悠太が巡らせる思考
5時限目は数学の授業。教師・七瀬が「レンリツホーテーシキ」だの「ダイニュウ」だの呪文のような言葉を並べ立て、暗号のような数字や記号の羅列を板書していく。悠太はそれらに対する理解を随分と前に放棄していた。小学校の四則計算くらいはそこそこ出来たつもりだが、中学校に上がってから元々希薄だった勉学に対する意欲が皆無となったのだ。代わりにオカルトとか魔術とか超常現象に対する興味が膨れ上がり、普段から夢想するようになった。まさか実際に遭遇するようになるとは夢にも思っていなかったが。
悠太は壁時計に視線を向ける。昴が先ほど怪異と認識した物だ。手造りだろうか、木製でニス塗りの時計盤と針で、機械部分は新しい物に交換されているのかも知れないが、ずいぶんと年季が入ってる。妖怪であれば付喪神だとか、そういう類いになっても不思議ではない風格だが、悠太は鳥山石燕だとか水木しげるだとかが著したような「ザ・妖怪」という存在を目撃したことは無い。妖怪といえば恐怖の対象でありつつも、どこかコミカルな面も持ち合わせる存在も多い。しかし、悠太が今まで遭遇してきた怪異は何時だって恐怖と狂気を振りまき、命の危険を感じさせるモノだった。妖怪と呼べる代物では無い。
「――。」
しばらく観察したが、特に異変は起きない。怪しい雰囲気も感じない、普通の古時計だ。しかし、昴の気のせいとか幻覚だったという可能性はほぼ無いだろうと悠太は考えている。昴にとっては不幸なことだが、怪異に狙いを定められてしまうことは珍しいことではない。これが何らかの縁、もしくは理由があるのか。何にも関連がなく、まるで貰い事故のような不幸な事件なのか。昴をこの怪異から開放するには、色々と調査をして原因を取り除かなければならないだろう。その手掛かりの1つが「卒業アルバム」。昨日に悠太が無断拝借した物は、怪異の中で赤い光を放っていたので、確実に関係あるだろう。さらに、そのアルバムは何者かの自作。作者は誰なのか、何が書かれているのか。それについては、改めてゲンさんに尋ねた方が良いだろう。さらに昼休みに借りてきた別のアルバムと照らし合わせれば、当時の事情が見えてくるかも知れない。
……などと考えを巡らせていると、授業終了のチャイムが鳴った。日直の号令に合わせて一礼し、悠太は借りてきたアルバムを開いた。何枚かの写真に説明が添えられていたり、日記のような事が書かれていたり、友人や教師の寄せ書きがあったりと、当時の厳しいながらも良き思い出がたくさん綴られていた。――教室の後ろの方で歓声が上がる。チラリと視線を移すと、いつものように昴を中心に何事か楽しげな話題に沸いているようだ。昨日までなら「クソリア充どもが、死んで畑の肥やしにでもなりやがれ。」と内心で盛大に毒づいていただろう。しかし「沢渡昴」という名前を認識してしまった以上、心の中であっても悪態をつくのは何となく憚られた。どういった心境の変化なのだろうかと自問して、悠太は「SNSで炎上している誰とも知れない阿呆に罵声を浴びせるのは心が咎められないが、ネットの知り合いに対しては躊躇してしまう」という心境に似ていると結論付けて、再びアルバムのページを繰った。
■山口 悠太[Yuta YAMAGUCHI] ※6月現在
身長:158cm 体重:42kg
誕生日:3月5日(うお座)
血液型:A型 年齢:13歳
好き:オカルトパワー
嫌い:勉強、努力
ポジション:基本的に受け




