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知らない森
匂いがした。
それは、やわらかな春の匂いだった。
匂いがした。
それは、湿った土の匂いだった。
音がした。
それは、揺れる木々の音だった。
音がした。
それは、遠くで鳴く鳥の声だった。
ナナシはゆっくりと目を開ける。
空だった。
青い、青い空だった。
木漏れ日が揺れる。
しばらく見ていた。
綺麗。
それしか言葉はなかった。
身体を起こした。
知らない森だった。
知らない場所だった。
不思議だと思った。
だって、
知らないから。
足元を見た。
ランドセルだった。
少し色褪せたランドセル。
中を開いた。
自由帳が入っていた。
真っ白だった。
名前はなかった。
何も書いてなかった。
ナナシはそれをしばらく見つめた。
それから閉じた。
風が吹く。
葉が揺れる。
心地いい。
だから見ていた。
⸻
「おおい!」
声がした。
振り向いた。
薪を背負う男が立っていた。
男の目は丸かった。
駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
男は、
ナナシを見つめた。
だから、
ナナシも。
男を見つめた。
それから、
正直に答えた。
「たぶん。」
男は困った顔だった。




