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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
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第49話『悦子の策』

「それが、私とあの人との出会いでした。正樹……いや、大将が私の孫だと気付いたのは、あの人と結婚する時ですよ」


 そう言って、お婆ちゃんは笑った。

 結斗さんが腕を組み、「うーん……」と言い淀んで大将を見る。


「まさか、大将がエッちゃんの孫だったとは……」


 ここいる誰もが、想像だにしなかったことだ。

 シンプルに悪口になってしまうので誰も言葉にはしないが、エッちゃんと大将では、頭の出来が違いすぎる。


「今日は、皆さんに大切な事を伝えにやって来ました」


 そう言ってお婆ちゃんは一口水を飲み、続けた。


「いいですか、よく聞いてください」


 そう前置きして、私たちの顔を見る。

 タイムパラドックスの危険を冒してまでここへ来た理由をこれから話そうとしている。

 私は生唾をゴクリと飲み込んだ。


「私はこの店を、1年遅らせて作りました」


 ……はい?

 結斗さん、大将と顔を見合せる。

 大切なこと、と前置きした割に、何がどう重要なのかがさっぱり分からない。

 私たちの様子を見て、お婆ちゃんは大将に言った。


「正樹、この建物は築何年か聞いていますか?」


 大将が腕を組んであごに手を当てる。


「確か、親父から昭和28年って聞いたことがあるけど……」


 お婆ちゃんは頷いた。


「そうです。昭和28年、1953年です。正樹や歩実さんの時代は2027年ですから、築74年ということになります」


 そう言って、お婆ちゃんは人差し指を立てて続けた。


「言い換えましょう。この店の空間は、出来てから74年経っています。ですが、私の中ではこの店は築73年なのです」


 お婆ちゃんの言葉を聞き、結斗さんはハッとして私に言った。


「歩実さん、今すぐ悦子さんと裏口を出て、スマホで大谷翔平・連続出塁記録、と検索してください!」


 お婆ちゃんの言っていることも、結斗さんが言っていることも訳が分からない。

 だけど、興奮気味に言う結斗さんは、何か気付いたようだ。

 言われたとおりにやってみる。


 裏口のドアを開けようとすると、お婆ちゃんが私の代わりにドアを開けた。

 裏口を出て、スマホを触る。

 えーと、何だっけ?

 大谷翔平・連続出塁記録……。

 特にめぼしい情報は出てこないけど……?

 私は疑問を抱いたまま、お婆ちゃんと一緒にカウンターへ戻る。


「どうでしたか!?」


 興奮冷めず、前のめりに結斗さんが聞いてくるが、私は首を傾げた。


「いや、あんまり目ぼしい情報が出てこなかったんですけど……」


 私がそう言うと、結斗さんは「なんとッ!」と声を張った。

 大将が言う。


「えっ、歩実さん、大谷の連続出塁記録って、去年だいぶ騒がれてたよ?」


 そうなんだ。

 私、野球の情報とか見ないからなあ……。

 結斗さんが言う。


「大谷選手のメジャー連続出塁記録は、去年の4月にイチローの記録を更新しました。その情報が出てこないということは、裏口の外は2027年ではないということです!」


 結斗さんの言葉に、お婆ちゃんが頷く。


「結斗さん、おっしゃるとおりです。この店はどの時代にも属さない時間経過を辿っていることは、正樹も歩実さんも理解していることでしょう。そこで私は、1953年に建てられるはずのこの建物を、わざと1年遅らせて1954年に建てたのです。いわば、この店の歴史を改変したということです。そうすることで、出来てから74年経過というこの店内の空間は、私の中で1年間の誤差を生みました」


 お婆ちゃんの言葉に、大将はバンダナを取って頭を掻いた。


「つまり、どういうことなんだ? 婆ちゃん、簡単に言ってくれよ」


 大将の言葉に、お婆ちゃんはフフッと笑った。


「じゃあ、一番簡単に言いましょう。私が裏口の扉を開けて外に出たら、2026年に行くことができるということです」


 それがどういうことなのか、私にも理解できた。

 結斗さんが、真剣な眼差しで私の肩に手を置く。


「歩実さん、行きましょう、2026年3月27日の、あの場所へ」


 そうだ……。

 私はその為に、このお店で働くようになったんだ。

 

「ちょっと待ってください」


 今までただ聞いていただけの峰やんが言う。


「結斗さんと大将は、行っちゃダメなんじゃないですか? だって去年、事故現場に二人で行ったんですよね? それなのにまた行ったら、去年の自分と鉢合わせになるんじゃないですか?」


「あっ……」


 思わず、声を漏らした。

 峰やんの言うとおりなんじゃないだろうか。

 結斗さんの顔が、みるみる青ざめていくのが分かる。

 そんな結斗さんに、私は真剣な眼差しを向けた。


「大丈夫。絶対に、お父さんを救ってみせる!」


 結斗さんに言ったのか、自分自身に言い聞かせたのか分からない。

 私はそう言って、汗だくの掌を握りしめたのだった。



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