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21 会食

 二人は目的地のレストランに到着した。


「じゃあ、レストランに入りましょうか。今日は、奮発して個室を予約したわ」


 テルはそう言って、前面がガラス張りで高級感のある建物のドアを開けて中に入った。ソラは、テルの後をついて歩く。


 店員の案内で、店内の大広間を通り抜け、ドアを開けると、こじんまりとした部屋があった。二人掛けのテーブルと椅子二脚、壁には絵が飾ってある。


「じゃあ、ソラちゃん、座りましょ」


 テルの勧めに従い、ソラは椅子に座る。


「パスタコースを頼んであるわ。前菜、メイン、デザート、飲み物が順番に運ばれてくるの」


 ほどなく、前菜が運ばれてきた。

 

 いただきます、と言って、二人は食べ始めた。


「おいしいですね。それに料理の盛り付けがおしゃれです」


 ソラが感想を述べると、テルが応じる。


「たまにはプロが作ったものを食べて、味を真似すると、料理の腕が上がるのよ」


 前菜を食べ終わってしばらくしたら、ノックの音がして店員がメインのパスタを運んできた。


 ソラは、テーブルの上の皿に盛られたパスタをフォークで巻いて口に入れる。


「これもおいしいですね。シンプルなオイルベースのパスタなのに、ソースが絶妙です」


 ソラが感心したように言うと、テルもそうね、と同意した。


 二人がパスタを食べ終わるころであった。

 テルは、ためらいながらソラに話しかける。


「ねえ、ソラちゃんて、いいところのお坊ちゃんでしょ?」


 ソラは、驚いてパスタを食べていたフォークを思わず皿の上に落としてしまう。


 ソラはテルに理由を尋ねることにした。


「え、なんでそう思われるのですか?」


「普通の子供は、少なくても初等部の間は学校に通うわよ。裕福な平民や貴族が学校の代わりに子供に家庭教師を付けることはあるけど、7歳で商業ギルドで働けるようにはならないわ。すごい英才教育を受けてきた大金持ちのお坊ちゃんとしか思えないじゃない」


 テルは、根拠としてヤクの相談の件を挙げる。


「何日か前に、ヤクさんの相談に応えていたのも、中等部の13歳で習う連立方程式よね。公式をどう使うかはもう忘れちゃったけど、ああいった問題を解く方法だったことだけは覚えているわ」


 ――あ~、これはごまかしきれない。


 ソラは観念して、ジンとスキルの名前を伏せつつ、真相を明かすことにした。


「ボクは孤児院出身です。計算を上手にできるスキルを持っています。それをお金持ちの人が気に入って、ボクを養子にしました。スキルを伸ばすため、商業ギルドで修行しています」


 ソラの告白に、テルはやっぱりね、とつぶやいた。


「ソラちゃんを引き取ったお金持ちの人は、会社とか経営してないの?」


 唐突なテルの言葉に、ソラは戸惑った。


「いきなりどうしたんですか?」


 ソラが尋ねると、テルはゆっくりと口を開く。


「私には、たいしたスキルが発現しなかったけど、神託の儀では希望していた事務系のジョブを授かって本当に嬉しかったわ。そのおかげで、ジンノ村の商業ギルドに雇ってもらえたの。周辺の村からすると、ジンノ村の生活は天国よ。平民の給料で王都と遜色ない暮らしができるところは他にないわ」


 テルは、小声で続ける。


「でも、ジン様はご高齢で、先月に情報局長もお辞めになってしまわれたわ。もし、ジン様がお亡くなりになると、後継ぎがいらっしゃらないから、たぶん、どこかの貴族がこの土地を手に入れることになるでしょう。そうすると、ジンノ村がなくなるかもしれないじゃない。だから、替わりに働けそうな会社を探しているの」


 ――そういえば、ジンノ村には住民が1万人もいるって、師匠が言ってたな。師匠が亡くなると、1万人が路頭に迷う可能性があるのか。


 ソラは、ジンの説明を思い出して、ジンノ村の大きさを再認識した。


 ――テルさんになんて答えるのがいいんだろう。まさか、ボクが後継者候補ですと名乗るわけにもいかないし。


 悩んだソラは、会社経営については知らないです、すみません、とテルに答えた。


「まあ、そうすぐには代わりの会社は見つからないわよね。もし、ソラちゃんが大きくなって会社を経営するようになったら、雇ってくれればいいわ」


 テルは冗談めかして願望を口にする。


「あ~、ソラちゃんがあと10歳年上だったらなあ。爽やかで賢くて優しいし。速攻でアプローチしちゃうのに」


 男女の機微にうといソラは、テルの心情がよく分からなかった。とりあえず無難そうなことを尋ねる。


「テルさんはご結婚のご予定はないのですか?」


 途端に、テルは憂鬱そうな表情をした。


 ――あ、全然、無難な質問じゃなかった。


 ソラは反省した。

 テルはゆっくりと話し始めた。


「実家からは、もう18歳なんだから、そろそろ結婚を考えろとせかされているわ。受付にいると、お客様からはチヤホヤされるけど、これと言った人はいないし、商店や工房の女将になるのはどうもピンとこないの」


