表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

8 身の安全の確保

 入浴後、ソラが風呂場から出ると、キイが近づいてきて告げる。


「ソラ様、お食事はこちらです」


 ソラはお客様扱いに慣れておらず、どうにも落ち着かない。とりあえずキイに話しかける。


「キイさん、ありがとうございます。質問していいですか? コーヒーを出していただいたときに、どうしてボクの名前をご存じだったのですか?」

「念話でマスターから指示されていたからです」


「この家には、他にどんな方がいらっしゃるのですか?」

「マスターとワタシの二人だけです」


 ソラの質問に対して、キイは流暢に答えた。


 ――やはり人間にしか見えないなあ。


 ソラは混乱しつつもキイの後ろを付いていき、食堂に入る。

 テーブルの上には料理が並べられており、ジンが椅子に座っている。


「風呂はどうだったかの?」

「ありがとうございます。快適でした」


 ジンに感謝の言葉を述べ、ソラはテーブル反対側の椅子に座った。


「坊やは育ちざかりじゃから、牛ステーキにした。主食はコメという穀物を炊いたものじゃ。ご飯とかライスと呼ぶ。食べやすいようにガーリックで炒めてある」


 ソラはご飯を見たことがなかったので、ジンの説明を興味深く聞いていた。


 さっそく、スプーンでご飯をすくって一口食べる。おいしい。じんわりとした甘みと塩気とガーリックの香りの絶妙なバランス。

 ステーキは口の中でとろける。なんだこれ。孤児院で食べる肉とは何もかも違う。

 ソラは夢中になって食べた。


 食べ終わると、キイがデザートのシャーベットを運んできた。


「デザートでも食べながら、今後のことを話そうかの」


 ジンは、魔導具を操作して、食堂の空中に文字を映し出す。


1:身の安全を確保

2:周りとの相互理解

3:数学の勉強

4:具体的な課題の発見と解決

5:数覚スキルの研究


「これらが、今後、坊やに必要となる。まず一番は身の安全確保じゃ」


 ――身の安全確保?


 ピンとこないソラに、ジンが諭すように言う。


「数覚スキル持ちは、今のところ30名の転移者と坊やだけじゃ。該当する転移者は一番若くても57歳。数年経ったら引退。つまり、今後、新しい魔導具を作れる可能性のある人間は坊やだけになる。このことを各国の偉いさんや犯罪組織が知ったら、どうなると思う?」

「脅迫や誘拐してでも囲い込みますね」


 ジンの質問に、ソラは身ぶるいして答えた。


「加えて、坊やはワシの養子でもある。これでも王国で十指に入る金持ちなのでな。誘拐して身代金を要求するといった犯罪もありえる」

「身の安全確保が必要なことが十分理解できました」


 ――昨日までは、どこにでもいる孤児だったのに。


 ソラは自分の立場の変化に恐怖を覚えた。

 青ざめた表情のソラを見ながら、ジンは断言する。


「安心せい! 数覚スキルは偽装で隠すことができるのじゃ。このネックレスを付けていれば、鑑定の魔導具を騙せる。これには、致死性の攻撃への防御と緊急通報機能も付いている」


 ジンは、棚からネックレスを取り出して、ソラに渡した。


「それと、坊やがワシの養子になったことは、当面秘密じゃ。孤児院の院長にも口止めしている。これでどうじゃ」

「ここまで気を使っていただければ、安心できます」


 ジンの説明を聞き、ソラは安堵の表情を浮かべた。

 ジンは続けて言う。


「ワシが教えられる時間は限られているから、来週からはジンノ村の商業ギルドで働いてもらおうか。商業ギルドには寮があるので、そこに入れば身の安全も確保しやすいしのお」


 ――働くのは楽しみだけど、一人暮らしだと寂しいから、できれば、この家から通いたいなあ。


 ソラの不安を見透かしたように、ジンが付け加える。


「すまんが、この家から商業ギルドに通うのは無理じゃ。ここに来るときに、塀も門も護衛もないのに気づいたかのお?」

「はい。大金持ちの家としては物騒だなと思いました」


「ありとあらゆる魔導具を張り巡らせて、勝手に来られないようにしてある。坊や一人でも来られるように設定を変えると、悪人が付いてくる危険があるのでな。悪く思わないでくれ」


