閑話『名もなき村人』
三十代後半か四十代前半くらい。
薪を背負った男がいた。
裕福ではない。
でも貧しくはない。
辺境の村で普通に暮らす。
妻と息子がいる。
生活は苦しい。
毎日、
朝から森へ出かけ、
自然の恵みを採取し、
自然に感謝して狩りをする。
そして、
夜が暗くなる前に家に帰る。
そんな生活を、
毎日毎日、享受する。
それが幸せだと感じる。
そんな男だった。
その日、いつものように森を歩く。
そこで、男は発見した。
小さな子供だった。
遠くに倒れていた。
心臓がドクンと鳴る。声が出た。
だが、すぐに走った。
子供の服装が目に映る。
見たことのない服だった。
見たことのない鞄だった。
王都の子か。
あるいは貴族の子か。
だが男は、迷わなかった。
不敬罪になるかもしれない。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
だが、
男の人が最初に口にしたのは。
もっと単純な言葉だった。
「大丈夫か?」
それから。
「生きてるか?」
「怪我はないか?」
ただ、それだけだった。
優しいからではない。
きっともっと単純な理由だ。
困っている子供がいた。
だから声をかけた。
それだけ。
それだけだった。
⸻
森で倒れている子供に、
名前も知らずに声をかける村人がいた。
その優しさの上に、
後のアレシアという国が立っていた。
ナナシは
聖名王国アレシアという国の辺境にある村。
その近くの森に、
倒れていた。
⸻
そこに、英雄でも神官でもなく、
薪を背負った名もなき村人
が、
ナナシと接触した。




