26 報酬
鉱山の事故の対応から数日が経った。
受付にいたソラは魔導具でチョウに呼び出された。
ソラは階段を上がり、チョウの部屋のドアをノックする。
「ソラです。失礼します」
挨拶して、チョウの部屋に入る。
「ああ、座ってや」
チョウの指示に従って、ソラはソファに座った。
チョウはソラの向かいに座り、ソラの顔を見て口を開く。
「先日の鉱山の件なんやけど、今のところソラの見込み通りや。ええ感じに進んでるで」
ソラは、それはよかったです、と応えた。
チョウは続けて言う。
「それでな、ソラに臨時ボーナス出そうと思うんやけど」
チョウの申し出を聞いて、ソラは思案する。
――金銭をもらってもいいけど、もっと大きな仕事をしてみたいな。師匠は何て言うかな?意見を聞いてみたいなあ。
ソラがそう考えた瞬間、突然、頭の中で声が響く。
「坊や。何か用かのお」
ソラは、突然の体験に取り乱して、あ~、と変な声を上げてしまう。
チョウは不審そうな表情をして、ソラに話しかける。
「ソラ、どないしたん?」
ソラは、すみません、ちょっとお待ちください、とチョウに返した。
ソラは、頭の中でジンに語り掛けるように、もしもし、とつぶやいた。
「念話は初めてかのお。偽装のネックレスの機能じゃ。本を黙読するようなイメージで、言いたいことをはっきりとした言葉にして思い浮かべてみい」
ソラは、ジンの助言を頼りに、こうでしょうか、という言葉を心に描いた。
「そうそう。で、要件は何じゃ?」
ソラは、これならなんとか会話できそうだ、と安堵し、ジンに状況を説明する。
「先日の鉱山事故でコストの再見積もりをしたのですが、チョウさんからその報酬をもらえることになりました。金銭でもいいのですが、そろそろもっと大きな仕事をしてみたいと思っています。師匠の意見を伺いたいと考えたら、突然、念話が繋がってびっくりしました」
「鉱山の件はよくやった。報酬として、独立して会社を作るのはどうじゃ? 商業ギルドの子会社にすればチョウも納得するじゃろう。準備で一か月休職。オフィス賃料三か月持ちで交渉せい」
ソラは、分かりました、ありがとうございました、とジンに返した。
ソラは、チョウを見て口を開く。
「お騒がせしました。ジン様に念話で報酬の件を相談していました」
「さよか。でどうすんの?」
チョウに促され、ソラは希望する報酬を述べる。
「報酬として、金銭でなく商業ギルドの子会社がほしいです。それと、準備で一か月休職。オフィスの賃料三か月分負担をお願いしたいです」
チョウは、ジンが同意しているとなると反対するわけにもいかず、しぶしぶ応じる。
「分かった。ただ今後も、うちの相談に乗ってくれるやろか」
ソラは、もちろんです、と答えた。
チョウはオフィスについて付け加える。
「商業ギルドの隣の建物の三階が空いてるから、オフィスとして使えるで。家賃は魔石代込みで月40万円。五か月目からソラが払うことになるわ。それでええんやな」
ソラは、家賃ってそんなにするんだ、と思いつつ、はい、と同意した。
「今、お借りている寮は一か月休職中、荷物置き場にしていいですか?」
ソラの問いかけに、チョウは、ええで、と返答した。
ソラは、ソファから立ち上がった。チョウも立ち上がり、お互いに向き合った。
「短い間ですが、チョウさんには大変お世話になりました。今後ともよろしくお願いいたします」
「ああ、鉱山の件は助かったわ。今後もよろしゅうに」
ソラは挨拶を終えると、失礼します、といってチョウの部屋を出た。
ソラは受付に戻ると、テルに向かって話しかける。
「テルさん、ちょっといいですか。ボクは今日で商業ギルドを辞めることになりました。短い間ですが、大変お世話になりました」
ソラの挨拶に対して、テルは驚きの声を上げる。
「え、ソラちゃん、いきなりどうしたの?」
ソラは、さっき決まったことをテルに説明した。
テルは安堵したように言う。
「いなくなるわけじゃなくて、一か月休んだ後、隣の建物に移るのね。それなら、また会えるわね」
「はい。また食事でもご一緒させてください」
ソラの返答を聞き、テルは立ち上がってソラを抱きしめた。
ソラは、照れながら、あわてて周りを見回す。
――お客さんはいないけど、ネタさんが、すごい目つきでこっちをにらんでいる。揉める前に辞めることになってよかった。
ソラは、では、失礼しますと言って、お辞儀をしてテルから離れ、ネタに挨拶して、三階の自室に戻った。
――師匠に報告しないと。
ソラがそう考えた瞬間、再び、頭の中でジンの声が響いた。
「坊やか?」
「はい、師匠。チョウさんに了解いただきました。この後、どうしましょうか?」
「キイに迎えにいかせる。商業ギルド前で待っておれ」
ソラは、急いで美少女服から普段着に着替え、荷物をバックに詰めた。
――ここには二週間しかいなかったけど、テルさんは親切だったし、現実世界のいろいろな課題を解決できたし、楽しかったな。
ソラは、この二週間のできごとを振り返り、それから部屋を出た。




