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31 ノース公爵領

 気がついたときには、ソラは空を飛ぶ乗り物に乗っていた。

 ソラは、隣に座っているジンに尋ねる。


「直轄領から師匠の家に戻るところだったのではないですか?」


 ジンはさらりと事情を告げる。


「直轄領から滑走路に行き、車からジェット機に乗り換えたのじゃ。滑走路の場所は知らない方がよいじゃろう」

「また、そのパターンですか」


 ソラは自分の記憶が消されたことに憤慨したが、安全性を考えれば仕方ないかと、気を取り直して、ジンに話しかける。


「王都観光は楽しかったですが、一週間もかけて直轄領を回ったのに、空振りだったのは残念でしたね」

「そうじゃな。25か所もあったがのお」


 ソラは、窓の外の景色を興味深そうに眺める。


「空を飛ぶのは初めてです。鳥はこんな風に見ているのですね。下の方に見えるのは王都ですか」

「そうじゃな。近くに行くと迎撃されるから、これ以上は近づかないがの」


ジンの解説に対して、ソラは、人間同士で争うのはやめてくださいね、と応じた。


「ノース公爵領まではあと30分くらいかのお。それまで空の景色を楽しむがよい」


「着陸するあたりで記憶がなくなるのですね?」


 ソラが確認すると、ジンは、すまんの、と返した。


 前方に山脈が見えてきた。次第に大きくなる。

 ソラは高鳴る胸を抑えつつ、ジンに尋ねる。


「あの山脈が国境ですか?」

「そうじゃ。山脈は東西と北に伸びておる。手前の南側がワシらの住む王国、北東側が帝国、北西側が皇国じゃ。山脈が三つに分かれていることから、陸地全体はトライデント大陸と呼ばれておる」


 ソラは、山脈を構成する山々を見つめる。山の端の優美な曲線に魅入られる。なんて美しいんだろう。なにかの感覚が刺激されるような気がする。これを見ただけでも来た甲斐があった。


 ずっと山脈を見ていたように思うが、次に、ソラが気がついたときは、魔導車の中にいた。


 ――もっと、山脈を見ていたかったのに。


 ソラは不満を覚えたが、余分なことを知って命を狙われるよりはましか、と気持ちを切り替える。


「魔導車に乗り換えて、ノース公爵領にあるワシの別荘に向かっているところじゃ」


 隣に座っているジンが状況を解説した。ソラは、分かりました、と返した。


 車の周りの景色が林から草原に変わる。植物が少なくなってきたあたりで、長い塀と門が見えてきた。


「あれがワシの別荘じゃ」


 屋敷の敷地は100メートル四方。下級貴族の館くらいはありそうである。


「ジンノ村の家よりもだいぶ大きいですね」


 ソラが感想を述べると、ジンは首を振って否定する。


「いや。家はジンノ村と全く同じじゃ。防御のため、塀と家の間に多種多様な魔導具を配置しておる」


 門を入ると、広い庭の中に小さい家があった。


「たしかに、同じ家ですね」


 ソラは、ジンの説明に同意した。


 車は、家のそばで止まった。ドアが自動的に開く。

 ジンは、車を降り、ソラはそれに続いて降りた。


「まだ、時間が早いから、遅い昼食にして、その後、一か所くらい行こうかの」


 ジンの提案に、ソラは、分かりました、と応じた。


 二人は玄関に入り、靴を脱いで、応接間に向かう。

 応接間のソファに向かい合って座った。


 しばらくして、キイが部屋に入ってきて告げる。


「マスター、ソラ様、昼食の準備ができました」


 二人は、食堂に移動する。

 テーブルの上には、サンドイッチとコーヒーが置いてあった。


「ありあわせの食材で簡単なものですが」


 キイが恐縮そうに付け加えると、ジンは、問題ないぞ、と返した。


 ソラは椅子に座り、サンドイッチを手に取って口に入れた。おいしい。これで簡単というのだから、どれだけ凄腕なんだか。ソラは感心した。


 コーヒーを飲んだ後、二人は応接間に戻った。

 しばらくすると、キイが部屋に入ってきた。


「出かける準備ができました」

「よし、坊や。出かけるとするかのお」


 二人は立ち上がると、玄関に行き、靴を履いて外に出た。


 庭には、キャンピングカーが停まっている。


 ジンがドアを開け、キイが運転席、ジンとソラはその後ろの席に乗り込んだ。


「ノース公爵領でスキル持ちが見つかるといいですね」


 ソラが、ジンに声を掛けると、ジンは、そうじゃな、と返した。


 車が動き出す。門を出て、山に近い孤児院に向かう。

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