第12話『仲の悪い偉人』
私がチビチビ飲んでいたビールをやっと空にできて自己満足に浸っていたら、それまで黙々と将棋を打っていた後ろのテーブルから声が聞こえた。
「王手です」
エッちゃんがそう発すると、身動き一つせず盤面を眺める信さん。
同じく盤面を眺める龍馬さんが、信さんの肩を軽く叩いた。
「信さん、どんとまいんどじゃ」
信さんは肩を大きく揺らして龍馬さんの手を振り払い、怒鳴った。
「気安く触るな、この似非南蛮かぶれが!」
「信さんよりかはワシん方が海外の国に詳しいぜよ。そもそも南蛮ち言うけんど、ようろっぱは南じゃのうて、西やき」
「それくらい知っとるわ!」
おいおい、なんかこの二人、仲悪いなあ。
「エッちゃん、終わったならお皿とジョッキ、こっちに持って来て」
大将がそう言うと、エッちゃんは元気に返事した。
どうやら、将棋はエッちゃんの勝利で終わったらしい。
ふと、スマホの時計を見る。
時刻は20時になろうとしていた。
「あっ、ヤバッ!」
思わずそう言うと、結斗さんに聞かれる。
「どうかしましたか?」
「実は、ホテルを予約してなくて……」
そう答えると、大将が渋い顔をして言った。
「アチャー、この時期、ここらの宿はどこも満室になりますよ」
そうだよね……。
桜のシーズンの京都だもんね……。
「なんじゃ、宿を探しておるのか?」
いつの間にか龍馬さんと言い争いが終わった信さんに質問される。
「はい」
「妙覚寺でよければ、一部屋用意してやってもよいぞ」
妙覚寺……いやいや、お寺ですか!?
「いや、さすがにそれは……。ってか、私と信さんじゃ時代が違うし」
そう言うと、あっけらかんと大将は衝撃の発言をした。
「店の扉を信さんと一緒に出たら、歩実さんも信さんの時代に行けますよ」
は……?
えっ、どういうこと……?
呆気に取られていると、たまたま目があった結斗さんが私に言う。
「正確に申しますと、信さんが開けた店のドアを閉じずに一緒に外に出ると、一緒に信さんの時代に行けるのです。同じ理屈で、龍馬さんが開けたドアを一緒に出ると龍馬さんの時代にも行けます」
「それって、タイムスリップじゃ……」
思わずそう言うと、結斗さんは深く頷いた。
「ええ、まさしく。ここは、タイムスリップレストランなのです」




