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本物の温度  作者: 幽鬼
『ナナシという存在』
12/14

ナナシの本質

ナナシとは、

「揺らぐ余白」

として存在している。


固定された人格ではない。


空っぽでもない。


相手を理解するための、

未定義の余白。


だからナナシは、

相手によって自然に変化する。


優しいと思われれば、

優しいナナシになる。


安心できると思われれば、

安心できるナナシになる。


静かな子の前では静かに。


元気な子の前では元気に。


問題児の前では、

芯の強い存在として。


しかし、

ナナシ自身は、

それを演技だと思っていない。


全部、

本当にそう感じている。


だからこそ、

誰も違和感を抱かない。


そして、

相手はナナシを理解する。


「この子は、

自分を分かってくれる」


と。


その瞬間、

接続が成立する。


ナナシは、

相手の深層へ触れ始める。


しかし、

ナナシが求めているものは、

深層そのものではない。


本物だった。


人は、

表層を纏って生きている。


笑顔。


日常。


優しさ。


建前。


普通の生活。


ナナシは、

それらを否定しない。


むしろ、

愛している。


朝の教室。


放課後。


夕飯の時間。


友達との会話。


晴れた空。


人が笑っている光景。


そうした日常が、

人間を輝かせていることを、

ナナシは知っている。


だからこそ、

その奥にあるものが、

強く煌めく。


表層から深層へ。


建前から本音へ。


人が、

取り繕えなくなる瞬間。


言葉ではない本音が、

刹那的に露出する瞬間。


その落差。


その切り替わり。


その一瞬だけ現れる煌めき。


ナナシは、

そこへ強く温もりを感じてしまう。


何故なら、

それは、

ナナシ自身が何度も経験している、

魂の再定義に似ているから。


ナナシは、

能力発動のたびに、

相手視点のナナシへ定義される。


揺らぐ。


混ざる。


変化する。


そして、

その全てが、

ナナシ自身へ蓄積されていく。


まるで、

様々な色が混ざり合った、

黒のように。


あるいは、

未だ混ざり続けている途中の、

灰色のように。


しかし、

ナナシ自身は、

本当の自分を見ることができない。


ナナシが、

自分を知りたいと思った瞬間。


「自分を知りたいと思うナナシ」


が、

新しく定義されるから。


だからナナシは、

永遠に、

本当のナナシへ辿り着けない。


それでもナナシは、

自分にも、

まだ見えていない本物があると信じている。


だから今日も、

人間を知ろうとする。


理解しようとする。


もっと深く、

もっと近く、

もっと温もりへ触れようとする。


それは、

悪意ではない。


破壊衝動でもない。


純粋すぎるほどの、

「知りたい」

という欲求だった。


だからこそ、

ナナシは危うい。


静かで。


穏やかで。


優しくて。


人畜無害に見えるまま。


人の最も深い場所へ、

自然に触れてしまう。


そして、

人の言葉ではない本音へ触れた瞬間。


ナナシは、

静かに安心してしまう。


温かい、

と思ってしまう。


もしかすると。


ナナシが、

人間へ感じているその温もりこそ。


ナナシにとっての、

愛なのかもしれなかった。

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