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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
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第47話『謎のお婆ちゃん』

 黄色とピンクのクレープ生地を作り、それを重ねて中にクリームやキウイ、サクランボ、メロンを入れて三角形に折る。

 最後にクレープの上にイチゴを乗せて完成。

 クレープ生地は着物、イチゴは顔、クレープのひな人形だ。


「おっ、お菓子の雛人形かい?」


 私の作ったクレープを見て、大将が言う。


「はい。エッちゃんが雛人形を持ってないって言ってたから、作ってあげようと思って」


「エッちゃん絶対喜ぶよ、それ」


 そう言って大将は笑った。

 保存することのできない雛人形だけど、喜んでくれたら来年も作ってあげようかな。

 あと、エッちゃんの好きな抹茶ケーキとサイダーも用意しよう。

 だって今日は3月3日ひな祭り、女の子が主役の日だもん。


 私がこの店に来てから、もうすぐ1年が経つ。

 思い返せばこの1年、お菓子作りからタイムスリップまで、色んな経験をした。

 危険な目に遭うこともあったし、死にかけたこともあった。

 だけど、やっぱりこの店で働くのは好きだ。

 優しい大将と、可愛いエッちゃん、そして楽しい常連客。

 

「おはようございます」


 店のドアが開く。

 入って来たのはコック服を着た山田藤吉、通称峰やんだ。

 峰やんは近江屋事件以降、大将に弟子入りしてこの店で働いている。


「おはよう、峰やん。今日は早いね」


 私がそう言うと、峰やんは笑顔で言った。


「はい。今日から和食を作らせてもらえますんで!」


 峰やんは私の一つ下、今年二十歳の元力士だ。

 大将に弟子入りしたけど、峰やんの和食作りは相当な技術だった。

 そこで大将が峰やんに、イタリアンじゃなくて和食を作るように言ったのが、つい先日だ。

 愛嬌のある顔に温厚な性格で、私の弟のような存在になりつつある。


「そういえば峰やん、龍馬さんたちは元気にしてる?」


 大将がそう質問する。

 峰やん、龍馬さん、中岡さんは、3人で一緒に暮らしている。

 あれから龍馬さんと中岡さんは剣術道場を開き、剣道の先生をしていた。


「はい、元気ですよ。なんか、門下生が集まらなくて今日もどこかへ営業に行ってますね」

 

 道場の経営は厳しそうだ。

 どうにか赤字を出さないようにと、龍馬さんも中岡さんも忙しそうで、最近この店に顔を出していない。


「そっか。たまにこの店に顔を出してもらえると嬉しいんだけどな。龍馬さんに会えなくてエッちゃんも寂しがってるよ」


 大将がそう言うと、峰やんは笑った。


「じゃあ、伝えておきますね。エッちゃんが寂しがってるなんて言ったら、坂本さんならきっとすぐ飛んで来ますよ」


「ははっ、ちげえねえ」


 そう言って大将は冷蔵庫の中身を点検した。


 ──ドンドンッ──


 唐突に、居間の方から音がする。

 私たちは顔を見合せ、互いに頭を傾げた。


 ──ドンドンッ──


 もしかして、裏口のドアをノックする音じゃないだろうか?

 そう思った私は裏口へ行き、鍵を解除すると、外にいる人にドアを開けられた。

 銀髪の短い髪に、紺のカーディガン、ベージュのズボン、シワシワの優しそうな顔、腰が曲がった小さな背中、歳は80くらいだろうか? 杖を持った顔の見慣れぬお婆ちゃんがそこに立っていた。


 裏口から訪問されたのは初めてだ。

 近所に住んでいる人だろうか?


「はい、どうされましたか?」


 私が声をかけると、お婆ちゃんはニコッと笑って言った。

 どこか既視感のある笑顔だ。


「すみません、店の中に入れてもらってもいいですか?」


「あっ、お客様ですか!?」


 なぜ表から入らないのだろう?

 迷い込んでしまったのだろうか?

 まあ、不思議ではあるけど、怪しむほどではない。

 私は笑顔で快く中へ案内した。


「どうぞ」


「ありがとう」


 そう言って店の中へ入ったお婆ちゃんは、居間を見て足を止めた。


「どうかしましたか?」


「ああ、いえ、何でもありません」


 そう返事して、足を進めるお婆ちゃん。

 何か気になる物でもあったのかな?

 首を傾げつつ、大将と峰やんのいるカウンターへお婆ちゃんを案内する。

 お婆ちゃんを見た大将は、驚いて声を出した。


「婆ちゃん!?」


正樹まさき、久しぶりですね」


 大将のことを名前で呼ぶお婆ちゃん……。

 大将のお婆ちゃんってこと!?


