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30 孤児院訪問

 翌朝、ソラが身支度を整えて応接間に行くと、ソファに座っているジンと目が合った。


「坊や、眠れたかの」

「おはようございます、師匠。はい、よく眠れました」


 ソラは、ジンに挨拶し、ジンと反対側のソファに座った。


「昨日出した孤児院への問い合わせの結果がまとまった。候補の孤児院は100か所、候補者は合計で110人じゃ」


 ジンの報告で、ソラは実際に回れるのかどうか心配になった。


「一日で何か所くらい回れるのですか?」

「近くにあれば、一日で四か所は行けるが、遠方だと移動の時間が一日くらいかかるのお」


 ソラは王国の地図を思い浮かべる。


「え、王国って、南北800キロ、東西2000キロくらいあったと思うのですが」

「遠方へは、人を乗せて空を飛べる魔導具で移動する。ジェット機と呼んでおる。時速1000キロで飛べるぞ。各公爵領にワシの別荘があるから、そこを起点に孤児院を回ることになるのお」


 ジンは少し得意げに話した。


「すごいですね。ということは、候補の孤児院を全部回ると一か月くらいかかるということですね」

「そうじゃ。さすがにそこまでは時間を掛けられないから、半分くらい回って見つからなかったら、やり方を改めることにしようかの」


 ジンの提案に、ソラは、はい、分かりました、と応じた。


「さて、どう回ろうか。ここから一番近い直轄領が一番最初でいいじゃろう。その後、どこに行きたいかの?」


 ジンの質問に対して、ソラは少し考えて答える。


「直轄領の後は、北端のノース公爵領に行きたいです。ミスリル鉱山を見たいということもありますが、なんとなく数学と相性がいい土地というイメージがあります」

「奇遇じゃのお。ワシも直轄領の次はノース公爵領がいいと思っておった」


 二人の意見が一致したことで、当面の訪問順番が決まった。


「必要な機材はもう車に積んである。朝食を食べたら、さっそく直轄領の孤児院に出かけようかの」


 ジンがそう言った後、すぐにキイが部屋に入ってきて告げる。


「マスター、ソラ様、朝食の準備ができました」


 二人は食堂に移動した。テーブルには目玉焼きとトーストが並べられている。

 ソラは椅子に座り、いただきます、と言って、料理を口にした。


「商業ギルドの寮にいたとき、自分で作って分かりましたけど、こんなシンプルな料理でも師匠の家だとすごくおいしいですよね」


 ソラが料理の感想を述べると、ジンはにこやかに応じる。


「ジンノ村でも王都と遜色ない食材が手に入るが、ワシのところで使っているのは最高級品じゃ。おまけにキイの調理の腕が、一流コックなみだからのう」


 そばに立っているキイが一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた。


 食事が終わると、キイがコーヒーカップを運んできた。


「マスター、ソラ様、コーヒーをお持ちしました」

「キイさん、ありがとうございます」


 ソラは礼を言ってカップを受け取り、コーヒーを口にする。

 コーヒーを飲みながら、ジンが口を開く。


「家を出る前に、孤児院での段取りを確認しておこうかの」


 ジンの説明によると、数覚スキル探しの段取りは以下の通りである。


A:ジンが院長に挨拶し、候補者を呼んできてもらう

B:キイが候補者を車の後ろのベッドに寝かせる

C:ソラが候補者と念話を繋ぐ

D:候補者に悪夢を見てもらう

E:鑑定の魔導具で数覚スキルが発現したか調べる


「安全のため、ソラは車の助手席に隠れておれ。それとスキル発現を促すため、念話中は偽装のネックレスは外しておけ。代わりに車の外側に偽装を掛ける」


 ジンは、そう言って段取りの説明を終えた。

 ソラは、分かりました、と返した。


 コーヒーを飲み終えた二人は、キイと一緒に玄関に行き、靴を履いて外に出た。


 庭には大型の車が停まっていた。

 ジンが車の後ろの開閉部を開けながら説明する。


「これはキャンピングカーという種類の魔導車じゃ。後ろにベッドを置いている」


 ジンがドアを開け、キイが運転席、ジンとソラはその後ろの座席に座った。


