第11話『奇襲は真骨頂』
「ところで信さん、料理は何にする? ウチは食堂なんだから、まずは料理を頼んでもらわないと」
腕を組んでそう言う大将の態度は、かなり偉そうだ。
少しだけ信さんが可愛そうに思えてくる。
信さんは大将の態度には気にもせず、駒を並べながら言った。
「サンドイッチ、ワシと悦子の分二つじゃ。あと甘い飲み物も二つ」
そういや、さっきも悦子って言ってたよね。
エッちゃんって悦子って名前なんだ。
自分の分だけじゃなくてエッちゃんの分まで頼むなんて、強面の割に優しい。
「エッちゃん、サンドイッチ食べれる?」
大将がそう聞くと、エッちゃんは嬉しそうに「食べれます!」と元気に返事した。
ついさっき龍馬さんとカレーを食べたばかりだけど、カレーはあまり食べなかったのかな?
「じゃあ、サンドイッチのお礼に、信長さん先手どうぞ」
そう言ってエッちゃんは頭を下げた。
「フンッ、舐められたもんじゃ」
そう言いながら、信さんが一手指す。
即座にエッちゃんが指す。
信さんが指す。
即座にエッちゃんが指す。
エッちゃんの指すスピードが異様に早い。
将棋は全然ルールとか知らないけど、エッちゃんは考えて指してるのか疑いたくなるレベルで早い。
ただ、将棋を知らない私でも端から見て雰囲気だけで分かる。
この勝負、段違いでエッちゃんの方が強い。
「まーた鬼殺しかや。信さん、エッちゃんに奇襲は効かんち、そろそろ学ばんと」
盤面を見て龍馬さんが小言を言う。
そんな龍馬さんに、信さんは怒鳴った。
「ほざくな縮れ毛! 奇襲こそ今川軍を倒した織田の真骨頂ぞ!」
「おー恐ッ」
信さんに怒られて、そそくさと私の隣の席に戻る龍馬さん。
大将は信さんとエッちゃんにサンドイッチとサイダーを置いて、私たちのテーブルに来て質問した。
「さっきの、どういう意味ですか?」
大将の質問の意味が分からず、私と龍馬さんと結斗さんは目を合わせる。
「えっ、さっきのって?」
私がそう聞くと、大将は渋い顔をして言った。
「奇襲がどうのこうのとか、えーと、何だっけ、今川焼きが何とか……」
また、私と龍馬さんと結斗さんが目を合わせる。
結斗さんが「コホン」と咳払いして言った。
「大将、まさかとは思いますが、桶狭間の合戦をご存知ありませんか?」
あれ?
大将って歴史苦手な人なの?
さっき、源平合戦を例にしてこのお店のルールを話してなかったっけ?
「あー、桶狭間の合戦ね。オッケーオッケー、オッケーハザマ、なんちゃって」
大将は斜め上に目を泳がせながら、何一つ面白くもない駄洒落を言ってカウンターの裏へと戻っていく。
「桶狭間の合戦って、源平合戦と同じくらい有名なのに……」
思わずそう言うと、大将をジト目で見ていた龍馬さんは、視線を大将から私に向けた。
「大将は源平合戦も知らん。あれ、結斗さんの受け売りじゃきに」
「受け売り……」
「歴史が変わる要因を解くんは、いっつも結斗さんじゃ。大将は何も知らんし何も解けん」
ま、まぁ、人には得手不得手があるよね。
大将はきっと、歴史が苦手なだけだから……。
そう思いたい私だったが、龍馬さんが言っていた、大将はアホという言葉を思い出さずにはいられなかった。




