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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
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第51話『追憶の郷音』

 事故現場の交差点にやって来た。

 私たちは交差点手前にあるパチンコ屋の、新台入替と書かれたのぼりに身を隠しながら、耐刃帽を被った。

 万が一の二次災害から頭部を防ぐ目的もあるけど、それよりも大将と結斗さんから顔を隠す意味合いの方が強い。

 私と峰やんは当時の大将たちと面識はないけど、龍馬さんは大将と結斗さんに顔がバレるわけにはいかなかった。


「大将たち、あそこにおるきに」


 龍馬さんがそう言って指差した先に、交差点を凝視して立っている大将と結斗さんの姿が見える。


「最後に、手順の確認をしましょう」


 そう言った峰やんに、私と龍馬さんが頷く。

 峰やんは続けた。


「まず、今から歩実さんの親父さんを探します。そして事前に私が親父さんに触れながら瞬間移動を使って、この場から親父さんには消えてもらいます。その後、坂本さんは木箱から人形を取り出してください。人形は木箱から取り出しただけで、自動的に親父さんと同じ行動をするようになっています。歩実さんは、ちゃんと歴史どおりに事故が発生したか見届けてください」


「分かっちゅう、まかいちょき!」


「オッケー!」


 1年前にタイムスリップしてきた私だけど、この事故現場にいる大将はこの時代の人であり、トワイライトにいる大将より過去の人物だ。

 結斗さんいわく、この現場にいる大将の記憶どおりの事故が発生しないと、今トワイライトにいる大将の記憶と相違点が生まれて重大なタイムパラドックスが発生してしまう可能性があるらしい。

 例えそうじゃなくても、事故を発生させないと結斗少年の運命は変わってしまい、今トワイライトにいる結斗さんの存在は消えてしまうだろう。

 だから、単純にお父さんを救出するだけじゃなくて、発生した事故の歴史を変えずにお父さんを救出する必要がある。


「それじゃあ、そろそろ歩実さんの親父さんを探しましょう」


 そう言って峰やんが交差点に向かって歩き出す。

 峰やんと龍馬さんがいてくれて、本当に良かった。

 私一人だったら、きっとパニックになって救出作戦は失敗していただろう。


 お父さんはなかなか見つからず、あと5分もすれば事故発生の時間になってしまうというところで、龍馬さんが木箱を置いて指差した。


「あれやないか?」


 龍馬さんが指差したのは、さっきまで私たちがのぼりで身を隠していた、パチンコ屋の入り口だ。

 ちょうどパチンコ屋から出てきた、見慣れた懐かしい顔……。

 人形ではない、本物の生きたお父さんの姿だ。


「お父さん!」


 思わずそう叫ぶと、驚いた顔をしてお父さんは私を見た。


「歩実!? こんな所でどうしたんだ?」


 お父さんの声だ……。

 もう聞くことはできないと思っていた。

 我慢していた涙が、一気に頬を伝って流れ落ちる。


「お父さんだ……」


 もっとよく見たいのに、涙のせいで全然見えない。

 目を細めて涙を押し出そうとしても、次から次へと溢れ出てきて、私の視界の邪魔をした。


「歩実さん、泣くのは後ですよ」


 優しいトーンでそう言った峰やんが、お父さんに近付く。


「それじゃあ、歩実さん、坂本さん、後は頼みました」


 そう言って峰やんは銀色の小箱をポケットから取り出し、お父さんに触れて箱の表面を見た。

 瞬時に、峰やんとお父さんが消える。

 これで、お父さんは助かった、と同時に歴史が変わることが確定した。

 もう後には引けない。

 事故をわざと発生させて、絶対に大将と結斗少年に事故を認知してもらう必要がある。

 私は袖で涙を拭った。


「龍馬さん、木箱を開けてください」


「了解ぞね」


 そう返事した龍馬さんが、木箱の蓋を開ける。

 すると、お父さんそっくりの人形は起き上がり、立ち上がって何も言わず交差点の方へゆっくりと歩き出した。

 その時、トレーディングカードを見ながら交差点を渡る少年が目に入る。


「ヤバいッ!」


 私は、ゆっくりと動く人形を抱え、交差点に向かって走り出した。

 間違いなく、あの子が結斗少年だ。

 人形のゆっくりとした動作では、間に合わない。


「信号変わっちゃうよ!」


 母親らしき人がそう言うと、急に走り出そうとした結斗少年が転んだ。

 聞いていたとおりの展開だ。


「おぉぉい、そこ! 危ないぞぉぉ!」


 叫んだのは、きっと大将だろう。

 私は歩道から飛び出し、結斗少年の側で抱えていた人形を立たせた。

 すると、人形が車に向かって両手を振り始める。

 なんとか間に合った、これで歴史どおりだ……。

 安堵の溜め息を吐く。


「歩実さんッ!」


 龍馬さんの声が聞こえた瞬間、雷にでも打たれたような衝撃が全身を走り、私の体は宙を舞った。

 そのまま道路に叩きつけられ、消えゆく意識と視界の中で、何が起こったのか判断する。

 ぼんやりと、人形が側で倒れているのが見える。

 そっか。私、人形と一緒にバイクにかれちゃったんだ……。


「歩実さんッ!」


 私の側に駆けつけた龍馬さんが、銀色の小箱を取り出しているのが見える。

 そこで私の意識は消えたのだった。




「外傷は無いみたいです。耐刃服を着ていたのが幸いでした」


 会話する声が聞こえる。

 今の声は、フミさんだ。


「バイクに轢かれたショックと、寝不足が祟って今は眠っているようです」


 この声は結斗さん……。


「ほんに良かったぜよ。歩実さんが轢かれた時、黒船を初めて見た時より肝が冷えたっちや」


 これは龍馬さん……。


「本当に、無事で良かったです……」


 エッちゃんの声だ……。


「大将の車、東京に取りに行かないといけませんね」


 峰やん……。


「なら、俺が取りに行くよ」


 大将……。

 みんなが側にいる。


 私はゆっくりと目を開けた。

 白い、見慣れない天井が目に入る。

 つい、知らない天井だ、と言いそうになる。


「歩実さんッ!」


 私が目を覚ましたことに気付いたエッちゃんが、大きな声を出した。


「エッちゃん、おはよ」


 私はそう言って、ゆっくりと体を起こした。

 そして周囲を見る。

 見慣れない白い壁に、白いカーテン。

 とても清潔感のある空間に、ここが病院だと察する。

 この場にいるみんなの顔を一人一人見る。

 見慣れた顔の中、一人見慣れない──いや、むしろ一番見慣れた顔があった。


「お父さん……」


 私がそう呟くと、お父さんは一歩私に近付いて言った。


「歩実、話は全部聞いたよ。お父さんを助けてくれたんだって」


 思い返せば、お父さんの遺品整理で見つけた、あの手帳が全ての始まりだった。

 手帳のお陰でトワイライトのみんなと出会い、お父さんを救える可能性を信じてトワイライトで働き始めた。


「お父さん、私、やったよ、やり遂げたよ……」 


 そう言うと、お父さんは私の泣き顔を隠すように抱き締めた。


「歩実、ありがとう……」


 お父さんに抱き締められるなんて、小学生以来だろうか。

 衣類に付いたタバコの臭いすら懐かしい。

 私は声が枯れるまで、お父さんの腕の中で泣いたのだった。


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