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20 買い出し

 商業ギルドに戻ったソラは、チョウと別れ、受付カウンターに向かった。とりあえずカウンター席に座り、一息つく。


 隣にいるテルがソラに話しかける。


「ソラちゃん、チョウさんの呼び出しは何の話だったの?」

「銀行口座を作って、今週のお給料を振り込んでもらいました」


 ソラの応答で、テルは何か思いついた顔をする。


「もしよかったら、明日の休みに自炊の特訓をしない? 調理器具や食材の買い出しと調理の仕方を教えるわよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 テルの提案を、ソラは快諾した。


「じゃあ、明日、いつもの朝食後に出かけましょう」


 ソラは、承知しました、と答えた。


 ――わ~い、初めての休日だ。楽しみ。


 ソラはワクワクしながら、残りの時間を過ごした。


 翌日になり、朝食の時間、ソラはテルの部屋を訪問する。

 テルはドアを開けるなり、ソラを見て不思議そうな表情を浮かべた。


「今日は男の子の姿なのね。なんか新鮮だわ」

「おかしいですか?」


「おかしくないけど、ソラちゃんはもっとカラフルな色が似合うような気がするわ。買い物ついでに男の子の服も見るのはどうかしら?」

「分かりました」


 二人は、食事後、廊下で待ち合わせして、一緒に外に出た。


 テルはソラに話しかける。


「ソラちゃんは、ジンノ村でどこか行った?」

「いえ、全然です。初日にテルさんと買い物に出かけたのと、あとは昼ご飯を向かいの売店で買ってたくらいです」


「じゃあ、ジンノ村について簡単に説明するわね」


 テルはジンノ村の解説を始めた。


1:全体1キロ四方で、100mおきに東西方向と南北方向の道路がある。道路はそれぞれ11本、北1~北11、東1~東11と呼ぶ。


2:北東端に、唯一の出入り口である王都への道路が繋がっている


3:最も北にある北1の外側エリアを1条、最も南側の北11の外側エリアを12条と呼ぶ


4:最も東にある東1の外側エリアを1丁目、最も西側の東11の外側エリアを12丁目と呼ぶ


5:道路で区切られた100mの正方形のブロックは、条と丁目で区別される。個々の建物の所在地は、条と丁目と通し番号になる。例えば商業ギルドの所在地は、6条6丁目1である。


「基本的には、北東端の出入口に近いところに観光客や冒険者向けの店があるわ。冒険者ギルドもそのあたりね。中央付近は、商業ギルドや銀行、小売店、工房、公園など住民向けの施設が多いわね。奥の方は、住宅街や学校よ」


 テルはそう言って、ジンノ村の説明を終えた。


「今日は最初に、最低限の調理器具と調味料を買って、重いから一旦、寮に戻りましょう。昼は観光を兼ねて、観光客向けのレストランに行ってみない? それから男の子の服を見て、最後に食材を買うという案はどうかしら?」


 テルの提案にソラは同意し、まず包丁、まな板、フライパン、鍋などの調理器具と、塩、コショウ、醤油、サラダ油などの調味料を買い、一旦、寮に戻り、荷物を置いて再度、外に出た。


 歩きながら、テルはソラに話しかける。


「昼ご飯のレストランは、2条2丁目にあるわ」

「でしたら、ここから800メートルくらいですね。10分ちょっとで着きますよ」


 ソラは、レストランまでの距離を暗算で計算して、テルに伝えた。

 テルは驚いたように尋ねる。


「なんで所在地だけで距離が分かるの?」

「だって、今、6条6丁目にある商業ギルドを出たばかりですから。道路に沿って歩く場合、どこで曲がるにしても東西と南北にそれぞれ4回交差点を通りますよね。交差点の間隔が100メートルですから8回通ると800メートルです」


