第81話 本命拠点、決着の線
濁りの圧が、ほんの少しだけ落ちた気がした。
遠間弩の照準器越しに前庭を見ながら、俺は息を殺す。
視界の先では、王都軍の盾列が玄関線ぎりぎりの前で、黒い杭と濁り獣の群れを受け止めていた。
『危険度、前線右端マイナス一。全体としては高値維持』
リラの表示が、視界の端に淡く浮かぶ。
数値はまだ赤い。
たった一段下がっただけじゃ、「安全」には程遠い。
「……今の一矢で、どこまで減った?」
『核から本隊に伸びていた筋の一本が細くなった。別動隊側への圧も少し落ちてる』
別動隊。
《リュミエルの灯》《鎚灯り》、それに王都軍から選抜された四名の隊。
迂回した先、洞窟の裏手近く。
セイの視界の中のVRの隅」に、小さな窓が開いている。
ヒトリが飛ばしている映像だ。
崩れた斜面の縁。
乾いた土と割れた岩。
その間を抜けて、別動隊が低い姿勢で移動しているのが見えた。
黒い混成は、思ったより少ない。
本隊側に、ほとんどの濁りを送っているせいだ。
(……作戦どおり、か)
本隊に九割をぶつけ、別動隊の前を薄くする。
その代わり、本隊は「勝ちに行かない」。
耐え続ける。
俺は遠間弩から目を離さず、問いだけ飛ばした。
「別動隊の位置」
『本命洞窟の入口から、あと二筋先。地形は崩れやすい。核から濁りを送るために、土台を無茶に削った痕が見える』
ヒトリの映像が、岩肌の奥を映し出す。
洞窟の外縁。
中腹に、大きな裂け目が口を開けている。
そこから、黒いマナの筋が地下へ向かい、前庭側へと伸びていた。
「……あれが、核からの本線か」
周囲の自然マナが薄い。
本来なら、もっと重く感じるはずの場所だ。
濁り核が、自分の周りの濁りマナを前線側に送り続けたせいで、足元はスカスカになっている。
その結果、陥没や崩落があちこちにできている——そういう説明が、頭の中で骨に沿って並ぶ。
『別動隊、足場注意の合図。渡り方を選んでる』
「無理に急がせるな。落ちたら戻れない」
言葉にすると、喉が少しだけ乾いた。
俺のすぐ横で、ガルドが遠間弩の巻き上げをもう一度回す。
金属の軋む音が、耳に残った。
「セイ、矢はあと何本だ」
「核近くまで届くのは三本。前線援護を含めて、合計であと五」
「贅沢はできねえな」
ガルドが苦笑する。
その後ろで、ガランが静かに腕を組んでいた。
「前を落とす矢と、奥を支える矢。どこで線を引くかだな」
「……そういうことです」
俺は答え、指先で照準器の縁をなぞる。
前庭では、黒い触手がまた一本、盾列の脇から伸びた。
狙いは玄関線のすぐ手前。
交代の境目だ。
王都軍の盾兵が、前へ一歩出て受ける。
後ろから土の壁がせり上がり、触手の軌道をそらす。
黒い粉が舞い、浄化魔法の薄い膜が付着を落とす。
押し返しはしない。
止めて、削る。
今日の線は、そこだ。
『別動隊、動きます』
リラの声が少しだけ速くなった。
ヒトリの映像窓が拡大される。
崩れた斜面の上。
盾役が先頭で腰を落とし、その左右に剣役が並ぶ。
その後ろを、補助魔法師と《灯》と《鎚灯り》の影が続く。
彼らの息遣いまでは聞こえない。
だが、足運びで緊張が分かる。
足場は不規則だ。
一歩先が割れて落ちてもおかしくない。
それでも進まなきゃいけない。
核がそこにあるからだ。
「セイ」
ガランが短く呼ぶ。
「前線の危険度は、まだ『高』だ。だが、こっちから見える“怖さ”だけで決めるな」
「分かってます」
俺は頷き、ヒトリの映像と前庭の現物を見比べた。
前庭——濁り本隊。
洞窟——核。
数で言えば、本隊の方がはるかに多い。
