15.A distant destination.
「…………祖父の、願いを叶えてくださり、ありがとうございます」
──どれだけドルバンスヴルウヌの死体を前にして立ちすくんでいただろうか。
弱々しい声がした。
振り返ればそこにはヅェレイが。
彼が近寄ってきていたことに気付けなかったのか。想像を超えて動揺していることを自覚する。
ヅェレイを見やる。
彼の円らな瞳には涙が浮かび、力の入った肩は小刻みに震えている。
それも当然か。
彼の前にいるのは祖父の仇。その生命を奪ってからまだ大した時間も経っていないのだから、心の整理がつかなくて不思議はない。
ふと、いももちが遠巻きに見ているのが視界に入った。邪魔をしないように配慮してくれているらしい。
「……祖父は、ドルバンスヴルウヌは強かったでしょうか」
着飾った役者にも思えた強がるような言葉遣いは鳴りを潜め、ヅェレイは訥々とした話し方で問いを投げた。
「もちろん、強かった」
答える言葉はこれしかあるまい。
強かった。
それこそドルバンスヴルウヌが病に冒されていなければ、勝ち目など有りはしなかったくらいに。
「ドルバンスヴルウヌ殿は想像を遥かに超える戦士だった。身一つで向かってくる胆力。積み重ねた経験に裏打ちされた技量。磨き上げた技の冴え。どれをとっても他に類を見ない戦士だ。病さえなければ、そう思わずにはいられないな」
病に倒れなければドルバンスヴルウヌは今も一族をまとめるリーダーであっただろう。
戦士としての死に場を急拵えする必要もなく、各地を渡り歩いて心置きなく戦えたに違いない。
そう考えると、惜しいとしか言いようがなかった。
学ぶべきところが多々あったであろう相手を、弱みに付け込んで倒したようなものだからだ。
そこが釈然としない。
自分の中で折り合いがつかない。
「……どうして、ナイフで戦ったのですか?」
責めるような、詰るような口調。ヅェレイは眉間にシワを寄せてこちらを睨んでいる。
一瞬の間。
躊躇いを拭い去り、正直に答えることを選ぶ。
「職人との二人三脚。それは君たちにとっての日常だ。同じ道行きを歩み始めるには丁度良いタイミングだと思ったのさ」
「……それだけですか」
「それから、……魔法を使ってくると思ったんだ。君たちは小さいからね。飛び道具を警戒するのは当然だろう。ただ、それが的外れだっただけさ」
そも君たちはずっと戦士を名乗っていたのだからね。
そう言うと、ヅェレイは納得したように頷いた。拳を握る力が少しだけ緩んでいるようにも見える。
「誤解があったようです。……祖父と戦ってくださり、ありがとうございました」
ヅェレイが頭を下げる。
────────
『ディートアシナリオ/クリア:猛き汝よ、勇士たれ』
余命幾ばくもないドレッドノートの長、ドルバンスヴルウヌ。
彼の願いは、戦いの果てにその生命を散らすことだった。
同族殺しを禁忌とするドレッドノートたちはこの願いを叶えられず、偶さか招かれた勇士に全てが委ねられる。
長との決闘、その終わりに勇士は一体何を見るのか──。
──勇士は、残された家族が流す涙に長の願いの身勝手さを見た。それと同時に、願いを叶えてしまった己れの酷薄さも。
しかし立ち止まることは許されない。
清濁併せ呑んでも前進を続けることこそが、勇士である証明なのだから。
発生条件。
・長が存命の内にドレッドノートと出会い、里まで招かれる。
・長に勇士と認められる。
進行条件。
・長の頼みを聞き入れる。
・仕合の中で長の生命を奪う。
達成条件。
・長との決闘に勝利する。
・ドルバンスヴルウヌの最期を看取る。
評価点。
・決闘の勝敗。────── ○
・決闘の内容。────── 6/10
・決闘時のレベル差。─── 8
・勇士としての発言。─── 8/10
・ヅェレイとの対話。─── 8/10
