ルティアの町につきました
「わぁ⋯⋯想像より全然おおきい⋯⋯」
馬車を降りたあたしの目の前に広がっていたのは、今までいた村とは比べものにならないくらい大きな町だった。
立派な石造りの建物が並んでいて、通りには人がいっぱい行き交ってる。
夕日に照らされた街並みが綺麗で、なんだかテーマパークに来たみたい!
すごい!
「ふふ、驚いた? ここは『ルティア』っていうこのあたりで一番大きな交易都市なんだよ」
カークさんが並んで歩きながら教えてくれる。
「まずは今日の宿を確保しよう。僕たちがここに来たらよく使う宿屋があるんだ」
ガイさんが先頭を切って歩き出し、あたしたちは賑やかな通りを進んでいった。
辿り着いたのは、少し路地に入ったところにある落ち着いた雰囲気の宿屋。
カランコロンと鈴を鳴らして扉を開けると、カウンターの奥からドシッとした貫禄のあるおじさんが出てきた。
「おう、カークにガイじゃねえか。久しぶりだな」
「やあ、ゴルドさん。部屋空いてる? 今日は連れが一人増えたんだけど」
カークさんがあたしをチラッと見る。
「あぁ?」
そう一言⋯⋯
頑固親父って感じのゴルドさんは、腕組みをしたままジロリとあたしを見下ろした。
ひっ!⋯⋯なんか怖そうな人⋯⋯!
すると――
ふっと、ゴルドさんの頭の上に文字が浮かび上がった。
『皆様に最高のおもてなしをしないとね★喜んでくれるといいなっ!』
⋯⋯見た目、厳ついのに⋯⋯
そ、そんなこと思ってくれてたんだ!!
ギャップがすごすぎるよおじさん!!
「部屋2階な」
そう言って鍵をガイさんに渡す。
あたしは思わずクスッと笑いそうになるのを必死でこらえて
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
と深々と頭を下げた。
「よし、部屋に荷物を置いたら夕飯にしようか! ここの料理、すごく美味しいんだよ〜」
カークさんが嬉しそうに言う。
「ああ。特に肉料理が絶品だ」
ガイさんも頷く。
あ⋯⋯
ちょっとまて⋯⋯
肉料理⋯⋯あ、そういえば!!
あたしはピクッと眉を動かして、2人をじっと見つめた。
「ちょっと2人とも? まさか今日の夜は『生肉』食べたりしませんよね⋯⋯?」
『ゲッ⋯⋯』
2人の声が綺麗にハモった。
やっぱり狙ってたな生肉!
「火を通したの! 絶対ですよ!」
『⋯⋯はぁい』
ほんっとに、仲いいな⋯⋯
「ほら、ちゃんと焼いてあるよ〜」
テーブルに運ばれてきたのは、こんがりと香ばしいキツネ色に焼かれた大きな肉料理。
特製のタレがジューシーに弾けていて、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「ゴルドさん、ありがとうございます!」
「⋯⋯おう。残さず食えよ」
相変わらず強面で素っ気なく立ち去るゴルドさん。
さっき宿に入ったときに『最高のおもてなしをしないとね★』
っていう乙女な心の声が見えちゃっていたから、このコワモテな顔を見ているだけでじわじわきてしまう。
あたしは思わず吹き出しそうになるのをグッとこらえて、フォークとナイフを手に取った。
「いただきまーす!」
一口食べると、お肉が柔らかくて肉汁がジュワッと広がる。
「ん〜〜っ!! おいしいっ!!」
「だろ? ここの焼き加減は絶品だ」
ガイさんがフッと口元を緩める。
……というか、ガイさんの手の甲には、さっきあたしがボールペンで描いた『黒うさぎ』と『赤くま』がそのまま残ってる。
クールなイケメンの手に、シュールすぎるキュートな落書き。
「ねえガイさん、それ洗っても落ちなかったですか?」
「ん? これか⋯⋯綺麗に描けてるからな。しばらくこのままでいい。このまま消えなくてもいい」
真顔で言うから余計にシュールだよ!!
お腹いっぱいになって、カークさんの部屋に集まった。
「さて、お腹もいっぱいになったことだし……明日からのこと、少し話しておこうか」
カークさんが真面目な顔になって、あたしを見た。
「ゆあ。明日はこのルティアの町で、色々聞き込みをする。あとは、ギルドの依頼も見てみよう〜」
「ああ。『魔力∞』のことと『短剣』のことは絶対に他人に喋るなよ。冒険者カードを見せるのも厳禁だ」
ガイさんが真剣な目で釘を刺す。
「そうだね。僕たちが一緒だから大丈夫だけど、目立ちすぎると変な奴に狙われかねないからね。ゆあは冒険者だけでなく、力のある者が喉から手が出るほど欲しい存在だよ?」
治療のこといってるよね?
お腹の下痢をヒールで治したこと⋯⋯
ヒールは普通怪我の治療しか聞いたことないって話。
「治療のこと言ってますよね?」
あたしが小声で確認するように尋ねると、カークさんとガイさんは真剣な顔で頷いた。
「そう。さっきも言ってるけどヒールでお腹の調子まで万全に治すなんて話、聞いたことがないからね。『ヒール』は外傷を塞ぐ魔法なんだ。内臓の疾患や毒、病気を完治させられる治癒士は、国や大貴族が必死で囲い込もうとするレベルなんだよ」
カークさんが真剣な顔であたしを見た。
「そうだ。ゆあのそれは普通のヒールじゃない可能性がある。もし『何でも治せる』なんて知られたら、自由なんて一瞬でなくなるぞ」
ガイさんが静かだけど重みのある声で付け加える。
……ひえぇ、恐ろしすぎる!
あたしとしては、下痢もお腹のケガみたいなものでしょ!くらいの感覚で使っただけなのに、そんなヤバい能力だったなんて⋯⋯!
「だ、絶対に誰にも言わないし、簡単に使いません!!」
あたしが両手をぶんぶん振って主張すると、カークさんはほっとしたように笑った。
「ふふ、分かってくれればいいんだよ。まあ、僕たちがいるから大丈夫! 今日は移動長かったから疲れたでしょ? 部屋に戻ってゆっくり休もう!」
「ああ、しっかり寝ろ」
ガイさんも立ち上がりながらそう言ってくれた。
「はーい! お二人とも、おやすみなさい!」
あたしはゴルドさんから預かった部屋の鍵を手に、二階の部屋へと向かった。
部屋に入り、カギをしっかりと閉めてからベッドへとダイブする。
ふかふかのシーツからは、なんだかお日様みたいな良い匂いがした。ゴルドさん、やっぱり
『最高のおもてなし★』
を裏で全力で発揮してくれてる!!
「明日も、がんばろ……」
大きな街『ルティア』での情報収集と、初めてのギルド依頼。
明日の冒険にワクワクとちょっぴりの緊張を抱えながら、あたしはそのまま深い眠りについたのだった。




