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【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第3章:ブレイクヒストリー
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第38話『扉の条件』

 偽装ということは、作り物の近江屋事件を発生させるということだろうか?

 詳しく聞く必要がありそうだ。


「偽装事件とは、どういうことですか?」


 私の聞きたいことを大将が聞いてくれた。

 結斗さんは、テーブルの上に両肘を立てて、指を絡めてあごを乗せた。

 特務機関の総司令を思わせる、あのポーズだ。


「では、お話ししましょう。わたくしたちが考えた、近江屋事件偽装作戦の全容を」


 


 ──近江屋事件偽装作戦。

 これは、エッちゃんと結斗さんを中心に立てた、歴史を変えずに坂本龍馬を救出するという作戦だった。


 史実で近江屋事件が発生する12月10日、当該日は昼間よりドローンにて近江屋を監視。

 坂本龍馬、中岡慎太郎、山田藤吉の3名が居ることを確認次第、近江屋へ向かう。

 近江屋で襲撃があるまで待機し、襲撃者を一旦気絶させる。

 そして結斗さんが精巧に作った、巧妙に動くそっくりな人形と3名を入れ換え、気絶から目を覚ました襲撃者に、襲撃が成功したように思わせる。

 坂本龍馬、中岡慎太郎、山田藤吉の3名は他の時代に飛び、別の人間として生きていってもらう──。




 私は作戦を聞き、首を傾げた。


「歴史を変えずに龍馬さんを救うっていうの、矛盾してませんか? そもそもなんですけど、龍馬さんを救った時点で歴史って変わってますよね?」


 私の指摘に結斗さんが頷く。


「おっしゃるとおりです。ですので、以前はわたくしも過去の人間の命を救うなど、不可能だと思っていました。しかしですね──」


 そう言って結斗さんはエッちゃんに顔を向ける。

 結斗さんと目が合ったエッちゃんが頷くと、結斗さんは話を続けた。


「4月16日の、太秦うずまさ空襲を思い出してみてください。あの日、私たちは火事の中家に残る健太君を助けました。あれは健太君の運命を変えたのではないですか?」


 まあ、言われてみればそうだけど……。

 でも、私たちが行かなくっても、そもそも健ちゃんはあそこで死ななかったから歴史に変化が無かった可能性もあるんじゃないだろうか?


 私がさらに首を傾げているのを見て、エッちゃんは言った。


「私はこのお店に来る前、死ぬ予定でした。食べる物が無かったから……。だけど、このお店があったから、生きることができたんです。このお店で働くことができたから、お母さんも健ちゃんも死なずに済んだんです」


 私は言葉を失った。

 死ぬ予定だったというのは、きっと大袈裟に言ったのではないことぐらい、私にも分かる。


「このお店の存在が既に、エッちゃん家族の運命を変えているのです。なのに、不思議だと思いませんか?」


 結斗さんの言葉でハッとする私。

 結斗さんは続けた。


「エッちゃんの運命が既に変わっているにもかかわらず、そこの扉は開きます。そこでわたくしは考えました。扉が開かなくなる条件とは……」


 生唾をゴクリと飲む。

 もったいぶらずにさっさと言ってほしい。

 話についていけなくなった大将が席を立ち、お茶を入れてみんなの前に湯呑みを置いた。

 結斗さんは一旦目を閉じ、ゆっくりと目を開けて言った。


「扉が開かなくなる条件とは、このレストランが直接繋がっている世界、つまり大将と歩実さんの時代で、誰かの記憶が変化することです」


 そう言って大将の入れたお茶を一口飲み、続けた。


「紫式部の歌が変わると、大将の時代の誰かが記憶した紫式部の歌が変わる。だから歴史改変となり、扉は開かなくなります。しかし、エッちゃんの家族みたいな一般家庭の運命などというものは、大将の時代にはもう誰も記憶していません。誰も記憶が変わらないので、例えエッちゃん家族の戸籍が変わっても歴史改変とは見なされないのです」