「よし、出発するかの」


 ジンの掛け声とともに、車は滑らかに動き出した。


「直轄領のどこにいくのですか?」

「まずは、王都に一か所あるから、そこにするかの」


 ――王都! やった。


 王都に行ったことがないソラは、ウキウキした表情を浮かべた。


 車はジンノ村を抜けると、王都への舗装道路をすごい速度で進む。


「これ、時速100キロくらい出てませんか?」


 ソラがおそるおそる尋ねると、ジンは感心したように答える。


「物の個数だけでなく、速度も見るだけで分かるのか。やるのお」


「さすがに速度は見ただけでは分かりません。道路脇の木までの距離をそれを通りすぎる時間で割りました。物の個数と比べると、距離と時間の見積もりはあまり得意ではないので、計算結果の速度にも誤差があると思います」


 ソラは速度を求めた方法を明かした。

 ジンはソラの説明に補足する。


「いや、ちょうど時速100キロじゃ。王都まで1時間じゃな」


 ソラは、道路に目を向ける。


「この速度だと、道路の上に大きなゴミがあると走れないと思うのですが、全然ないのはなんでですか? 木の枝や魔物の死骸くらい落ちてそうなものですが」


「道路脇に魔物除けを置き、無人で清掃する車を定期的に走らせておる」


 ソラの質問にジンが答えた直後、運転しているキイが報告を上げる。


「マスター、前方1キロに害意を検出しました。警戒モードに入ります」


 キイの報告を聞き、ソラはジンに尋ねる。


「何が起こったのですか?」

「盗賊じゃな。よくいるぞ。害意があると魔導具の効果で道路には上がれないから、道路脇から飛び道具で狙ってくることが多いのう」


 ジンはこともなげに答えた。

 キイは報告を続ける。


「500メートルに接近。魔導弾が来ます」


 運転席の前面の透明パネルで、コツンという音がした。


「時速100キロの車の運転席を狙えるとは、いい腕じゃ。だが、普及版の魔導銃ではのう。手を出した以上、反撃はさせてもらおうかの。キイ、武器破壊せい」


 ジンは、キイに指示を出した。キイは、承知しました、と応じた。


 車前面から細い光が照射され、狙撃に使われた魔導銃に当たる。

 たちまち、魔導銃は狙撃者の手の中で粉々になる。


 呆然としている狙撃者は、あっという間に視界から消えた。


 ジンは、ソラに話しかける。


「坊やは盗賊に会うのは初めてだろうから、伝えておこうかの。盗賊に襲われたときに、反撃するのは法律で認められておる。こういうときにためらうようだと、死ぬことになる」


 ソラは、それはそうだと思いながらも、割り切れなさを感じていた。


「でも、生活が苦しくてやむを得ず盗賊になった人もいるんじゃありませんか?」

「いるじゃろうな。だからと言って、盗賊が許されるわけではない。下手な情けは無用じゃ」


 ジンは一息おいて続ける。


「さっきの襲撃は同情の余地もないぞ。普及版とは言え、魔導銃は1000万円はする。それだけの金と技能があれば、冒険者でもなんでもまっとうな仕事ができるじゃろう」


 ジンの説明に、ソラは納得して、分かりました、と返した。

 ジンは最後に付け加える。 


「悪質だから射殺してもよかったんじゃが、報告と片付けが面倒なのでな」

「そこまでドライに割り切れないと、生きられないのですか!」


 ソラは王国の周辺部の治安がここまで悪いことに、おののいた。


「だからこそ、治安のよい王都が人気になるわけじゃ」

「商業ギルドで働いている女性はジンノ村を絶賛していました」


 ソラが、ジンノ村の評判を伝えると、ジンは嬉しそうに笑い、そうか、と言った。


 二人が話をしているうちに、巨大な城壁が遠くに見えてきた。


「あれが王都の城壁じゃ」

「すごいですね」


 ソラが感心してぼーっと見ているうちに、城壁は次第に近づいてきた。


 車は速度を落として、入口の門に向かう。


「城壁の高さは20メートルくらいありそうですね」


 ソラが城壁を見上げて言った。

 ジンは、その通りじゃ、と応じた。


 門で一旦止まり、キイが衛兵に許可証を見せ、中に入る。


 城壁の内側は、大都会であった。

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