 テルの質問に、ソラはこともなげに答えた。


「もし鳥みたいに空を飛べるんだったら、直線で行けて、566メートルくらいで着くんですけども」


 ソラが付け足すと、テルはさらに驚いた表情をした。


「ソラちゃん、7歳なのに、なんで中等教育の最年長14歳で習うはずの公式を知ってるの?」


 ――まずい。数覚スキルがない人にとっては、それほど難しい問題なのか。


 ソラは、中等教育で何を教えているのか知らないので、まず情報を収集しようと試みる。


「本で読んだことがあるんです。ところで、中等教育は全然知らないんですが、どんなことを教えているのですか?」


 ソラが質問すると、テルは思い出しながら答える。


「学校は、9年間あって、最初の6年が初等教育、残りの3年が中等教育よ。中等教育では、発現したスキルや本人の希望に応じて、授業を選択するの。私は事務系のジョブが欲しかったから、計算、書類作業、マナー、コミュニケーションといった授業を選んだわ」


 テルは一息おいて続ける。


「中等教育の計算の授業は、正直、よく分からなかったわ。色々な場面で、このときはこの公式を当てはめろと習うのだけど、場面が多くて覚えきれないの。さっきの斜めに進むときの距離の計算は、直角三角形の斜辺の長さという単元に出てきたわ。1cmと1cmの場合の斜辺はいくら、1cmと2cmのときはいくらと、表にいっぱい書いてあったけど、もう覚えてないわね」


 テルの説明で、ソラは孤児院の図書室で借りた本に同じことが書いてあったのを思い出した。


 ソラが借りた本にも、斜辺の長さがその値になる理由は書かれていなかった。


 ――そうそう、どうしても理由が知りたくて、何日か悩んでいたんだった。


 直角三角形の三つの辺の長さをa、b、c、ただしcが斜辺とする。孤児院にいたとき、ソラは、試行錯誤の結果、一辺の長さがa、足す、bの大きい正方形の面積を考えると、理由が説明できることに気づいた。


 この大きい正方形を縦横に切って四つに分けると、一辺の長さがそれぞれaとbの小さい正方形と、長方形が二つになる。一つの長方形の面積は最初の直角三角形二つ分である。


 一方で、この大きい正方形の中に、最初の直角三角形を四つ並べると、真ん中に一辺の長さがcの小さい正方形が残る。両方の分け方で、大きい正方形の面積は同じだから、結局、a掛けるa、足す、b掛けるbと、c掛けるcが等しくなる。


 ――もっとも、孤児院でこのやりかたを思いついたときは、長さを○とか△とかで書いていたけどね。a、b、cの記号で書く方が簡単。


 ソラが思いついたやりかたによると、長さ1、1の直角三角形の場合、斜辺の長さは、自分自身と掛けると、すなわち2乗すると2になる数である。


 ソラは、ジンが講義で補足した内容を振り返る。


 ――師匠は、これをピタゴラスの定理と呼んでいた。2乗すると2になる正の数のことはルート2と言っていたな。ルート2はだいたい1.41421356。人の名前はなかなか覚えられないのに、こういう数はすぐ覚えられるから不思議だ。これも数覚スキルの効果かな。


 ソラは、斜辺の表を丸暗記したのではなく、ルート2に400を掛ける計算をしたことをテルに言おうかと一瞬、考える。


 ――そもそも中等部ではルートさえ習わないみたいだし、伝えるのは無理そうだな。


 説明をあきらめたソラは、本で読んだ、で押し通すことにした。

 無難にお礼で済ませる。


「中等教育についていろいろ教えていただき、ありがとうございます」


 話しながら歩いているうちに、二人はジンノ村の最も北側の東西道路である北1に出た。


 このあたりは人通りが多い。ソラは人混みを珍しそうに眺めた。


 北1は、王都に続く道路にそのまま繋がっており、東にずっと伸びている。


 ソラは、北1の道路を見て思わず声を上げる。


「すごい! 道路がずっとまっすぐ伸びているから、道路両端の直線がまるで交わっているように見える! 平行な二直線が交わるなんて!」


 喜んでいるソラをテルは不思議そうに見つめる。


「このあたりは、おしゃれなお店がいっぱいあるのに、それより道路が気になるなんて、ソラちゃんて変わっているのね」


 ソラは、あわてて取り繕う。


「こんなまっすぐな道路を初めて見たので、はしゃいですみません」


 テルは、いいのよ、と笑って言った。

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