 私は、こんがらがる頭をほぐすように一旦左右に振り、言った。


「えーっと、私の時代にいる誰かの記憶が変化しなければ歴史改変とはならない。つまりそれって簡単に言えば、私と大将の時代の人たちが誰も気付かなければ歴史改変にはならないっていうこと?」


 結斗さんは頷いた。

 私は反論する。


「でもそれっておかしいですよね? だって、私と大将の記憶が変化してるじゃないですか」


 結斗さんは首を横に振った。


「このレストランはタイムスリップができます。それはつまり、独自の時間を形成しているということです。ですから、大将と歩実さんがこの店内に居た時や違う時代に行っている時に、お二人の記憶が変化しても、『大将と歩実さんの時代の人の記憶が変化』とはならないんです。簡単に言えば、お二人の記憶が変化しても対象外ということです」


 整理しよう。

 まず、歴史改変が起こると店のドアは使えなくなる。

 歴史改変とは、私の時代の誰かの記憶が変化すること。

 誰も気付くことのない変化は、歴史改変とは見なされない。

 私と大将は対象外。

 ──ということだよね?


「なんとなく、理解はしました。でもこれって全部、結斗さんの推測ですよね?」


 そう言うと、結斗さんは笑った。


「ホッホッ、そうです。全てわたくしの推測です。ですが、いいじゃありませんか。もしわたくしの推測が見当違いだったとしても、結局のところ被害はそこの扉が使えなくなるだけです。そうなったら皆で裏口から出て歩実さんの時代で生きていけば何も問題ありません」


 私はビックリして結斗さんを見た。


「えっ、自分の時代に帰れなくなっちゃうかもしれないんですよ!?」


「はい、構いません」


 即答する結斗さん。

 私はその隣に座るエッちゃんに聞く。


「エッちゃん、いいの?」


「あの時代に未練なんかないです」


 エッちゃんも即答。

 私は今まで無言の信さんに聞いた。


「信さんは絶対自分の時代に帰りたいよね?」


 即答しない信さん。

 即答ではないけど、お茶を飲んでゆっくりと言った。


「ふむ。ワシは天下統一目前じゃし、帰りたいのう。しかし、ワシが帰れなくなるということは、突然消えるということじゃ。ワシが消えたとしたら、ワシの代わりに誰が天下を獲るのか気になるのう」


「それは豊臣とよとみ……」


 言いかけて思い留まった。

 危ない危ない……。

 信長さんは自分が天下統一するもんだと思ってるんだろう。

 天下統一一歩手前で明智光秀に裏切られて殺されるなんて、口が裂けても言えない。

 しかも紆余曲折の結果、信さんの息子を差し置いて家臣の豊臣秀吉が天下統一するなんて、信さんからしたら考えすら及ばないことだ。


「豊臣とは何じゃ?」


「あっ、いえ、な、何でもないです!」


 フーッ、助かった。

 豊臣秀吉が豊臣性を名乗るのって、確か天下統一した後だよね。

 信さんはそんなの知らないから、何とかバレずに済んだよ。


「歩実さん」


 急にエッちゃんから名前を呼ばれる。


「ん、何?」


「信さんは、どういう結果になろうと帰ることができます」


 私は首を傾げた。


「えっ、何で? 歴史改変があると扉が使えなくなるんだよ?」


 首を横に振るエッちゃん。


「違います。正確には、歴史改変があった時代以降の時代は扉が使えなくなるんです。信さんは龍馬さんより過去の時代の人なので、例え龍馬さんの時代で歴史改変があったとしても、帰ることができます」


 エッちゃんの説明で、私は藤さんの件を思い出した。

 藤さんこと紫式部が歴史改変をした際、私たちは扉がつかえなくなったのに、紫式部と同じ時代の清さんは普通に扉を使っていた。


「あっ、そっか……」


 私がそう呟くと、エッちゃんがニヤッと笑う。


「この作戦で歴史が変わっても困る人は、誰もいないです」


 小さく可愛い、そして頼もしい笑顔の少女がそこにいた。


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