第7話 おいしいコーヒー
あ、見張りのお巡りさんが戻ってきました。
コーヒーを取りに行くと言って席を外していたんですよね。
ちょっと警備が甘すぎると思いますが、僕としては好都合です。
どうもどうも。
僕の分のコーヒーはありますか?
「あるわけないだろ。大人しくしていろよ。そしたらメシを持ってきてやる」
早く食事をしたいです。
もう何時間も経っていますよ。
近くのファーストフードでハンバーガーセットをお願いします。
「……おい。舐めてんのか。状況が分かっていないようだな。このサイコ野郎が」
サイコは否定しませんが、僕はしっかりと現実を認識しています。
犯罪者を捕まえて満足している警察は、何か具体的な対策を立てているのですか。
「もちろんやっている。敷地の外周をバリケードで覆って、常に全方位を見張っている。狙撃部隊もいるから、有事の際は迎撃も可能だ」
それでは不十分じゃないですかねぇ。
たとえば巨大ロボットが攻めてきたらどうするのですか。
「俺みたいな下っ端に聞くなよ。たぶん軍がなんとかしてくれるだろ。警察の役目はそれまでの時間稼ぎと一般市民の保護だ。それに巨大ロボットは街の外に向かった。当分は戻ってこないだろう」
楽観的で羨ましい限りです。
お巡りさんはそうやって不安を紛らわせることで理性を保っているのですね。
本当は泣き出したいのではないですか。
こんな状況ではストレスも蓄積されているでしょう。
別におかしなことではありません。
誰だってそうですから。
「違う……俺は、まだ平気だ。何も問題ない」
おや、顔色が悪いですねぇ。
大丈夫ですか?
「くそ、うるせぇな。話し、かけるな……」
なんだか体調がよろしくないようで。
もしかして、コーヒーに筋肉弛緩剤でも入れられてたんじゃないですか。
この極限状態ですからねぇ。
飲食物には気を付けないといけませんよ。
「うぅ……あ、に……」
あーあ、倒れちゃいましたか。
コーヒーもこぼしてもったいないですねぇ。
きっと何の変哲もないのに。
お巡りさんは僕の言葉を信じてしまったのでしょうね。
筋肉弛緩剤の混入を疑って、自分が飲んだ可能性を考えてしまった。
真実がどうであれ、思い込みが現実に反映されたのですよ。
いやはや、これで確信しました。
狂った世界は人々の感情に左右されやすくなっていますね。
不安や妄想の類が具現化するようです。
街で見かけるモンスターはすべてその産物なのでしょう。
具体的な条件や限界は分かりませんが、これは非常に面白い現象です。
色々と試したくなりますね。
ここに閉じ込められたままなのも飽きましたし、検証ついでに脱獄しましょうか。




