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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
48/53

第48話『──side悦子3──』

 1953年4月、太秦うずまさに新居を建てたお母さんと共に、私は元の時代へ戻って暮らしていた。

 戦後から8年、NHKのテレビ放送が始まり、街頭には白黒のテレビが売り出されている。

 もう間もなく日本が高度経済成長期に突入することを知ってはいるが、相変わらず私はトワイライトでメイドをやっていた。


 トワイライトに向かう途中、寺町電気街を歩く。

 歩実さんの時代には消滅してしまった寺町電気街だけど、私の時代では東京の秋葉原や大阪の日本橋に次いで、日本有数の電気街として存在している。

 吉田茂首相のバカヤロー解散が流れる街頭のテレビニュースを横目に、販売促進として置かれた松下電器の最新作である冷蔵庫を見ながら、ついに電気冷蔵庫が一般家庭に普及するのかと、時代の変革を感じながら出勤した。


 四条通りを東へ行き、花見小路(こうじ)を南へ、南園小路を東へ進む。

 そして御陵前ごりょうまえ通りを越えた先に、いつもの店が──なかった。


 ぽっかりと土がむき出しになった空き地を見ながら、呆然と立ち尽くす。


 つい昨日まで、私はこの場所にあったレストランで働いていた。

 なのに、まるで存在自体なかったかのように、店が丸ごと消えてしまっている。

 混乱と同時に、私の体が震えだした。


「嫌や、嫌やで、なんうてへんかった……大将も、歩実さんも、峰やんも、なんうてへんかった……」


 昨日まで笑って、ここで楽しく会話していた。

 常連もみんな、普段どおりだった。

 なのに、こんなにもいきなり……。


 空き地を眺めていると、涙が止まらず溢れ出した。

 ここは、私の青春の場所だ。

 青春の全てが、ここにあった。

 気の合う仲間と話すことが楽しいということも、働いて褒められると嬉しいということも、全てトワイライトが教えてくれた。

 恋というものすら、教えてくれたのはこの場所だった。


「もう、みんなに会えへんの?」


 座り込んで泣きじゃくっていると、声をかけられる。


「大丈夫?」


 知らない男の人だ。

 無視して構わず泣き続けていると、男はさらに質問してきた。


「ここはあなたの土地なの?」


 私は首を横に振る。


「私の土地やない。やけど、ここは、私の居場所やったんや!」


 急に怒鳴った私に、男は驚いて私を見た。

 そして私にハンカチを渡そうとする。

 私は男の手を振り払った。


「そんなんいらへんわ!」


 そう言って私は、袖で涙を拭う。

 八つ当たりもいいところである。

 知らない相手に当たったところで何もならないけど、感情を抑えることができない。

 冷静に考えるなんて、全てを失った私にできるわけがなかった。

 苦笑いを浮かべながら、男はポケットにハンカチをしまう。


「あなたの居場所を盗ってしまったのなら、本当に申し訳ない。俺はここで喫茶店を作ろうと思って、先日この土地を買い取ったんだ」


「喫茶店……」


 私は、トワイライトの歴史を思い出した。

 トワイライトの前身は、大将の親父さんがやっていた居酒屋永久(えいきゅう)だ。

 さらにその前身は、確か大将のお爺さんがやっていた喫茶店だったと、いつだったか大将から聞いたことがある。


 私は、男の顔をじっと見つめた。

 どこか大将の面影がある。

 いや、この男の面影が大将にあると言った方が正しいだろう。


「もしかしてお名前、杉村さんいはるんちゃいますか?」


 私はそう質問した。

 杉村は、大将の名字だ。

 私の質問に、再度ビックリした顔で男は言った。


「えっ、どこかで会ったっけ?」


 この京都でなぜか標準語で話す不思議さ、そして驚いた顔が大将にそっくりだ。

 標準語で話す相手には、標準語で返す。

 お母はんから小さい時に叩き込まれた会話術だ。

 私はそんな事に気が回るくらいには、冷静さを取り戻していた。


「私は、これからここに出来る店で働いていたんです」


 そう言うと、男は腕を組んで首を傾げた。


「これからできる店?」


「そうです。その店の店主は、あなたの孫がやっていました」


 そう言って、私は青春の全てをこの男に語ったのだった。



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