11 入寮
商業ギルドは、ジンノ村のほぼ中央にあった。
ソラは、三階建ての建物に入り、一階の受付を目指す。
受付カウンターには、身長155cmの小柄の若い女性がいた。白を基調としたワンピースと薄青のスカーフが印象的である。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」
彼女は笑顔を浮かべ、ハキハキとした口調で挨拶した。
「ソラと言います。ギルドマスターのチョウさんをお願いします」
ソラの依頼に対して、彼女はカウンターの上の魔導具を操作し、少しお待ちください、とソラに告げた。
しばらくすると、人が階段を下りてくる気配がした。身長175cmの中年男性で、スーツにネクタイ。だが、どことなく軽薄そうな印象を受ける。
男はカウンターの前まで来ると、ソラに挨拶する。
「ソラ、ひっさしぶりやな。元気かいな」
――そういえば、ボクはチョウさんの親戚という設定だった。
ソラは、うっかり初めまして、と言いかけるのをぐっとこらえた。
「チョウおじさん。ご無沙汰してます」
ソラが親戚設定の挨拶を返すと、チョウは階段を指さした。
「ほな、二階のワイの部屋に行きまひょか」
ソラは、チョウの後ろを歩き、階段を上り、チョウの部屋に入る。
チョウは、商談中の札をドアの外にぶら下げる。
「こうしておけば、誰も入ってこないんですわ。まあ座っておくれやす」
チョウの勧めに従って、ソラはソファに座った。
チョウも座り、話し始める。
「ジン様から、養子のソラはんをここで働かせてほしいと頼まれてます。そやけど、7歳のぼんぼんにやれる仕事なんてないんですわ」
――なんか苦労知らずのお坊ちゃまみたいに思われている?
ソラは危機感を覚えた。このままだと、今日から住むところがなくなってしまう。必死にアピールしないと。
「開店前や閉店後の掃除や整理整頓、皆様やお客様へのお茶出し、伝票の整理、受付の代行、荷物の受け取りや配達など、なんでもやります」
ソラがやれることを並べると、チョウはにやりと笑って口を開く。
「受付には癒しが欲しいねん。ソラはん、男前やさかい、美少女もいけるとちゃうか」
――女装しろということだよな。
ソラは観念して、はい何でもやります、と答えた。
チョウは嬉しそうに告げる。
「よし、決まったで。採用。まずは掃除、お茶出し、受付を頼むわ」
「ありがとうございます。承知しました」
ソラは採用が決まり、安堵した。
「しかし、チョウおじさんはきしょいわ。職場なんやから、チョウさんで頼むで」
「チョウさんですね。分かりました」
チョウはテーブル上の魔導具を操作した。
「いま、掃除、お茶出し、受付を担当しているテルを呼んだ。ちょっと待ってや」
しばらくすると、ノックの音がして、さきほどの受付にいた女性が入ってきた。
「チョウさん、お呼びですか」
「こっちは、ワイの親戚のソラや。わけあって、ここで働いてもらうわ」
チョウがソラを指さすと、テルは驚いた顔をした。
「こんな小さい子供に仕事させるなんて、何を考えているんですか?」
「親と本人の希望や。掃除、お茶出し、受付のヘルプをさせよう思うとる。今はテル一人で、回ってへん。そやから、ちょうどええやろ」
チョウの提案に、テルは納得してうなずいた。
「たしかに助かります」
「せやろ。テルにお願いがあるんやけど、ソラにフリフリの服を見繕ってほしいんや」
テルは目が点になった。あわててチョウに尋ねる。
「どういうことですか?」
「受付には癒しが欲しいねん。ソラは男前やから、美少女もいけるやろ」
チョウの説明で、テルは急にイキイキとした表情を浮かべる。
「きっと似合います! ソラちゃん、とお客様にかわいがられる様子が思い浮かびます」
テルも同意したところで、チョウは次の話を切り出す。
「テルに一つ相談あんねんけど。ソラの住むところや。三階の寮が一室空いとるやろ。どうやろか」
「キッチンも風呂もついてますけど、食事をどうするかが問題ですね。昼は交互に道向かいの食堂か売店で済ませるとして、朝夕は自分で作る必要があります」
テルはそう言って、ソラの顔を見た。
ソラはきちんとした料理を作ったことがないため、自分で作れと言われ、不安を覚える。
「いきなり自炊は厳しいんちゃう? 朝夕の掃除をソラ一人に任せる代わりに、ソラと一緒に食事してくれへんか」
チョウの依頼に、テルは承知しました、と答えた。
「これで決まりやな。テルはソラを寮に案内してもろて」
チョウの指示を聞き、テルとソラは立ち上がって部屋を出る。
ソラはテルの後ろをついて廊下を歩く。三階への階段を上り、一室の前でテルは立ち止った。
「ソラちゃん、この部屋よ」
テルは鍵をドアの鍵穴に差し込み、ドアを開けた。
テルと一緒に中に入る。手前にキッチン、奥にはベットと机が置かれた部屋が見える。
「キッチンの横には風呂場とトイレがあるわ」
テルは話しながらドアを開けて、風呂場とトイレをソラに見せた。
「部屋は広いし、個別にキッチン、風呂場、トイレがあるのはすごいですね」
ソラが感心したように感想を述べると、テルは自慢するように言う。
「ジンノ村はすごいわよ。これで標準。蛇口をひねるだけで、水とお湯が出るし、トイレは自分で拭かなくてもいいの。しかも、村全体で魔石ボックスが共通化されているから、魔石の補充作業もいらないわ」
ソラはジンの家ですでに体験済であったが、そう言うわけにもいかないので、無難に、それはいいですね、と相槌を打った。
「じゃあ早速、美少女変身グッズを買いに出かけようと思うのだけど、どうかしら」
ソラは、はい、と答え、荷物を机に置き、テルと一緒に部屋を出た。
二人でジンノ村の小売店を三軒ほど回り、少女用の既製服やアクセサリを入手して寮に戻った。
ウィッグまで置いてある。ジンノ村、恐るべし。買い物ではマネキンとなっていたソラであるが、ジンノ村の豊かさには素直に感動した。