「あっ、こちらにどうぞ」


 私はそう言って、カウンター席に案内した。

 杖を立て掛け、そこへ座るお婆ちゃん。

 そして店内をぐるりと見渡し、言った。


「ああ……懐かしい……」


 お婆ちゃんの言葉に、頭をひねる大将。


「えっ、婆ちゃん、この店改装してから来たの初めてじゃないか?」


「何回も来たことがあります。ずっと、ずっと昔にね……」


 そう言って、懐かしむように目を細めて店内を見回すお婆ちゃん。

 大将が先代から店を継いで、居酒屋の店内をレストランに改装したのは3年前と聞いている。

 ずっと昔と言ったお婆ちゃんに、私と大将は互いに顔を合わせ、首を傾げた。

 峰やんが湯呑みに水を入れ、お婆ちゃんに出す。


「どうぞ」


「ああ、峰やん、ありがとうございます」


 峰やんは自分のあだ名を突然言われ、ギョッとした。

 当然峰やんとお婆ちゃんは、初対面だ。


「もしかして、私たちの事知ってるんですか?」


 私はお婆ちゃんに質問した。

 このお婆ちゃん、もしかしたら未来から来た人なのかもしれない。


「ええ、存じてますよ、歩実さん」


 私の名前も知っている……。

 不思議にお婆ちゃんを見ていると、お婆ちゃんは「フフッ」と笑った。

 また、どこか既視感のある笑顔だ。


「未来から来られたんですか?」


 私がそう聞くと、お婆ちゃんは一瞬驚いて私を見てから、顔をうつむかせた。

 肩をヒクヒクさせ、笑いを堪えているように見える。


「歩実さん、婆ちゃんは未来人じゃないよ。正真正銘、俺の婆ちゃんだから」


 そう言う大将。

 まあ、確かにそうなんだよな……。

 だってこのお婆ちゃん、そもそも店の表から入って来てないもん。

 裏口から店内に入ったということは、私と同じ時代から来た人ということだ。


「失礼ですが」


 私はそう前置きし、言った。


「どこかで会ったことがある気がするんです。だけど、思い出せません」


 お婆ちゃんは湯呑みの水を一口飲み、言った。


「何度も会ったことがありますよ。お昼までに結斗さんが来られたら、全てをお話ししましょう」


 何度も会ったことがある……。

 そして結斗さんも知っている……。

 なぜお昼までなのか……。

 これらのヒントに、私はピンときた。

 お婆ちゃんは80……いや、90歳くらいかもしれない。

 90歳……いや、正確には、92歳だとすると、このお婆ちゃんの正体は、私の予想どおりの人だ。

 だとすると、昔龍馬さんが言っていた言葉を思い出す。

 大将、あんたはバカだよ、大バカ者だ。


「大将……私、お婆ちゃんが誰なのか分かっちゃったかも」


 そう言う私に、大将は不思議そうに私を見た。


「正体も何も、婆ちゃんは俺の婆ちゃんだよ?」


 首を傾げる大将に、峰やんが言う。


「私も誰か分かりましたよ。よく見るとそっくりじゃないですか。何で大将は今まで気付かなかったのか……」


 ここに来てまだ3ヶ月の峰やんでさえ、気付いたようだ。

 そうだよね、峰やんの言うとおり、よく見たら顔がそっくりだよね、エッちゃんに……。


「大将、もしかしてお婆ちゃんの名前、知らないんじゃない?」


 私がそう聞くと、大将は言った。


「いや、それくらい知ってるよ。俺の婆ちゃんは、杉村悦子って名前なんだ」


 私と峰やんは溜め息を吐いた。

 なぜそこで気付かないんだよ。いや、今まで気付かなかったんだよ、大将。自分はエッちゃんの孫だということに……。


 お婆ちゃんがさっき言っていた、昼までに結斗さんがればっていうのは、昼になるとエッちゃんが出勤してくるからだ。

 自分に会うとタイムパラドックスが発生してしまう。

 それを避ける為に、このお婆ちゃんはエッちゃんのいない時間に来たということだろう。


「大将、確か今日のまかない、カレーでしたよね?」


「うん、そうだよ」


 大将の返事を聞き、私は自分の分の賄いカレーとサイダーをお盆の上に置いて、お婆ちゃんに出した。


「どうぞ」


 驚いて私を見るお婆ちゃん。


「えっ、いいんですか?」


「はい、私はいつも食べてますので」


「ありがとうございます」


 そう礼を言って、お婆ちゃんは「いただきます」と、手を合わせた。

 スプーンを持つ手が僅かに震えている。

 歳のせいで震えているのではない。きっと、懐かしすぎて感動しているからだ。

 カレーを一口食べ、お婆ちゃんは溜め息を吐いた。


「ああ、美味しい……」


 エッちゃんがこの世で一番好きな食べ物。

 それは大将が作る賄いカレーだ。

 多分、お婆ちゃんはこれが食べたくても我慢するしかなかったんだろう。

 だって、ここへ来たくても来れる機会なんてあまりないんだから……。

 過去の自分と目を合わせると、タイムパラドックスが発生してトワイライト店内に飛ばされてしまうことは分かっている。

 だけど、トワイライト店内で過去の自分と目を合わせたらどうなるのか、それは分からない。

 もしかしたら、重大な事故が起こる可能性もある。

 だからお婆ちゃんは、極力この店には近付かないようにしていたんだろう。

 今日はきっと、その危険をおかしてでも何か大切なことを伝えに来たんだ。

 お婆ちゃんがカレーを食べ終えてすぐ、店のドアが開いた。


「いらっしゃいませ!」


 店内に入って来たのは、結斗さん。

 結斗さんの顔を見て、突然涙を流すお婆ちゃん。


「ど、どうかされましたかな?」


 訳も分からず、慌ててお婆ちゃんに近付いてハンカチを差し出した結斗さんに、お婆ちゃんは涙を流しながら笑った。


「相変わらず紳士ですね、結斗さん」


 そう言って手渡されたハンカチで涙を拭いながら、お婆ちゃんは語った。

 なぜここへ来たのか、なぜ結斗さんを待っていたのか……。

 それは、結斗さんだけではなく、いや、結斗さんよりも、むしろ私に深く関わるストーリーだった。


 

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