だが、核が残れば、いくらでも補充される。
逆に言えば。
核さえ折れば、濁りの流出はひとまず止まる。
遠間弩の照準を、少しだけ上へ持ち上げた。
洞窟の裂け目をなぞるように。
『セイ』
「分かってる。……前線は、まだ持つ」
リラの声は何も否定しない。
ただ、数字だけを映す。
危険度。
交代の回り方。
転倒の発生数。
全部、「まだ耐えられる」側にある。
なら、今は——奥だ。
「次弾、核側に振る。前線は、今の圧を維持しながら削るだけに絞る」
「了解。総大将にも回す」
ガランが伝令役に合図を送り、短く伝える。
遠くで号令が返った。
作戦は最初から、それを許容している。
本隊は「勝ちを拾うため」じゃなく、「別動隊が核へ届く時間を作るため」にここにいる。
なら、線の優先順位は決まっている。
『別動隊、核の外縁視認』
リラの声が、ひときわはっきりした。
ヒトリの映像が、洞窟内部へと切り替わる。
岩盤を削ってできたような半球状の空間。
中央に盛り上がる、黒く濁った塊。
石のように硬そうで、液体みたいにゆれている。
その表面から、細い黒い筋が何本も伸びて、壁や床に食い込んでいた。
それぞれの筋の先が、前庭側や外縁の濁り獣に繋がっている。
濁り核から送られた濁りマナが、そこを通って本隊へ流れているのが見えた。
「……あれが、本命の核」
喉の奥で、言葉がひとつ落ちる。
正しい場所だ。
ここを折れば、この拠点からの流出は止まる。
ただ、簡単ではない。
核の周りにも、濁り獣が数体うごめいている。
本隊側よりは少ないが、一体一体が重い。
そして——
『核から、本隊側と別動隊側に、新しい筋が伸び始めています』
「学習してるな」
ガランが小さく吐き出す。
「こっちからの圧に合わせて、配分を変えてきている」
「はい。前庭の圧が少し下がった分、別動隊に筋を増やしてる」
ウツシの中で、黒い筋が一本、別動隊の横合いへ向かって伸びていく。
地面の中を通り、足元をすくいに来る軌道だ。
別動隊の盾役が気づき、合図を出す。
剣役が筋の進行方向から離れ、補助魔法師が簡易の土壁を立てる。
だが、それだけじゃ足りない。
『セイ、あれを放置すると、足場ごと落ちます』
「……だよな」
俺は照準を微調整した。
遠間弩の矢が、一番通りやすい「線」を探す。
洞窟の入口から、核のふち。
そこから伸びる黒い筋の、ほんの少し上。
一度でも外せば、別動隊の頭上へ落ちる。
腕の中の筋肉が、嫌な汗で固くなる。
ここで無理をしたら、封印ルールの意味がなくなる。
命が落ちる瞬間だけ、前に出る。
今、前に出ているのは俺じゃない。
別動隊だ。
なら。
俺は「前に出る」のではなく、「伸びすぎた線を切る」だけだ。
「……リラ」
『はい』
「補正の数字をもう一段細かく。核からあの筋までの高さ、誤差を抑えたい」
『了解。理層の流れを基準に補正線を一本引きます』
視界に、薄い線が一本追加される。
核から伸びる濁りマナの流れをなぞるように。
そのすぐ上、わずかに澄んだ帯がある。
そこなら、矢が濁りマナに飲まれず通る。
「そこか……」
息を吸って、半分だけ吐く。
肩の力を抜いて、指先だけで引き金を撫でる。
「次弾、核から別動隊側へ伸びる筋の上、ここ」
『射線、問題なし』
ガルドが矢をセットする。
ガランが台座を押さえた。
「撃て」
引き金が落ちる。
遠間弩が低くうなり、重い矢が空気を裂いた。
ヒトリの映像の中で、矢が黒い霧を切り裂きながら飛んでいく。
核から別動隊側へ伸び始めた黒い筋の「根元」を打つ。
鈍い音。
黒い筋が、一瞬だけぶれた。
『命中。筋の太さが半分以下に低下。流出量も低下』