「商業ギルドの同僚の方はどうなのですか?」


 ソラが尋ねると、テルはふたたび憂鬱そうな表情をした。


「ギルドマスターのチョウさんは、既婚でお子さんが三人いるわ。ネタさんは独身でよく話しかけてくるけど、ちょっと苦手なの」


 ――あ~、テルさんはネタさんと少し距離を置いているように感じていたけど、やはり苦手だったんだ。ネタさんて、なんか少しねっとりしているからなあ。


 ソラはギルド内の人間関係を正しく把握していたことに、ちょっと気をよくした。


 でも、この話題は早く終わらせた方がよさそうだ。ソラはそう考えて話題転換を図る。


「プライベートなことを聞いて、すみませんでした。さっき事務系のジョブを授かったとおっしゃってましたけど、スキルがなくてもジョブってもらえるんですか?」


 テルは、少しあきれたような顔をした。


「ソラちゃんて、詳しいことと知らないことの差が激しいわよね。ジョブは誰でも授かるけど、スキルが発現するのは、全体の35%程度と言われているわ。戦闘系が10%、生産系が10%、商業系が5%、農林水産業が5%、その他の専門職が5%ね。スキルがあれば該当するジョブの上級職に就けるの」


「お世話になった孤児院の院長は、魔法スキル持ちでした」


 ソラが孤児院の院長を例に挙げると、テルはうらやましそうに言う。


「戦闘系スキルは花形よね。騎士や冒険者になれて、危険はあるけど高収入が狙えるわ。早めに引退して後任の指導に回ることもできるし」


 ソラは、そう思います、と返した。


「そういえば、師しょ、じゃなかった、ジン様と言えば魔導具で有名ですが、ジンノ村で魔導具って作ってないんですか?」


 ソラが魔導具について尋ねると、テルは声をひそめて答える。


「魔導具の工場はジン様の土地のどこかにあるけど、完全に秘密にされているわ。商業ギルドは、魔導具の材料となる魔石、鉱石等の入手手配や、魔導具の外側のパッケージ加工手配を請け負っているけど、秘密保持のためチョウさん一人で全部やっているの。うちの売り上げの大部分は魔導具関連よ。魔導具系の仕事もいいんだけど、ジン様頼みの点がちょっとね」


 そのとき、ドアがノックされ、レストランの店員がデザートとお茶を運んできた。


 ――イチゴのショートケーキ。孤児院で一度だけ食べたことがあるやつだ。師匠はあまり甘いものを食べないから、師匠の家ではケーキは出なかったな。


 ソラはワクワクしながら、デザートがテーブルに置かれるのを待った。


 ケーキをナイフで切って、フォークで刺して口に入れる。おいしい。イチゴの酸味とクリームの甘みが舌を刺激する。ソラは無言で食べた。


 ソラは、食べ終わって我に返り、お茶を飲みながらテルに感謝の言葉を述べる。


「素敵なお店にお招きいただき、ありがとうございました。どの料理もおいしくいただきました。個室だったから、他の人の目も気にせず食事を楽しめました」


 テルは嬉しそうに答える。


「ソラちゃんの話を聞こうと思って個室を取ったので、ちょうどよかったわ」


 テルに真相を明かしたのは仕方なかったとしても、噂になると困る。ソラはそう考え、テルに頼み事をする。


「それなんですが、すみませんが、ボクのスキルに関しては広めないでいただけると助かります」

「なんだかすごく賢くなるスキルみたいだし。分かったわ、秘密にする」


 テルの誓約に対して、ソラはありがとうございます、と答えた。


「じゃあ、そろそろ出ましょうか」


 テルの合図で、二人は個室を出てレジに向かう。


 ソラは、半分払います、と言ったが、テルはここは私が持つわ、と返したので、ソラはごちそうになりますと、お礼を言った。


 ――お給料がもらえると、こういうお店に来られるようになるんだ。


 ソラは給料のありがたみを実感しつつ、テルの後について店を出た。

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