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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
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第45話『龍馬の叫び』

「じゃから、間違えてピストルを発泡してもうただけじゃち。なんちゃあないっちうちょるがよ」


 土佐藩邸からやって来た、空気圧グローブの音を聞いて不審に思った人を龍馬さんが玄関で追い返す。

 玄関を入ってすぐの場所に気絶した6人の侍が置いてあり、バレるかヒヤヒヤしながら見守っていたが、龍馬さんの必死の弁明で何とか土佐藩邸の人は帰っていった。


「いやあ、ヒヤヒヤしました」


 そう言う結斗さんに、龍馬さんは溜め息を吐いた。


「ヒヤヒヤしたんはワシん方ぜよ。上から見ちょったけんど、大将がメッタ斬りされた時なんか、生きた心地せんかったがよ。んで、大将はまっこと無事なんか?」


 信さんが答える。


「骨が折れておったが、命に別状はない」


 再度溜め息を吐く龍馬さん。


「そりゃ良かったがよ……」


 玄関口で座り込む龍馬さんに、結斗さんが言う。


「龍馬さん、安心しているところ悪いですが、この方々が目を覚ます前に人形を設置して、事件を再現する必要があります」


「おう、そうじゃったの」


 そう言って龍馬さんは立ち上がり、玄関口に置いていた木箱から、山田藤吉の人形を取り出す。

 そして龍馬さんは、その人形の顔を刀で切った。


「きゃあッ! グロいッ!」


 顔を斬られて血が噴出する人形に、私は悲鳴を上げた。


「グロい? どういう意味じゃ?」


 信さんが質問してくるが、私に答える余裕はない。


「奇怪でおぞましということです」


 結斗さんがそう答えると、信さんは笑った。


「ではワシなんか、民衆からしたらグロいということじゃな」


 いや、自虐ネタかよ。

 でもやっぱりこういうところで、信さんや龍馬さんとは生まれた時代が違うんだなと強く感じる。

 二人は人形の血飛沫ちしぶきぐらいじゃ、何も動じない。


「じゃあ、峰やんの人形はここに寝かせときゃええんかの?」


「はい、それで構いません」


「じゃあ、後はワシと中岡の人形じゃな」


 そう言って2階に上がろうとする龍馬さんを、結斗さんが止める。


「龍馬さん、近江屋の店主に、事件の裏口を合わせるようお願いしてきてもらえませんか?」


「ん? 井口さんにか?」 


「はい。襲撃された時の状況を、井口さんたちには何も知らない、見ていないと証言してもらいたいのです」


「分かった」


 そう返事して、井口さん家族の元へ向かう龍馬さん。

 私たちは2階へ行き、龍馬さんと中岡慎太郎の人形を木箱から取り出した。

 信さんが懐に隠し持っていた短刀で、龍馬さんの人形の額に横一線の切り傷を入れる。


「信長様、それはもしや!」


 急に信さんに声をかける中岡。


「ん? 何じゃ?」


「それはもしや、薬研藤四郎やげんとうしろうではございませんか!?」


「ほう、うぬは刀に詳しいのか?」


「はい、信長様の短刀はわたくしの時代まで語り継がれてございます。なんでも、鉄の薬研やげんは切れるのに、主人の腹は切らないとか」


 そう言う中岡に、信さんは短刀を鞘に戻して中岡に投げた。


「ならば、うぬにくれてやろう。先ほど生きる決断をした褒美じゃ。その短刀に誓って、今後自害することを許さぬぞ」


「ほ、本当でございますか!?」


 驚喜の顔を浮かべる中岡を横目に、私は信さんに言った。


「信さん、いいの? だってあれ、価値ある物なんじゃない?」


「フンッ。ワシは前々からあの、薬研藤四郎やげんとうしろうという格好悪い名前が気に入らなかったんじゃ」


 なんだそりゃ!?

 子供みたいなセリフだな。


「格好悪いって、別にそんなことないと思うけど……。誰かに言われたの?」


 そう聞くと、信さんは少し黙って呟くように言った。


「……悦子に言われた」


 はあ!?

 アラフィフの戦国大名が何言っちゃってんの!?

 子供にカッコ悪いって言われたから捨てるって、薬研藤四郎を作った刀工とうこうの職人さんが可哀想だよ!

 私は額に手を当てて、信さんをあわれんで見た。

 エッちゃんに好かれたい一心で、かっこつけようと必死じゃん。


「信さん、その気持ち、分かります」


 そう言いながら、ナイフで中岡慎太郎の人形に切り傷を入れる結斗さん。

 ここにも歳のいったダメな男が一人。

 この人たち、きっとエッちゃんが願えば財産も手放すんだろうな……。

 良かったね、エッちゃんが悪女じゃなくて。


「できたかえ?」


 龍馬さんが戻ってきて、部屋を見渡す。


「できました。これで近江屋事件、完全再現です」


 そう言って立ち上がり、カッターナイフをポケットにしまう結斗さん。


「ん? 中岡、そん短刀は何じゃ?」


「信長様からたまわった、薬研藤四郎じゃ。どうじゃ、羨ましいじゃろ?」


 そう言って短刀を龍馬さんに見せる中岡。

 龍馬さんは自分の腰にある刀を手に取り、言った。


「ワシにはこの名刀、陸奥守吉行むつのかみよしゆきがあるき」


 そうドヤ顔をする龍馬さんに、結斗さんは申し訳ない顔を浮かべて言う。


「龍馬さん、あの、残念なのですが、その刀はここに捨てていかなければいけないのです」


なんじゃち!?」


「史実で龍馬さんは、ここで死ぬのです。勿論、刀もここに放置されます。その刀がこの場で放置されないと、歴史が狂ってしまうのです」


「こん刀は、坂本家の家宝ぜよ!?」


「家宝でも、です」


「じゃあ、こんピストルはどうなるんじゃ!?」


「勿論、ピストルも捨ててください」


「カァァーッ!」


 龍馬さんのやりきれない思いの、悲痛の叫びが八畳間の部屋に響いたのだった。





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