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13 掃除

 朝、目覚まし時計の音で、ソラは目覚めた。


 ――良く寝た。疲れていたのかな。


 ソラは起き上がり、顔を洗って着替える。ウィッグのつけ方は教わったが、まだ慣れていないので時間が掛かる。綺麗にリボンを結べるまで、何度かやり直す。


 着替えが終わったら、もう7時を回っていた。


 ソラは、急いで部屋を出ると、二階に向かった。


 床を見ると、昨日の夕方の掃除後の状態とほとんど同じであった。昨日のテルのモップがけは正直、雑であったので、ところどころ床の汚れが残っている。しかし、綺麗にしたところは一晩経っても綺麗なままであった。


 ――これなら夕方にきちんとやっておけば、朝やらなくてもいいのでは?


 掃除作業を改善できるかもしれないと、ソラは嬉しくなった。


 でも今朝は、さぼれない。仕方ない、きちんとやろうと思い、ソラはモップをかけて、二階と一階の床の汚れを取る。


 朝食まであまり時間がない。ソラはあせりつつも、モップがけは、なんとか15分程度で終わった。


 ソラは外に出て、壁と入口のガラスと建物の前の道路を見る。昨日の夕方の掃除後と比べて、ずいぶん汚れている。屋外だから埃が付いて汚れるのは当たり前だが、これだと来訪者への印象が悪い。


 ――仕方ない。こっちは丁寧にやるか。


 ソラは気を取り直して、ガラス拭きと道路のほうきがけに取り組む。


 30分後、ぴかぴかになったガラスと道路を見て、ソラは満足感を覚えた。


 ソラは、急いで三階のテルの部屋に向かった。ドアをノックして、おはようございます、と挨拶する。


「そろそろソラちゃんを呼びにいこうと思っていたのよ」

「遅くなりました」


 ドアから顔を出したテルに、ソラは詫びの言葉を述べ、部屋に入る。

 トーストのいい香りがソラの食欲を刺激する。


「朝食は、目玉焼き、バタートースト、牛乳よ」

「おいしそうですね」


 テルの説明に、ソラは目を輝かせた。

 いただきますと言って、ソラは早速、口にする。


「おいしいです」

「そうでしょ」


 ソラの感想に、テルは得意げに応じた。


「そういえば、ソラちゃん、掃除はどうだった?」

「特に問題ありませんでした。これでよいか、食事の後、見ていただきたいです」


 テルの問いかけに、ソラは自信をもって答えた。

 テルは楽しみにしているわ、と返した。

 

 食事が終わり、テルが食器の片付けを始める。


「片付けが終わったら、化粧を直すから、先に二階に行っててもらえるかしら」


 テルの申し出に、ソラは分かりました、と答えた。


 ソラは一旦、自分の部屋に戻り、鏡を見ながら歯を磨き、リボンを直す。よし今日も美少女だ。ソラは鏡の前でつぶやくと、二階に向かった。


 ソラが二階で待っていると、テルが階段を下りてきた。

 床を指さしながら、ソラはテルに尋ねる。


「こんな感じでどうでしょうか?」


 テルは床をじっと見た。


「いいんじゃない。いつもの朝と同じように見えるわ」


 二人は一階に降り、同じ会話を繰り返した。


 最後に、二人は外に出た。

 テルは、壁と入口のガラスと建物の前の道路を見た。


「ソラちゃん、すごい綺麗じゃない! どうやったの?」


 テルは感動のあまり、ソラを抱きしめた。


 ――こんなに情熱的に褒められるのは初めてだ。


 ソラは照れくささを感じながらも、感謝の言葉を述べ、テルの質問に答える。


「ありがとうございます。丁寧にやっただけです。今朝は全部で掃除に45分かかりましたが、明日からは朝夕ともに30分で終わる予定です」


 テルは不思議そうに首をひねった。


「丁寧にやったから、外が綺麗なのは分かるけど、どうして30分でできるようになるの?」


 テルの質問に、ソラは答える。


「要するにメリハリです。室内は、夕方に30分かけて丁寧にモップをかけます。一晩経っても汚れないことが分かりましたので、朝は何もしません。一方、外は夜の間にどうせ汚れるので、夕方は何もしません。朝に30分かけて丁寧に掃除すれば、このように綺麗になります」


 ソラの説明を聞き、テルは感心したように言う。


「なるほど。夕方閉まるから、夜、汚れていても問題ないもんね。盲点だったわ。しばらく、このやりかたで掃除してもらえるかしら」


 テルの要請に、ソラは分かりました、と答えた。


 建物の中に戻った後、テルは三つ目の業務の説明を始める。


「開店前のお茶出しをお願いしていいかしら。そこのミニキッチンでお茶を入れて、二階のチョウさんの部屋に持っていってほしいの」


 テルの指示に従って、ソラはカップにお茶を入れ、トレーに乗せて二階に運ぶ。

 ソラはノックをして中に入り、チョウに挨拶する。


「チョウさん、おはようございます」

「ソラか、おはようさん。お茶。おおきに」


 ソラはチョウの机の上にカップを置き、失礼します、と言って退室した。


 ソラは一階に戻り、ミニキッチンでお茶を入れ、カウンター椅子に座っているテルに声を掛ける。


「テルさん、開店前にお茶はいかがですか?」

「わあ、ありがたくいただくわ」


 ソラはテルにカップを渡した。


 ソラはふと気づいた。一階の奥の机に、見知らぬ若い男性がいる。座っているのではっきりしないが、身長は170cmくらいか。やや太めで、黄色のシャツを着ている。


 ――誰だろう?


 ソラは、小声でテルに尋ねる。


「すみません、奥の机にいる男性について教えていただけませんか?」

「彼は、ネタさんよ。昨日は出かけていたの。事務手続きを担当しているわ」


 テルに感謝の言葉を述べた後、ソラは新しくお茶を入れ、カップを持ってネタの前に行った。


「ネタさん、はじめまして。昨日から、ここでお世話になっているソラと申します。よろしければお茶をいかがですか?」


 ソラの自己紹介に、ネタはああ、よろしくとあっさり答えた。


 ――なんか反応が薄いけど、特に敵意という感じでもないし、まあいいか。


 ソラはネタの机にカップを置き、失礼します、と言ってテルのところに戻った。

 テルがお茶を飲み終えたのを見て、ソラはテルのカップを片付けた。


 ――今日も一日頑張るぞ。


 ソラは、テルの横のカウンター席に座り、接客を始める。

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