「別動隊は」
『足場の崩落、なし。前進再開』
胸の奥で、固まっていた何かが少しだけほどける。
だが、終わりじゃない。
核の表面が、ざわりと波打った。
一部が膨らみ、別方向へ新しい筋を伸ばそうとする。
学習している。
こちらの「切り方」に合わせて、違う角度から伸ばそうとしている。
(……本当に、たちが悪い)
マナの異常で出来ている、濁り。
こっちの行動をそのまま理解しているわけじゃない。
だが、結果として「効かれる行動」を避けるように変化してくる。
その度に、こちらの線も引き直さなきゃいけない。
「セイ」
ガランの声が低く落ちる。
「全部を切るな。切れる線と、切れなくてもいい線を分けろ」
「分かってます」
全部切ろうとすれば、矢が足りない。
前線も別動隊も守るなんて、欲張ればどこかで破綻する。
だから——
「次は、核そのものを削る。別動隊が刺しに行きやすいように」
『了解。核の表面、濁りマナの流れが薄くなる瞬間を探します』
リラが、核の周囲をなぞるように線を走らせる。
濁りマナが「吐き出しに集中している」瞬間。
そのとき、核の表面防御がわずかに薄くなる。
『今。ここ』
視界に、核の表面の一点がハイライトされる。
そこからは本隊側・別動隊側、どちらにも筋が出ていない。
ただただ、周囲に圧をかけているだけの点。
そこを削れば——
「核の“外がわ”を一枚剥がせる」
『はい』
矢をつがえる。
引き金に指をかける。
「ガルド」
「おう」
「外したら怒ってください」
「当てたら、後で酒おごれ」
短い言葉のやりとりで、少しだけ肩の緊張が抜けた。
俺はもう一度息を整え、照準をその一点に合わせる。
引き金が落ちる。
矢が、一直線に核へ向かった。
ヒトリの映像の中で、核の表面がはじける。
黒い殻の一部が砕け、濁りマナが一瞬だけ乱れた。
『外殻の一部破壊。流れが乱れます』
その瞬間。
別動隊の影が、動いた。
盾役が一歩前へ。
核からの残りの筋を肩で受けて、押さえ込む。
左右の剣役が、同時に踏み込む。
片方は筋を斬り払うために。
もう片方は、核そのものへ向かって。
その後ろで、《鎚灯り》の重い武器が振り上げられるのが見えた。
補助魔法師の光が、その一撃を支える。
何本も重ねてきた訓練の「線」が、そこに集約されている。
『別動隊、核へ接触』
リラの声が、少し震えた。
盾役が押さえた筋が、悲鳴を上げるように揺れる。
だが、踏ん張りは崩れない。
剣役の刃が、砕けた外殻の隙間に食い込む。
濁りマナがはじけ飛び、視界が真っ黒に染まる。
その中心へ、バルドが構えた片手剣が振り下ろされ、核の割れ目に深く食い込んだ。
硬いものが砕ける鈍い音が、少し遅れて耳に届いた。
核の塊が大きくゆがみ、揺れた。
『——核の出力、急速低下。周辺の濁り密度も一気に落ちています』
前庭の様子が、目に見えて変わる。
黒い触手が、力を失ったように地面へ落ちる。
濁り獣の動きが鈍り、その場で崩れた。
王都軍の盾列が、一斉に息を吐く。
だが、誰も前へ飛び出したりはしない。
線はまだ、そこにある。
「本隊は形を崩すな!」
前線から、号令係の声が届く。
「押し返すな。削りながら、濁りが引くのを確認するまで待て!」
総大将の声だ。
ガランの線と同じ方角を向いている。
『前線危険度、中程度へ低下。撤退ラインの余裕が広がっています』
リラの数字も、それを裏付けた。
別動隊の映像では、核だった塊が崩れ落ちていく。
黒いマナが霧になり、消えていく。
その奥。
さらに暗い穴が、口を開けているのが見えた。
そこからのマナの流れは、まだ残っている。
