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12 観察

 ソラの部屋に戻るやいなや、テルは待ち構えていたようにソラに話しかける。


「じゃあ、ソラちゃん着替えましょうね」


 テルは買ってきたウィッグや服などを手早くソラに着せていく。最後に頭に大きなリボンをつけ、満足そうにつぶやく。


「よし、カンペキ」


 ソラは鏡の前に立ち、自分の姿を眺める。リボンがついた長い髪にかわいらしいピンクのワンピース。フリルもたっぷり。足元は赤い靴。自分で言うのも変だが、美少女がそこにいた。


「自分とは思えません」


 ソラが素直な感想を述べると、テルは素材がいいからね、と嬉しそうに言った。


「チョウさんに受付をお願いしているけど、そろそろ戻らないと。ソラちゃん、受付に一緒に行って仕事を覚えましょ」。


 テルの勧めにソラは同意し、二人で一階の受付に向かった。


 ソラは、テルの脇のカウンター椅子に座り、テルが接客する様子を横から観察する。


 もっとも、必ずといっていいくらいに、来訪者に声を掛けられるので、ソラは気が抜けない。


「お嬢ちゃん、新顔だね。名前はなんていうの」

「ボクはソラと言います」


「ボクっ娘か!」

「違います、男です」


 何回、同じやりとりをしただろうか。それでもチョウの見込み通り、来訪者の反応は上々であった。


 ソラが商業ギルドで働くにあたり、ジンからは課題を見つけて解決するようにと言われている。


 ――受付業務の課題ってなんだろう。


 課題を見つけるにはまず現状を把握しないと、そう考え、ソラはさりげなく来訪者を観察する。

 来訪者は大きく、以下の三つに分けられるようである。


1:事務処理

2:物品の受け渡し

3:それ以外の相談ごと


 事務処理と物品の受け渡しは定型作業で、簡単に改善できるようには見えなかった。


 ――相談ごとが一番課題にしやすいかな。うまく応えられれば、商業ギルドの評判が上がるだろうし、新しい商売に繋がるかもしれない。


 応えられない相談ごとをテルがいくつか断るのを見て、ソラは内心でつぶやいた。


 夕方の5時になり、一日の業務が終了する。


「ソラちゃん、受付お疲れさま」


 テルに声を掛けられ、ソラはお疲れ様です、と返した。


「この後、掃除をするので一緒にやろうね」

「承知しました。朝と夕の掃除はどう分けているのですか?」


 ソラが質問すると、テルは答える。


「朝、夕で同じ掃除をしているわ。一、二階の床のモップがけ、壁と入口のガラス拭き、外のほうきがけね。ただし、大物のゴミが出たり、ゴミ箱がいっぱいになった場合は、そのときに片付けるの。トイレなどは専門の業者さんにお願いしているわ」


「全部やると時間が掛かるのではないですか?」

「そうよ。だから、そんなに丁寧にはやらないわ」


 テルの説明を聞き、ソラは分かりました、と答え、一緒に二階に上がった。


 テルがいつもどおり掃除を行うのをソラは横で眺める。


 ――孤児院での掃除のやり方と一緒だし、これなら一人でもやれそうだ。


 ソラは、テルとともに二階から一階に降り、最後に外に移動した。

 30分ほどで掃除が終わり、二人はテルの部屋に向かった。


「今日は間に合わせで悪いけど、すぐできるローストビーフサンドよ」


 テルは手早く調理を終え、料理を食卓に並べた。


 ソラは、いただきますと言って、サンドイッチを手に持ってかじりついた。結構、おいしい。ソラは、ジンの家で贅沢な食事が続き、口がおごっていたが、それでもおいしいと感じるほどの高い品質である。


「おいしいですね」

「そうでしょ。ジンノ村では高品質な食材が安く手に入るのよ」


 ソラの感想に対して、テルは自慢そうに答えた。


「明日の朝だけど、ソラちゃんに掃除をお任せしてよいかしら。私はその間に朝食の準備をしておくわ。開店は9時で、掃除の確認もしたいから、朝食は8時ね」


 テルの申し出に、ソラは分かりました、と答えた。

 たわいない雑談をしながら、二人はサンドイッチを食べる。


 食事が終わり、ソラはお礼を言って、自分の部屋に戻った。


 風呂に入り、着替えてベッドに寝そべる。


 ――雇ってもらえてよかった。


 安堵しているうちに、眠気が押し寄せてきた。


 ――朝の掃除にも30分掛けるとしたら、着替えが不慣れでもたつくことを考えると、6時半に目覚まし時計をかければいいか。


 目覚まし時計を設定してすぐに、ソラは眠りに落ちた。

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