙われた⋯⋯?」
王子様だなんて華やかな響きからは想像もつかない、ドロッとした現実。
「だから二人で国を出たんですね⋯⋯」
あたしがぽつりと呟くと、ガイさんは
「まあな」
と肩をすくめた。
「身内に命を狙われるなんて、うんざりだったからな。俺は戦うのが嫌なわけじゃない。ただ、身内同士の醜い権力争いに興味がなかっただけだ。カークに頼んで、2人で上手く国を抜け出してきた」
「もう、大変だったんだからね?」
カークさんが大げさにため息をつきながら、ガイさんの肩をポンポンと叩く。
「城は安全じゃなかったから⋯⋯食べ物にも毒が入っていたり⋯⋯刺客もね⋯⋯ガイを連れて夜逃げ同然だよ。僕だって一応側近だからね、この我儘王子に付き合って命がけで逃げ出したってわけ」
「我儘は余計だ、カーク」
ガイさんは呆れたように目を細めたけれど、その表情にはカークさんへの深い信頼が滲み出ていた。
命を狙われて国を追われたという重い話なのに、二人の間にある絆の温かさが伝わってきて、あたしの胸の奥が少しキュッとなった。
「⋯⋯2人ともそんな大変なことが⋯⋯」
「まぁねぇ」
カークさんがふふふっと笑った。
「でもさ、結果としてこうして旅ができて、ゆあにも会えたんだからさ!怪しい毒も刺客も悪くなかったかな~なんてね!」
能天気に笑うカークさんに、ガイさんが
「おい、毒はさすがに笑えないだろ」
と苦笑交じりにツッコむ。
身内に命を狙われるなんて、想像するだけで恐ろしいし凄絶なはずなのに。
二人の掛け合いがあまりにも普段通りで、あたしは思わずクスッと笑ってしまった。
「でも、本当によかったです。二人が無事で⋯⋯」
しみじみと言うと、ガイさんは少し照れくさそうに視線を泳がせ、それから真面目な顔であたしを見つめ直した。
「⋯⋯で、さっきのギルドでの話だ」
「北の最果ての村……でしたっけ?」
「あぁ。ガイダール国のさらに北、最果てにあるっていう『異世界』の噂だ」
ガイさんは腕を組んで、深く頷く。
「俺たちがいた頃はそんな噂聞いたことがない⋯⋯」
ガイさんがそう言ってあたしを見る。
え?ガセネタってこと?
「でもさぁガイ。20年も前の話だろ?結構たってるからなぁ」
カークさんがそう言うと、ガイさんは頷いて
「なるほどな。20年も経てば色々なことが変わるよな⋯⋯」
んんん?!
「ちょ、ちょっと待ってください⋯⋯ガイさん、カークさん⋯⋯20年って⋯⋯一体何歳のときに国を出たんですか?!」
どうみても20代にしか見えない2人を見つめあたしは尋ねた。
「ん?8歳か?ガイは⋯⋯7歳か?」
カークさんがケロッと答えた。
えええええ?!
8歳と7歳?!
何事もない顔で⋯⋯
⋯⋯いやいやいや!
「ええええええっ!? 8歳と7歳!? ランドセル背負ってる年齢じゃないですか!?」
「らんどせる⋯⋯? よく分からんが、子供の頃だったのは確かだな。城の抜け道を使って、2人で走って逃げたんだ」
ガイさんが懐かしそうに目を細める。
⋯⋯ちょっと待って。情報量が多すぎて頭が追いつかない!
「じゃ、じゃあ⋯⋯毒とか刺客とかって、そんな小さい頃の話なんですか!?」
「そうだよ〜。ガイのスープに怪しい薬が入ってたりね。僕が『これなんか変な匂いする〜』って気づいて捨てたりしてさ。あの頃は僕も命がけの警護だったなぁ」
「お前がたまに毒見の真似事をして腹を壊していただけだろ」
「ひどいなぁ! 命の恩人に向かって!」
ケラケラと笑い合う2人。
凄絶すぎる。凄絶すぎるけど、それって20年も前の出来事!?
「ってことは、おふたりは今30代くらいですか?」
あたしが恐る恐る尋ねると、ガイさんは
「まあ、そうなるな」
と事もなげに言った。
「国を出てからは、いろんな街を渡り歩いて冒険者をやってたんだ。腕も磨けたし、自由で悪くない生活だよ」
20年間も……!
2人で助け合いながら、この広い世界を生き抜いてきたんだ。
命を狙われたトラウマや恐ろしさを、20年という年月と2人の絆で乗り越えて⋯⋯
あたしが言葉を失っていると、カークさんが優しく微笑んだ。
「結構すごいでしょ?」
「結構どころじゃないですよ!! 超ハードモードじゃないですか!!」
あたしは思わず机をバァン!と叩いて立ち上がっていた。
「7歳と8歳って! あたしがその歳の頃なんて、公園で泥だんご作ったり鬼ごっこしたりしてましたよ!」
「なにそれ?どろだんごって!」
カークさんが笑いながら尋ねる。
「泥を集めて、ぎゅっぎゅって丸めて、さらさらの砂をまぶして磨くと光る泥だんごができるんです!」
あたしが身振り手振りを交えて熱弁すると、カークさんは目を見開いて
「へぇ〜! 土が光るの!?」
と子供みたいに目を輝かせた。
「楽しそうな子ども時代だな」
ガイさんが微笑む。
そうなんだ⋯⋯あたしがいた国は平和⋯⋯
あたしが黙っていると。
カークさんがあたしの頭を撫でる。
「平和はいいことだよ?ゆあの世界は平和なんだね」
カークさんの手が、あたしの頭をポンポンと優しく叩く。
そのぬくもりが温かくて、胸の奥にじんわりと広がっていく。
「そうだな」
ガイさんも腕を組んだまま、どこか愛おしそうにあたしを見つめて頷いた。
「それで、北の最果ての村だが⋯⋯行ってみる価値はありそうだな」
ガイさんがそう言ってカークさんを見る。
「うん。ただ遠いけどねぇ〜頑張ろう!」
カークさんが背伸びをしてそう言った。
「いいんですか?そんな遠くまで⋯⋯」
申し訳ない気持ちが生まれる。
2人はこんなに苦労して今ここにいるのに⋯⋯
あたしなんかのお願いを聞いてもらうなんて⋯⋯
「なに言ってるんだ」
ガイさんが呆れたように息を吐き、口角を上げた。
「あのねぇゆあ?いま、自分なんかのために⋯⋯とか思った?」
カークさんがあたしの顔を覗き込む。
ガイさんはあたしの頭をコツンと小突く。
「ゆあ、そんなことを思う必要はない。俺たちは自分達の意思で行動しているからな」
「そうだよ〜そんなこと気にしないで?そんな治癒の能力者と冒険できるなんて、逆にこっちはウハウハなんだから〜ふふふ」
カークさんはそう言ってあたしの頭を撫でる。
2人の温かい気持ちに触れた⋯⋯
「2人ともありがとうございます!あたし、元の世界に戻れるならやっぱり戻りたい」
あたしが呟くと、2人はニッコリ笑って
「もちろん!そのために行ってみよう!北の最果てにさ!」
カークさんは頷いた。
「ありがとうございます!!」
「まぁ、あと少し鍛えたほうがいいな。ゆあ。」
え⋯⋯
そっちに話持ってかないでー!




