表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】タイムスリップREstaurant  作者: しーなもん
第2章:タイムトラブル・パティシエ
30/53

第30話『少納言』

 エッちゃん家族が帰り、店内は私と大将と信さんの三人だけになった。

 それから小一時間、現在私はテーブル席で信さんの対面に座り、話し相手をさせられている。

 金ケ崎(かねがさき)撤退戦という、よく分からない戦いを信さんは延々と話しているが、正直どうでもいい。

 こうしている間にも、私の勤務時間が削られていく。

 早く終わってくれと願いながら、うわそらで話を聞いていた。


「そしていちから送られた袋に入った小豆あずきを食べながら空腹をしのいでな」


 もうそろそろ勘弁してくれ。

 そう思っていると、店のドアが開いた。


「いらっしゃいませ!」


 大将が元気に挨拶する。

 私は席を立ち、大将と同じく挨拶する。

 助かった、やっと解放される!


「いらっしゃいませ!」


 解放感を込めて元気に声を出すと、会釈しながら中年の女性が入ってきた。

 あい色の小袖を着て、肩までの長さで切ったミディアムな後ろ髪に、顔周りのサイドの髪をほほの高さで切って揃えた鬢削びんそぎという前髪。落ち着いた雰囲気のある人だ。


「ご無沙汰しております」


 そう言って店内に入ってきた女性に、信さんは声をかけた。


「おう諾子なぎこ、久々じゃな」


 信さんから諾子なぎこと呼ばれた女性は、信さんをにらんで言った。


「織田の右大臣うだいじんわたくし諾子なぎこと呼ぶのは止めてくださいまし」


「そんなに怒るな。それにワシはもう右大臣でも右近衛大将うこんえのだいしょうでもない。ほれ、そこへ座れ」


 そう言って、さっきまで私が座っていた場所へ誘う。

 女性は不貞腐ふてくされた顔をしながも、信さんの対面に座った。


 私は大将に耳打ちする。


「誰ですか?」


 大将が耳打ちを返す。


「清少納言さんだよ」


 ああ、あれが噂の……。

 私は清少納言さんの前に行き、挨拶した。


清少せいしょう納言さん、はじめまして」


 そう言うと、清少納言さんは私を睨み、溜め息を吐いた。


「あなたもですか……」


 な、なんだ!?

 私何か失言でもしたか!?

 もしかして、今の挨拶じゃ平安時代では失礼だった!?

 清少納言さんは続けた。


「いいですか。わたくしを呼ぶなら、『清少せいしょう納言』ではありません。『せい少納言しょうなごん』です。なぜあなた方未来人は、揃いも揃って同じ言い方をするのですか。そもそも清少ってなんですか清少って。意味が分かりません。それに納言なごんだけだと、大納言なのか中納言なのか少納言なのか分かりませんよね。あなたは大根のことを『こん』って呼ぶのですか!?」


 無茶苦茶(まく)し立てられて怒られてるんですけど!?

 これ絶対みんな怒られたやつじゃん!

 ねえ、教えといてよ、大将ッ!


 大将を見ると、大将は天井を見上げて口笛を吹かせている。

 あっ、コイツ、知らんぷり決め込みやがったな!


「失礼しました。清、少納言さん!」


 強調してそう言うと、清少納言さんはニッコリと笑って「よろしいです」と返事した。

 さっき、落ち着いた雰囲気の人だと思った私の気持ちを返してほしい。


せいさん、今日はお菓子があるんですけど、食べますか?」


 何事も無かったかのように大将はそう言って、冷蔵庫からケーキを取り出した。

 清さんって、そう呼んでるなら教えとけよ大将ぉ!

 それ作ったの私だからなッ!

 私が渾身の睨みを向けていると、それに気付いた大将はビクッと体を震わせた。


「お菓子ですか、いいですね。いただきます」


 さっき早口でまくし立てた人とは思えないほど落ち着き払って、優雅にそう答える清少納言さん。いや、清、少納言さん。


 大将はケーキと湯呑みを持って、清さんのテーブルに置いた。

 そして私を紹介する。


「新しくウチで働くことになった菓子職人の歩実さんです」


「へえ、ではこちらは、あなたが?」


「はい」


 そう返事すると、清さんは大きく頷いた。


「甘い菓子を熱望していました。これからはもう少し頻繁に通わないといけませんね」


 そ、そうっすか……。

 通わないといけなくはないよ、うん。

 

「こちら、菓子に合うお茶です」


 そう言って大将は、湯呑みを指す。


「あら、どこのお茶かしら?」


「えっ、宇治茶ですけど?」


 大将がそう答えると、清さんは大将を睨んだ。


「宇治ですって?」


 えっ、なんだなんだ?

 この人の怒りポイントがどこなのか分からなすぎて怖いんですけど。


 清さんは続けた。


わたくしの時代では宇治でお茶の栽培などしておりません。これはわたくしへの嫌がらせですか?」


 大将はバンダナ越しに後頭部を触りながら言った。


「あっ、いや、まあ、結構有名なんですよ、宇治茶って」


「はあ!? 宇治など欲にまみれた権力者どもの別荘地ではありませんか!」


 怒っている理由が分からなすぎる。

 取り敢えず分かることといえば、清さんは宇治が嫌いなんだろうな、ということくらいだ。

 困り顔で大将と顔を合わせていると、信さんが助け舟を出してくれた。


「まあまあ、落ち着け少納言のかたよ。宇治茶はワシの時代でも有名じゃ」


 そう言って、信さんは大将に顔を向ける。


「大将も少しは勉強をしたらどうじゃ。宇治は源氏物語の舞台じゃというのに、わざわざあの小娘がゆかりの地名を言うやつがあるか」


 信さんにさとされた大将は、しおらしく頭を下げた。


「それは知りませんでした。申し訳ございません」


 大将が素直に頭を下げて溜飲りゅういんが下がったのか、清さんは深く息を吐いて言った。


「まあ、知らずに申したのであれば、不問と致しましょう」


 話の流れが全く理解できない私は、大将の袖を引っ張ってカウンターの裏へ行き、小声で話した。


「どういうことなんですか?」


 大将も小声で返す。


「信さんが言っていた小娘っていうのは、紫式部のことだよ。仲悪いんだ、清さんと紫式部は」


 紫式部といえば、源氏物語。

 それで、源氏物語の舞台が宇治。

 だから紫式部を嫌っている清さんからすると、源氏物語の舞台の宇治も嫌いっていうこと?

 なんかそれって、考えが子供すぎじゃないだろうか……。


「じゃあ、清さんと紫式部さんが鉢合わせなんてしてしまったら?」


 思わずそう質問すると、大将は目をつむって首を横に振った。


「考えたくないね」


 そうだ。

 こういうのは、考えたら現実になってしまうもんなんだ。

 考えないようにしよう……。


「大将、かまの部屋で新しいメニュー考えてきていいですか?」


 私はそう質問して、逃げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