第27話『六畳一間の女子会』
夜になり、私はエッちゃんと布団を並べた。
「誰かの隣で寝るなんて、久しぶり!」
そう言って笑うと、既に布団に入ったエッちゃんも笑い返してくれた。
「私もです」
「あれ? お母さんと一緒に寝ないの?」
「もうそんな歳じゃありません!」
そう言って布団をガバッと被る少女に、私は微笑んだ。
妹がいたら、こんな感じなんだろうか。
「電気消すよ?」
そう聞くと、布団からヒョコッと顔を出してエッちゃんは「はい」と返事をくれた。
電気を消し、布団に入る。
私はエッちゃんに前々から聞いてみたいことがあった。
別に重要なことじゃない。
ふと気になった程度の軽い疑問だ。
眠る直前に聞くには、いい話題だと思う。
「エッちゃんの時代だとさ、坂本龍馬ってそんなに有名じゃないよね?」
「はい、そうですね」
元々、坂本龍馬は有名ではないらしい。
坂本龍馬が有名になったのは、司馬遼太郎の小説や大河ドラマが要因だって、何かのテレビ番組で言っていた。
太平洋戦争の時代にそれらの小説やドラマは存在しない。
「なんで坂本龍馬に詳しいの?」
「おじいちゃんに教えてもらいました」
思わず聞き返す。
「おじいちゃん? 結斗さん?」
「違います」
そうだよね。
エッちゃんも結斗さんは『結斗さん』って呼んでいるよね。
エッちゃんはフフッと笑って続けた。
「私のおじいちゃん、もう亡くなっちゃいましたけど、昔は京都市役所で役人をやっていたんです。その時の京都市長が、西郷菊次郎さん」
「西郷菊次郎?」
だ、誰だ!?
西郷というからには、西郷隆盛の何かなんだとは思うけど、ごめんなさい、知らないです。
名前が菊次郎というからには、次男なんだろうなっていうことぐらいしか想像できない。
「西郷隆盛さんの長男です」
そう言ったエッちゃんの隣で、私はスマホを使って検索したい気持ちをグッと堪えた。
なぜだ!?
なぜなんだ!?
なぜ長男に菊次郎なんて付けるんだよ!?
これは失敗したな、眠る前の話題……。
私に構わず、エッちゃんは続けた。
「西郷菊次郎市長は、鹿児島で龍馬さんと一緒に暮らして、まるで家族みたいな存在だったと聞いています。おじいちゃんはそんな市長から龍馬さんにまつわる話を沢山聞いたと言っていました。それを私に教えてくれたんです」
「エッちゃんはおじいちゃんっ子だったんだね」
「はい!」
そう言ってエッちゃんは嬉しそうに笑った。
なるほど。
なんとなく、エッちゃんが賢い理由が分かった。
多分だけど、エッちゃんのおじいちゃんは、かなりの物知りだったんじゃないだろうか。
そのおじいちゃんから色々教わるから、エッちゃん自身も物知りになって、賢く育っているんだと思う。
だがしかし、この話題を続けるには、私のスマホを触りたくなる気持ちが抑えられない。
ここは、話題を変えよう。
平成・令和女子が、確実に昭和女子に勝てる話題に変えるんだ。
「ところでエッちゃんはさ、誰が好きなの?」
「な、な、何ですか、いきなり!」
エッちゃんの慌てる声に、私はニヤッと笑った。
「だってエッちゃん、いつも楽しそうだもん。好きな人、いるんでしょ?」
エッちゃんは何も答えない。
ダメだよ、エッちゃん。
こういう布団の中での女子の会話に、黙秘権なんて無いんだから。
「龍馬さんかな? 大将かな?」
順に名前を挙げていく。
名前に反応があったところがビンゴだ。
「信さんかな? それとも結斗さんかな?」
そう言ったところで、エッちゃんは布団をガバッと被って言った。
「もう止めてください!」
ほう、結斗さんか……。
超がつくほどの年の差だけど、一番の紳士を選ぶとは、なかなか目が肥えてらっしゃる……。
──と、からかうのはこれくらいにしておこう。
「ごめんごめん、あまりにもエッちゃんが可愛かったからさ」
私がそう言うと、エッちゃんは体を反対側に向けた。
「もう……、歩実さんは意地悪です」
軽めの口調で『もう』と言ったエッちゃん。
声のトーンで本気で怒っていないことが分かる。
こんなに可愛い妹ができたことに、私はワクワクして眠りについたのだった。