・ヅェレイの納得。──── 9/10
最終評価 優良
──────────//
クエストの結果を確認するや否や、すぐさまドレッドノートの里を離れた。
居心地が悪くないのが、むしろスッキリしなかったのだ。
長を殺めておきながらも彼らの好意に甘えるわけに行かない。そう感じた部分もあるが、それ以上に未だ好意が向けられている点が理解出来なかったのである。
ドレッドノートたちの言はこうだ。
『勇士殿は長の言葉に従っただけであり、戦いの中で生命を散らすことこそが長の願いであったのだから恨むのはお門違いです』と。
それは一面では間違いでないだろう。
理性的で、模範的。
そして無感情だ。
彼らが口を揃えてそのように言った時、ガラス玉のような瞳がどうにも昆虫めいていて気味悪かったことを強く覚えている。
ウェズリの廃村近くの森まで戻ってきて、ようやく人心地ついた気がした。
ロールプレイにしても何かが違っていた。
肩の荷が降りたような感じだ。
「いや~、戻ってきたっすね」
「長い寄り道だったな」
「おにーさん、変なテンションだった自覚あるっすか?」
「ありありのアリだ。もう触れないでくれ……」
「くふふ……、いやっすよ~」
雑談しながら廃村まで歩いていく。
もうすぐそこだ。
ちらほらと他の精霊の姿も見えるようになってきた。
いよいよ目的地に到着である。
まずはいももちを家へと案内し、そこで依頼の達成を確認しなければ。
それからは……。それからはどうしようか。
「おにーさん。フレンド登録しよ?」
「……ん、おう」
言われるがままにメニュー画面から登録を行う。
しっかし、これから何をしようか。
……クエストリザルトの確認でもしようか。
こういうのはこまめに見ておかなければ溜まる一方だ。
「もう!」
片手間に思考を回していると、いももちが何やら怒っている。
返事が上の空になっていたようだ。
「ちゃんと聞いてないっすよね!」
「ああ、すまん。何だっけか」
怒るいももち。彼女はなにがしかをこちらに伝えようとしていた。しかし、上の空で聞いていない様子に腹を立てていた。
もう、とプリプリ怒る彼女を宥めつつその話を聞く。
「おにーさんの装備の話なんすから、ちゃんと聞いてくれないと困るっすよ!」
いももちは間に合わせのナイフだけでは足りないと考えていたのだ。
あれでは釣り合いが取れない、と。
ウェズリの廃村までの案内報酬はある。
それはいももちの友人であるオルメスたちから、既にゲーム内通貨で支払われていた。
故に問題はない。ただ、いももちに心情的な凝りが残るという話なだけで。
「だから、仕立ててあげるんすよ! いつまでもオーバーオールだけでいいんすか?」
「まあ、言わんとしていることは分からんでもないな」
鎧だの兜だの。防具の類いに興味がない訳じゃない。元は盾だって使っていたのだ。身を守る為に装備を整えることは悪くない判断だと思える。
とは言え、だ。このオーバーオール、ボスドロップだけあって中々の逸品。いずれは卒業する時が来るとしても、直ぐにそこらの鎧と交換する必要があるとまでは思えなかった。
「たしかに、おにーさんの服は丈夫で性能も良いんすよ。でも予備は必要でしょ? それに装備品で習得スキルが変わるなんて話もあるんすから、早いうちに鎧を試しておくのも必要なはずっす」
「なるほどなあ、まあ任せてみようか」
お任せを!
いももちは笑ってそう言うと、右手で力こぶを作って見せた。細い腕だ。とても力仕事をするようには見えないものだが、ここはゲーム。
見た目よりも能力値とスキルが物を言う。
「……大いに期待しているよ」
そうして二人でウェズリの廃村に到着したのだった。
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