第43話『幕末での再会』
「ごめんください!」
結斗さんが、空気圧グローブを外して近江屋の扉をノックする。
少しすると、引き戸の玄関がガラガラッと開いた。
中から30歳くらいの痩せた男が出てくる。
「いらっしゃ──」
男はそこまで言って、言葉を失った。
私たちの格好を見て、客ではないと判断したのだろう。
結斗さんが振り返りが、私たちに言う。
「彼は近江屋の店主、井口新助さんです」
次に井口さんに顔を向け、続ける。
「井口さん、ここの2階にいる客人に、エッちゃんが会いに来たと伝えてください」
「ど、どちら様ですか?」
警戒する井口さんに、結斗さんは言う。
「私はここの客人と飲み友達なのです。エッちゃんが会いに来たと言えば分かります」
「しょ、少々お待ちを!」
慌てて店の奥へと向かう井口さん。
少しすると、警戒しながら龍馬さんがこちらにやって来て、目を細めた。
「龍馬さん!」
結斗さんはそう呼びかけ、耐刃頭巾を脱いだ。
「結斗さん!?」
私たちもグローブを外して頭巾を脱ぐ。
目を細めた龍馬さんの目が一気に開き、近付いて大声を出した。
「皆も! こがあ場所にどうやって来たんじゃ!?」
「龍馬さんがいなくても、この時代に来れる方法を見つけたのです」
そう言う結斗さんの肩を両手でバンバン叩きながら、龍馬さんは笑った。
「さすが結斗さんじゃ! まっこと不思議な御仁じゃ!」
喜ぶ龍馬さんに、ドローンが近付く。
「龍馬さん、悦子です」
龍馬さんは肩を叩く手を止めて、周囲を見回した。
そして、バサバサと音を立てて空中を飛ぶ異様な存在に気付く。
「何か飛んどるがよ!?」
驚く龍馬さんに、ドローンが喋る。
「ここです、この機械を通して龍馬さんを見ています」
「喋った!? どういてエッちゃんの声がするがか?」
「私はトワイライトから遠隔操作でこの機械を操っています。それよりも龍馬さん、みんなの話を聞いてください」
「話? 話ってなんちゅう……」
そう言いかけた龍馬さんに、信さんが近付いて言う。
「縮れ毛、よく聞け。今日がうぬの命日なんじゃ」
「はあ!?」
龍馬さんは、怪訝に信さんを見た。
まあ、そうだよね。
いきなり今日が命日とか言われても信じられないよね。
「龍馬さん、本当です」
結斗さんが言う。
「あなただけではありません。中岡慎太郎、山田藤吉の三名とも今日が命日なのです。この意味が分かりますか?」
みるみる龍馬さんの目が大きくなる。
「ここが襲撃されるっちゅうことか!」
結斗さんが頷く。
「ええ、そうです。そして私たちは、龍馬さんたちを救いに来たのです」
「救いにって……」
「まずは、中岡慎太郎と山田藤吉に会わせてください。話はそれからです」
龍馬さんは少し考え、言った。
「まあ、上がっとおせ」
そう言って店の奥へ案内され、階段を上がる。
そうして私たちは、龍馬さんの隠れ家へ入ったのだった。
「中岡、それに峰やんにもちょっち話がある」
そう言って部屋に入る龍馬さん。
峰やんとは、きっと山田藤吉のあだ名だろう。
「そん人らは、どちらさんじゃ?」
私たちの顔を見て、中岡慎太郎は部屋の隅にある刀掛けにジワジワと近付いた。
その様子を見て、龍馬さんが言う。
「警戒するなち。こん人らはワシが世話になっちゅう食堂の友達やき」
「そん食堂の友が、何でこがあ場所に来るんじゃ?」
「まあ、まずはこん人らの話を聞いちょくれんか」
そう言って龍馬さんは部屋の真ん中にある火鉢の隣に座り、私たちに顔を向けて言った。
「みんなも座っちょくれ」
部屋には火鉢、屏風、掛け軸があり、畳八畳くらいの広さだ。
「縮れ毛、少し鼻声じゃな」
そう言った信さんが、ドカッと音を立てて座る。
「ちょいと風邪引いたんじゃ」
そう言って龍馬さんは洟を啜った。
それを見て信さんが笑う。
「わっはっは。バカは風邪を引かんと言うぞ!」
そんな信さんの言動に、中岡は鋭い目つきで睨んだ。
「何じゃおんしゃあ。なめちょんかえ?」
刀掛けに手を伸ばす中岡を、龍馬さんが宥める。
「待て待て中岡、こんお方は、本来ワシらのような者が目通りできるような人やないき」
「はあ? 薩長の重役か?」
中岡の質問に、首を横に振る龍馬さん。
「元右大臣兼右近衛大将じゃ」
「右近衛大将!? ということは将軍かッ!」
そう言って刀掛けから刀を取った中岡。
中岡の言葉を聞き、山田藤吉が怯えたように体を震わせた。
そんな二人に、信さんは笑った。
「わっはっは。ワシが将軍なわけがなかろう。むしろ将軍や幕府なんてもんは、ワシが滅ぼしてやったわ」
「なん抜かしちゅうか! 幕府はまだ滅んどらん!」
今にも刀を抜こうとする中岡を、龍馬さんが止める。
「待て中岡、ワシの友達っち言うたじゃろ。こんお方はな、なんと、織田信長公じゃ」
暫くの沈黙。
今まで怒りを顕にしていた中岡は、冷静さを取り戻したかのように龍馬さんを見つめ、哀れむ顔を向けた。
「龍馬、おんし、どこか頭でもぶつけたんじゃな?」
そう言って龍馬さんの頭を擦る中岡。
「熱が出たかもしれませんね」
そう言って龍馬さんの額に触れる山田藤吉。
そんな二人の手を振り払って、龍馬さんは言った。
「違うっちゃ! げにまっこと、こんお方は信長公なんじゃち!」
まるでじゃれるように龍馬さんの顔を触る二人の前に、結斗さんが正座する。
「私が説明しましょう。私たちが何者なのか、なぜここへ来たのか、これから何が起こるのかということを」
二人が龍馬さんの顔を触る手を止める。
そして結斗さんは語ったのだった。
時空を超えたトワイライトという店があること、私たちがこの時代の人間ではないこと、そして近江屋事件の全容を──。




