仲間=楽しい
と、いう風に我々からすると他愛の無い話をとりとめもなくしていくのだ。テーブルの上にはいつの間にか軍事関連の書物や雑誌が散乱していて、明らかに他の人から見ると異様な光景である事は間違いは無いだろう。
個人的には規則正しく決まった日時に湧いてくるこの三人のマニアを店員がどう思ってるかが気にかかる所だ。
「ふうっ…。何だかお腹が空いたわ。お昼にしましょう」
「んぁ。」
「すみませーん。オーダーお願いしますダヨ」
小川さんが片手を挙げてウェイトレスさんを呼ぶ。
実の所、入店してから私達はコーヒーを一杯しか頼んでいない。居座ってて何だか申し訳ないので、メニューを開き私は適当に三人分のオーダーを多めに入れた。
「ん?あー!隊長また勝手に注文したな」
「オレはなんでも構わないないダヨ」
小川さんはそう言うと「丸」の今月号を再び手にとった。
「ほっほっほっ。私の愛する大和と武蔵を侮辱したバツよ」
「そんな事言ってねーよ」
「あっはっはっは。相変わらず隊長は大和が好きなんダナ」
「日本人で大和を嫌いな…あーーーー!!」
「んぁ!?」
「どうしたダヨ」
「今日は金曜日だよね?」
私はまるで何か重要な約束事があるかの様な態度をいきなりとった。二人共ハトが豆鉄砲を喰らった様な顔をしている。
「金曜カレーの日じゃないの!?」
「あーそーダナ」
「んぁ。隊長頼んだんじゃねーの?」
私はゴクリと息をのむと静かに一言。
「頼んでない」
と言った。
「えーーー!!」
驚愕する二人をよそに先ほど私が適当にオーダーを入れた料理が続々と運ばれて来た。
瞬く間にテーブルの上が料理で溢れてくる。先程まで拡がっていた書籍はスミへ追いやられていた。
「ん~あ~。こんなに頼んだの…隊長ぉ~。俺らどんだけ大部隊なんだよ」
「確かに。三人なんて一個分隊にもなんないダヨ。あぁ勿論、旧軍の編成だけど」
小川さん達が呆れた様子で呆然としながらテーブルの上をみている。
「うるさい!大和の乗員は一日六合の米を食べてたんだぞ!」
私は二人を一括すると自分が食べたかったペペロンチーノに手を伸ばすと豪快に啜った。
それに習うように二人も目の前の料理に手を伸ばす。
そして全ての料理を運び終えたウェイトレスさんが私達にトドメの一言を放った。
「後ほどデザートを持ってまいります」
料理を頬張る二人の動作が一瞬止まり視線が私の方にゆっくり向けられる。
その動作はまるで戦艦が主砲を旋回させるかの如くゆっくりだ。
私は調子にのって入れ過ぎたオーダーの気まずさから、思わず窓の外に視線を移した。
三人で何とか大量の料理を平らげると私はトイレの為に一旦席を離れた。
賢明な読者の方々ならお気付きかと思うが私の態度が仕事の時と違う事を。
マニアという人種は人見知りなものが多いが波長の合う人間や、自分の言っている事が解ってもらえる人間にはアッサリ心を開いてしまう。
ここにいる三人も正にそのクチで自分の趣味を理解してくれる仲間に出会えた嬉しさからか、お互いの素性を気にせずに純粋に自分の趣向を思い切りさらけ出している。
勿論、私が世間で騒がれているモデルだという事は二人共知らないはずだ。田中信子という本名も二人には言っていない。
「隊長」と言う私のアダ名は知らない間に三人の間で定着したもので誰が言い出した訳でもない。
ちなみに小川さんは実家が小さい工務店を経営しておりそこで働いているので、ある程度は時間に融通が効く。
「んぁ。」が口癖の彼はカネコさん。どういう字を書くのか解らないのでとりあえずカタカナ表記。
小川さん所の工務店に出入りしていた設計士さんでひょんな事から自分の趣味がバレてしまいそれから意気投合したとの事。それ位しか私は知らない。
そして私と彼等の出会いは何と新聞の投書欄だ。
私が仲間欲しさに三行広告を出したのが始まりだ。
ネット全盛のこのご時世になんともアナログな方法と思われるかもしれないが不用意に自分の事を晒す危険がなさそうなのでそうした。ちなみに文面は
「1208正午高島平ノふぁみれすニテ丸愛読者求ム」
だけだ。
勿論、ワザと解りにくくしてある。
なのでこの文面を見てピンときた人は結構な旧軍マニアである可能性あるかもしれない。
まず、1208の意味は12月8日の事で、「ヒトフタマルハチ」と読む。
そしてその日付けが意味する所は真珠湾攻撃の日付けだ。
しかもこの言い回しは実際に使用されたもので、世界一有名な暗号文と言っても過言ではない
「ニイタカヤマノボレ1208」
から由来する。
後の「丸愛読者求ム」は前出の通り「丸」と言う雑誌は旧軍マニアにとって必携品なのでこの雑誌を愛読している者は筋金入りの旧軍マニアである可能性が高い。
つまり私が作成した文言はちょっとした暗号文のような感じになっておりそれを読み取り理解できる人間は限られているのだ。
ちなみに普通の人にわかりやすく言い直すと。
「12月8日の12時、高島平のファミレスにて雑誌『丸』を愛読されてる方、集まって一緒にお話しをしませんか?」
と、なる訳だ。
そしてその広告を偶然見た小川さんがカネコさんを誘って来たのだ。
しかも高島平にファミレスと呼べるものは今いる所しか無い。
そんな藁の山から針を探し出すような可能性しか無い中から三人は出会ったのだ。
以上。




