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27 意志

 ソラが商業ギルドの建物を出ると、走ってきた魔導車がその前の道路にぴたりと止まった。


 魔導車のドアが音もなく、すうっと開く。


「乗ってください」


 運転席に座っているキイに促され、ソラは魔導車に乗り込む。

 ドアが自動的に閉まり、発車する。


「ソラ様、ご無沙汰しています」

「お久しぶりです、キイさん。よろしくお願いします」


 二週間ぶりに会ったキイと挨拶を交わした後、ソラは窓の外に目を向けた。

 にぎやかなジンノ村を外れ、車は坂道を登っていく。


「商業ギルドにいたとき、ジンノ村の外周道路を散歩したことがあるんですけど、この坂道がどこにあるか全然分かりませんでした」


 ソラが独り言のようにつぶやくと、キイが応答する。


「申し訳ありません。ワタシには認識阻害の魔導具が働かないので、どう分からないか分かりません」


 ソラは、あわてて、変なことを言ってすみませんでした、と詫びた。


 車はジンの家の庭で止まった。

 ドアが開き、ソラは車を降りる。キイの後ろを歩き、玄関を入る。


 ――そうそう、ここで靴を脱ぐんだった。


 久しぶりにジンの家を訪問したソラは、日本のマナーを思い出し、靴を脱いだ。


 廊下を抜けて応接間に入ると、ジンが座っているのが見えた。


「坊や、久しぶりだな。座って、何か飲まんか」


 ジンに勧められ、ソラは、ソファに座り、コーヒーをお願いします、と答えた。


 すぐにキイがコーヒーカップをトレーに乗せて持ってきた。


「マスター、ソラ様、どうぞ」

「キイさん、ありがとうございます」


 ソラはキイにお礼を言うと、コーヒーカップを持ち、一口飲んだ。すごくおいしい。コーヒーは、商業ギルドで休憩の時に何度か飲んだが、味の深みが全然違う。


「師匠の家のコーヒーはすごくおいしいです」

「ほう、コーヒーの味の違いが分かるようになったか」


 ジンに感心され、ソラは気恥ずかしい気持ちになった。すみません、全然詳しくないです。ソラは内心でそうつぶやいた。


 ジンはコーヒーを飲みながら、本題に入る。


「さて、坊やの今後の話をしようか。独立して会社を立ち上げるんじゃったな。一番重要なのは、坊やの意志じゃ」


 ――何の意志だろう?


 ソラの疑問に答えるかのように、ジンは続ける。


「要するに、会社を作って何をしたいか、ということじゃ」


 ジンの問いかけに対し、ソラはしばらく考えてから口を開く。


「やりたいことは二つです。一つは、現実世界の課題解決です。数覚スキルを活かして誰かの役に立ちたいです。もう一つは、仲間作りです。数学の話ができる同年代の友人やライバルがほしいです」


「お金持ちにはなりたくないのかの?」


 ジンに尋ねられ、ソラは、オフィスの家賃が払えて魔導具が買えれば十分です、と返した。


「そうだとすると、まず数覚スキル持ちを探すのがいいと思うが、どうじゃ?」


 ジンの提案を聞き、ソラは思わず声を上げる。


「そんなに簡単に見つかるのですか! 前に話を伺ったとき、王国生まれではボクしかいないって言ってませんでしたか?」


「ちょっと説明不足だったかの。数覚スキルを発現させる子供を探すんじゃ」


 ジンが補足しても、ソラには、まだ理解できなかった。


「すみません。どういうことか分かりません」


 ソラがすまなそうに伝えると、ジンはスキル発現について説明を始めた。


「スキルはしばしば命がけの行動で発現する。坊やの場合、おそらく5歳のときの魔獣襲撃がきっかけじゃろう。これまで数覚スキルが発現する行動が何か分からなかったから、試したことはなかったが」


 ジンがそこまで言ったとき、ソラが割り込んだ。


「ちょっと師匠、待ってください。もしかして子供を多数集めて、魔物に襲わせようとしていますか?」


「坊や、落ち着け。そんなことをしたら犯罪じゃ。それに、もしそれで数覚スキルが発現するのなら、いまだに魔物の被害が多い王国内で数覚スキル持ちが誕生しているだろうが」


 ジンが解説すると、ソラは、話を中断してすみませんでした、と謝った。

 ソラが落ち着いたのを見て、ジンは話を再開する。


「おそらく鍵となるのは、5歳の坊やが魔獣に対してどう行動したかだろう。それを調べて、子供たちに同じ行動をとらせれば数覚スキルが発現する可能性がある」


 ――師匠の言うことは分かった。けど、それをやろうとすると、あの思い出に立ち向かわないといけないのか。


 表情を暗くしたソラを見て、ジンが語り掛ける。


「坊やにとって、つらいことを思い出させることになる。無理にとは言わん」


 ジンの発言の後、ソラはしばらく考えてから、尋ねる。


「具体的にどうやって調べるのですか?」


「測定する魔導具をつけた状態で横になって、魔獣の襲撃のことを思い出してもらう。ダメージを抑えるため鎮静を掛けるから、半分、眠ったような状態になる。悪夢を見るような感じと言えばよいかのお」


 ――それなら、なんとかなるかもしれない。


 ソラは、少し悩んだが、分かりました、お願いします、と応じた。


 ジンは残りのコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。


「よし、早速、調査を始めるとするかのお。実験室の準備をするから、先に行かせてもらうぞ。飲み終わったら、キイの案内で来てくれ」


 ソラは、分かりました、と返した。

 ジンは部屋を出て行った。


 5分後、コーヒーを飲み終えたソラは、キイに話しかける。


「キイさん、お待たせしました。案内をよろしくお願いします」


 キイは、承知しました、と応じた。

 ソラは、立ち上がって、キイの後ろを歩き、部屋を出た。あれに立ち向かうぞ、と思いながら。

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