 ソラが通うために、ジンの身を危険にさらすわけにはいかない。

 ソラは納得し、分かりました、と答えた。


「一番の身の安全の確保に関してはこんなものかのお。何か質問はあるか」


 ソラはジンが孤児院に現れたときを思い出しながら、尋ねる。


「師匠が孤児院に立ち寄られたときに、珍しいスキルが見えたとおっしゃっていたと思うのですが、それへの対策はどうなのですか?」


「ああ、車からステータスを使って、坊やのスキルを見たのお。ステータスでは正確なスキルは分からないから、さっきは説明を省いたが、このネックレスには微弱な魔導波を常時出して、詳細なステータスを読めなくする機能がついておる」


 ――魔導波ってなんだろう。


 ソラが悩んでいる様子を見て、ジンは魔導波について解説する。


「魔導波というのは、ノマスのありとあらゆる生物、物質が周りに出す信号のことじゃ。魔法を伝える媒体でもある。ステータスでは、対象とする人物が出す魔導波を分析して、その人物がどんな状態かを知らせる。だから、ネックレスの魔導波で妨害することができるのじゃ」


 ジンの解説で、ソラはステータスと鑑定の違いが分からなくなった。

 ジンは続けて言う。


「ステータスと鑑定の違いも説明しておこうかの。どちらも対象とする人物を調べるものじゃが、調べ方が違う。ステータスはさっき言った通り、対象とする人物が出す魔導波を分析する。一方、鑑定は魔導波をその人物に当てて、その反応として発生する魔導波を分析する。当然、鑑定の方が詳細な情報を取得できる」


 ――たとえれば、熱っぽいから風邪と判断するのがステータス、喉に光を当てて赤く見えるから風邪と判断するのが鑑定といったところか。


 ソラはジンの解説に納得し、ありがとうございます、と答えた。

 別の質問を口にする。


「このネックレスを動かすための魔石は、どうやって補充するのですか?」


 ソラが知っている魔導具は、魔石を入れるケースを備えるか、魔石ボックスという箱と魔導線で繋いで動作させる。このネックレスには、魔石ケースも魔導線も見当たらず、動くのが不思議に思われた。


 ソラの質問に対して、ジンは答える。


「そのネックレスには超小型の魔石を埋め込んである。ノマスには魔素があるので、それで魔石を補う仕組みじゃ。魔法使いの自然回復を人工的に再現したものじゃな」


 ジンの回答で、ソラは孤児院の授業において、ノマスの生物は魔素がないところでは生きられないと習ったことを思い出す。


「魔石の補充がいらないのはいいですね。でも、連続動作させると周りの魔素が薄くなって、息苦しくなるのではないですか?」


「ステータス妨害での魔石消費は僅かなので問題なかろう。偽装が発動するのは鑑定された一瞬だけじゃ。致死性の攻撃を受けた場合は、その瞬間に防御と緊急通報が発動する。連続動作するのは攻撃が続くときだけなので、魔素が薄くなっても構わんじゃろう」


 ジンの説明を聞き、ソラは安心し、納得しました、と答えた。

 最後の質問を口にする


「ちなみに、このネックレスの値段はいくらくらいなのですか?」


 ジンはちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて答える。


「10億円ぐらいかのお。さっき乗っていた魔導車と同じくらいじゃ」


 ソラは、ひっ、と軽く悲鳴を上げて、持っていたネックレスをテーブルに落とした。


 ――壊れたらどうしよう。


 怯えて固まっているソラに、ジンは笑いかけた。


「そのくらいでは壊れないので、安心せい。犯罪に使われないように、値段を高めに設定している。王都に小さい家が買えるくらいじゃ。坊やのスキルの価値はそんなものではないがのお」


 ソラは、こわごわとネックレスを拾い上げ、じっと眺める。


 ――これ一つで、王都に家が買えるのか。


 ソラが落ち着くのを見計らって、ジンは言う。


「では、次の話に行こうかの。デザートのお代わりはどうじゃ?」

「ありがとうございます。いただきます」


 ソラが答えるやいなや、キイが二人の皿を下げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