第18話『紳士の土下座』
談笑しながらもテーブルを拭いたり床の掃除をするエッちゃんを見ながら、私はスパゲッティを食べた。
なんて働き者の子だろう。
嫌な顔一つせず、むしろ嬉々として手を動かしている。
あまりにも好感度の高いこの少女のことを色々知りたくなって、つい質問してしまう。
「エッちゃんはどの辺に住んでいるの?」
「太秦です」
エッちゃんがそう答えると、大将がいらない一言を言う。
「ほら、映画村がある所ですよ」
いや、それくらいは知ってますけど!
そういう事をエッちゃんの前で言っていいの?
そう思った矢先、結斗さんが大将を軽く叱った。
「コレ、大将!」
エッちゃんは首を傾げて言った。
「映画の撮影所ならいくつかありますけど……。あれは後に映画村って呼ばれるようになるんですね」
やっぱり頭いいな、この子。
大将のちょっとした失言で、全部紐解いていくじゃん。
いたたまれない気持ちを振り払うかのように、大将は声を張って言った。
「あっ、そうだ! エッちゃん、そろそろお母さんが迎えに来る時間だから、着替えてきな!」
「はい! ありがとうございます!」
そう元気良く返事して、エッちゃんは店の奥へと消えていった。
「大将、気を付けてください」
そう言って溜め息を吐く結斗さんに、大将は苦笑いをした。
「あっはっは、すみません」
そう言って、まるで無理矢理話題を変えるかのように、私に質問する。
「ところで歩実さん、何か聞きたいことがあったんじゃないですか?」
ああ、そうだった。
「見てほしい手帳があるんですけど」
そう言って私は、サコッシュからお父さんの手帳を取り出した。
「これは、亡くなった父が若い頃に使っていた手帳なんですけど、不思議なんです」
結斗さんが聞いてくる。
「不思議というのは?」
私は手帳を開けた。
「これは平成5年に使っていた手帳なんですけど、ここを見てください」
そう言って私は、あれが書かれているページを二人に見せた。
『1996_08_30_pretty_tanaai_』
『京都、居酒屋永久、田中愛莉ラインアイディー』
メモを見て、結斗さんは驚愕の眼差しを私に向けた。
微かに震えている。
「こ、これは……!」
私は続けた。
「居酒屋永久っていうお店、このお店の前の名前ですよね?」
大将にそう聞くと、大将も結斗さんと同じく驚愕してメモを見つめている。
結斗さんは驚いたまま、私に質問した。
「歩実さん、あなたのお父さんのお名前は?」
「えっ? 千堂祐介ですけど」
私がそう答えると、結斗さんは席を立ったかと思いきや、体を屈めて床の上に跪いた。
そして頭を垂れて額を床につけながら言う。
「歩実さん、申し訳ございません」
私は慌てて席を立ち、体を屈めて結斗さんの肩を軽く触った。
「えっ、ちょっと!? やめてください! どういうことですか!?」
意味が分からない。
土下座される覚えなんか、何一つもない。
「私はこの生涯を賭けて、あなたに謝罪しなければいけない」
「結斗さん、頭を上げてください! 訳を話してください!」
そう言うと、結斗さんは下を向いたまま頭を少しだけ上げ、言った。
「私のせいなのです。私のせいで、あなたのお父さんは亡くなったのです」




