第17話『レモンクリームスパゲッティ』
「はい、お待ちどうさま」
そう言って大将は、レモンクリームスパゲッティをカウンターに置き、割り箸を隣に置いた。
「あっ、お箸なんですね」
お箸でラーメンのようにスパゲッティを食べるお店は、あるにはある。
だけど、イタリアンを推してるお店としては、いささか違和感に思えた。
「ああ、ごめんなさい! 歩実さんはフォークの方がいいですよね!」
別に催促した訳じゃないけど、大将は慌ててフォークを出してくれた。
銀色のステンレス製のフォークだ。
これまで食器類は木製で統一していたのに、ここにきてステンレス製が出てきたのは、それはそれで違和感だ。
「フォークはステンレスなんですね」
そう聞くと、大将は苦笑いを浮かべた。
「ウチのお客さんはみんな箸で食べますんで、あんまりフォークは使わないんですよ。だからフォークまで木製を揃えてなくて……」
「なるほど。確かに、龍馬さんとか信さんとか、フォークなんて使いそうにないですね」
私がそう言うと、隣に座った結斗さんが笑う。
「おそらく、この店でフォークを使うのは、歩実さんと私だけですね」
あっ、そういえば昨日、結斗さんがナポリタンを食べていた時、銀色のフォークを使っていたな……。
結斗さんは私に向けた顔を大将に向けた。
「大将、私も歩実さんと同じ物を」
「はいよ!」
昨日もナポリタンを食べていたのに、今日もパスタ食べるんだ……。
好きなんだな、ここのパスタが。
そう思った矢先、結斗さんが言った。
「大好きなんですよ、ここのパスタが」
まるで心を読まれたかのような言葉に、私は驚きつつ動揺を隠して返事した。
「そ、そうなんですね。昨日もナポリタン、食べてましたもんね」
「ええ、毎日パスタでも構いません」
そう言って幸せそうに笑う結斗さんの顔が、私の目の前にある食べ物の期待値を上げる。
「な、なるほど」
「どうぞ、お先に召し上がってください」
「あっ、はい」
私はそう返事して、フォークを握った。
結斗さんのように上品なフォーク捌きをする人に見られると、少し緊張する。
「い、いただきます」
ゴクリと唾を飲み込む。
ホワイトソース、カボチャ、ブロッコリーの白、黄、緑のコントラストが美しい。
そして美味しさを保証するかのように、ホタテが存在感を放っていた。
私はフォークを回してスパゲッティを小さめに絡め、麺を口に運んだ。
口に入れた瞬間訪れる、とろりとコクのある濃厚なホワイトソースに加え、クリームのまろやかさと、そこにさらなる追撃をかけるレモンの爽やかな酸味。
そして、堅いのか柔らかいのか、もはやどっちなのかすら分からない絶妙な茹で加減のスパゲッティ……。
次にホタテを一緒に口に入れ、私は目を瞑った。
ああ……。
クリーム、レモン、ホタテ……。
お前たちは、手を取り合っているんだね。
互いに違う種類でも、互いの長所を伸ばして認め合っているんだね。
すぐに覇権争いをする人間はバカだよ。
お前たちの美味しさは、こんなにも人間をちっぽけな生物にさせるんだね……。
「ほんっと、旨そうに食べてくれますね」
大将の声で、私は目を開けた。
覗き込むように私を見て笑っている大将の顔が現れ、私は赤面した。
「これ、大将。人が食事している所をジロジロと見るもんじゃありません」
そう言ってくれた結斗さんに、大将は笑顔で返す。
「すんません、つい嬉しくなっちゃって」
大将の言葉に、エッちゃんは腰に両手を当てて言った。
「もう、大将! そんな事ばかりやってたら、女性から一生モテませんよ!」
「エッちゃん!? 怖ぇこと言わねえでくれよお」
大将の悲鳴に、一同ドッと笑った。