だが、今の段階では、細い。
濁り核の洞窟の奥の方角だ。
(……そこまでは、今日の線じゃない)
喉の奥で、言葉にならない線が一本引かれる。
今やるのは、「本命拠点からの濁り流出を止める」ところまで。
濁り核の洞窟に踏み込むのは、別の線の仕事だ。
『別動隊、核周辺の警戒線を確保。負傷はあるが、致命傷なし』
「よし……」
気づけば、手の中で遠間弩の台座を握りしめていた。
指先が白くなっている。
ガランがその手を軽く叩いた。
「セイ。まだ終わりじゃないが、よく通した」
「まだ、数字次第です」
俺は深呼吸をひとつして、前庭へ視線を戻す。
濁り獣の数は目に見えて減っている。
黒い粉も、さっきまでのような粘りを失っている。
本隊は、押し返さない。
玄関線の少し前で、形だけを維持しながら、残りを削っていく。
長かった圧が、少しずつほどけていくのが分かった。
やがて——
黒い霧が、前庭からゆっくりと引いていく。
残っていた濁り獣が、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
『前線危険度、低へ移行。新たな増援なし』
「本隊、停止! 玄関線まで下がりながら、残滓の処理!」
号令が飛ぶ。
盾列が、一歩ずつ下がっていく。
撤退ではない。
決めた「戻る線」まで戻る動きだ。
玄関線の杭と赤布のところまで戻り、そこから先は追わない。
それが今日引いた線。
俺は遠間弩から手を離し、肩で息をした。
日が傾き始めた頃、本隊は玄関線の内側まで完全に戻っていた。
前庭には、もはや濁り獣の姿はない。
残っているのは、黒く汚れた地面と、崩れた岩、それに薄い濁りマナの名残だけだ。
浄化担当と教会の祈祷師が前庭に入り、薄くマナを洗い流す。
学院の観測役が携行型に記録を取り続ける。
濁りが再び濃くならないか。
奥から新しい筋が伸びてこないか。
それを見張る役目だ。
東野営地へ戻る道は、静かだった。
行きと同じ道なのに、別の場所みたいに感じる。
玄関線の杭に結ばれた赤布が、風に揺れた。
戻る場所として引いた線。
そこを、ちゃんと守って戻ってこられた。
(……やっと、一つ目の線だな)
肩越しに振り返ると、前庭の向こうに本命洞窟の入口が見えた。
入口の奥、核があった場所からの濁りマナの流れは、ほとんど感じない。
ただ細い、冷たい流れが、さらに奥の暗闇へ続いているだけだ。
そこに何があるかは、今日の範囲外だ。
東野営地に入ると、救護テントの前でサラが腕を組んでいた。
顔つきは疲れているが、目はまだ動いている。
「戻ったわね」
「ただいま。こっちはもう一段落?」
「重い傷は、何とか全部、線の内側で止められた」
サラが短く答え、すぐに別の担架へ向かう。
リアンが祈り場で亡くなった者たちの名を呼んでいた。
あの札箱は、今日も戻り札と戻らない札を分け続けている。
命が戻った線と、戻らなかった線。
それを、また次の線引きの材料にしなきゃいけない。
夕暮れ。
東野営地の中央天幕で、簡易の戦後会議が開かれた。
本隊の将校、王都の騎士、教会と学院の代表、それにエルディア組。
総大将エドガーとガランが中央に座り、そのすぐ後ろに俺が立つ。
中央には、《ウツシ》の地形図。
本命洞窟と前庭、その奥の暗い穴までが映し出されている。
「本命拠点の核は折れた。当面の濁り流出は止まったと見ていい」
総大将がまず言った。
「王都の判断としても、これは“勝ち”だ。……だが」
そこで視線を前線側ではなく、俺たちの方へ向ける。
「この奥にあるものは、まだ残っている。濁り核の洞窟だな」
「はい。ここを今日の線には入れていません」
俺は《ウツシ》上の暗い穴を指でなぞった。
「今、ここに踏み込めば、今日の被害の記録が無駄になります。撤退と線引きの意味が薄れる」
「……そうだな」
総大将は短く頷く。
「本命拠点の入口と前庭を押さえた時点で、王都軍としての第一次目標は達成だ。濁り核の洞窟への対応は、王都に持ち帰って相談する」
その言葉に、騎士たちの中から小さく息が漏れた。
ほんの少し、悔しそうな音も混じる。
だが、誰も声を上げない。
今日の戦いを見た今、「怖さで線を引く」やり方を腰抜けと笑う者は、さすがにいなかった。
総大将は、続ける。
「この上流本命拠点周辺には、王都軍から駐留部隊を残す」
「人数と構成は」
ガランが静かに問う。
「本隊から歩兵を中心とした一部隊。騎士団から数名。教会と学院からそれぞれ観測役と祈祷師を残す。数は明日までに詰めるが、最低限“玄関線を維持できる戦力”は置いていく」
線を守るための駐留だ。
攻め込むためじゃない。
「エルディア側には、どうお願いする?」
総大将の視線が、ガランへ向く。
「村と支部からは、人を借り続けている。無理は言えんが……」
ガランは少しだけ顎に手を当て、それから答えた。
「村の守りを崩さない範囲で、灯と鎚から数名ずつ、交代制で上流の補助に出す。足場の補強と線の維持は、こっちの得意分野だ」
「助かる」
総大将の顔が、ほんの少しだけ緩む。
「代わりと言っては何だが……エルディア組の一部には、王都まで来てもらいたい」
その言葉に、天幕の空気がわずかに変わった。
「今回の上流本命拠点戦の記録と、線引きのやり方を、王都側に正式に報告してほしい。ガラン殿と——」
そこで、総大将の視線が俺に向く。
「撤退ラインと危険度の線を引いた、セイ君にも」
「……俺、ですか」
口から出た声が、思ったより低かった。
「他にも、必要に応じて数名。《ウツシ》と記録に詳しい者がいれば助かる。エルディア支部の判断に任せる」
ガランがこちらを見る。
「王都までの護衛はこっちで用意する。帰りも送る。しばらく村を離れることになるが……どうだ?」
王都。
この世界に来てから、一度も足を踏み入れていない場所。
そこへ行く理由が、「武功」じゃなく「線引きの報告」だというのは、悪くない。
頭の奥で、リラが短く告げる。
『同行を推奨します。今回のログ整理と報告補助の面でも妥当です』
俺は一度だけガランの方を見てから、答えた。
「……行きます」
ガランが小さくうなずいた。
「よし。じゃあ決まりだな。村にも話を通す。サラやミナ、他のメンバーとも相談して、誰を残して誰を出すか決めよう」
「はい」
会議は、そこから細かい話に移っていった。
駐留部隊と交代制。
村への補給線。
祈律帯の新しい危険ラインの位置。
それらはガランと総大将、エドガーたちの仕事だ。
俺は一歩だけ後ろに下がり、天幕の外の空気を吸った。
東野営地の空は、ゆっくりと暗くなっていく。
灯籠の光が一つずつ灯り、線の位置を示す。
本命拠点の濁りは、ひとまず止めた。
今日の線は、それでいい。
だが。
(王都か……)
頭の中に、新しい線が一本浮かぶ。
上流本命拠点から、村。
村から、王都。
その線の上で、どんな「怖さ」が待っているのかは、まだ分からない。
分からないなら、線を引きながら進むしかない。
玄関線の杭に結ばれた赤布が、遠くで揺れた気がした。
戻る場所は、ちゃんと守られている。
だから俺たちは、次の場所へ行ける。
そう思いながら、俺は天幕の中へ戻った。
次の線を決める話し合いに参加するために。




