70話「臨時バーテンダーダイゴ!?」
船内は割と色々な層の客が居た。
アルスが居たらもしかすると全てを客に変えてしまいそうだ。
船内の酒場に行くと周りの酔っ払った獣人共にホットワインを勧められた。
「にーちゃん!まだわかいんちゃうんかぁ?ええのぉ。リッチな旅やなぁ!」
おや?こいつもアルスと同じ関西弁だ。
この世界のどこかでの訛りなのだろうか?
「あはは...まぁ知り合いの手配してくれたもので俺たちなんかじゃとてもですよ。」
こういうめんどくせー親父にはとりあえず謙遜しておくのが楽に過ごせるとおもったので適当に交わしモーちゃんと俺の分のホットワインを購入しデッキへ移動した。
「いや〜ダイ!お前!流石にああいうのに慣れていてやはりすげーな!」
モーちゃんはデッキの涼しい海風にアロハシャツをはためかせてワインを掲げながら笑う。
「あはは!あんくらいはな!格式の高いレストランで働いてはいたから客ではあんましああいうのは居ないが...内部にはあんなのばっかだぜ!俺のいた国は陰湿なやつも多くてな!自己顕示欲の肥大化した野郎のマウント大会に巻き込まれないようにするにはああいう風に言うのがいちばんなんだよ。」
「は〜よ〜っわかっとるな!俺も経営やってたしあぁいうオヤジどもと付き合いが無いわけじゃなかったしな!俺なんかは若い頃分かんなくてあぁいうのと喧嘩したりもしたぜ。あはは!」
「お〜!意外と血の気も多かったんだなぁ!」
「あはは!まぁなぁ〜!あっ!見ろよ!ダイ!あそこの魚影の大軍!あれはうんまいぞ〜。」
モーちゃんはすぐ先の海面を指さす。
「おっ!なんて魚なんだ?」
「ポルトサーディンさ!」
あぁ!前に食べたイワシみたいなやつか!
魚の影だけなのでよく分からんかったが、割と小ぶりなトゲのある体に大きなヒレが二つ見えた。
それらがまとまって泳いでる様はまるで本当にイワシみたいだった。
どこの世界でも似たような景色ってのはあるんだなぁ。
ちなみにホットワインは少し粗悪なお味。
安っぽいアルコール感のあるワインをただ温めだけで酸味も増してツンとしたヤツ...。
ん〜ドイツだかに行った時にどっかのフードコートで飲んだやつのが美味かったなぁ。
あれはちゃんとカルダモンとかシナモンとかの入ったコクのある味わいだった。
あれを知っているとかなりイマイチに感じる。
「しかしダイ!このワイン!」
「お?モーちゃんもわかるかい?」
「「まじーーーな!」」
俺たちは口を揃えてまずいことを確認し合うとそれがやけにおかしくて笑ってしまった。
「あははは!こりゃひどいな!アルスに言って改善させてもらおう。」
「あはは!そうだな!すぐに改善させようとするのがお前らしいなぁ!」
せっかくなので忘れないうちにアルスに電話をかけた。
「アルス!今いいか?」
「おぉん!ダイゴくんからかけてくれるなんて嬉しいやん?ラブコールかいな?」
「はぁ...違うけど!ホットワイン!船内のバーで売ってるやつ!あれ不味すぎる!どうにかしろ!開発手伝うのが必要なら手伝うから!あんなものを名物として出してるのだとしたらこの船の価値が下がるぞ!」
「...おうふ!...そのことかぁ。実はなぁ...あそこにいたバーテンが辞めてしもうて...今立ってるんはとりあえず違うところから連れてきたズブの素人なんよ...。」
「...な、なるほど?」
「それで...悪いんやけどぉ...開発してくれなくてもええから...ダイゴくんとモーティであの子の指導してくれへん?とりあえずそんな酷いんやったらバーは一旦閉めるように指示しとくからすぐ行ってもらえるか?」
...で、出た〜アルスのお得意の突然の無茶ぶり。
「...で?俺たちになんのメリットがあるのそれ。」
「...ん〜!しゃあないな!停泊先のホテルは奮発するわ!商会に泊まろ思ってたけど。食事も期待してええで!」
「....っしゃ〜ねぇな...。」
「ありがとう!君のそういうとこ!大好きや!んじゃ!よろしゅうに!」
それだけ言い残すとやつは電話を切りやがった。
「モーちゃん...すまねぇ。」
俺はモーちゃんに申しなく思いながら訳を話した。
「あっははは!なんじゃそりゃあ!相変わらずすげぇな!」
「...まぁもうアルスだから...と思うようにしようと思ってる。拒否権なんておそらく存在しないんだよね。」
「あははは!だな!しゃーない!パパっと終わらせるか!俺はお前が考えてくれたレシピをパットに残すよ!アンチョコみたいに分かりやすくするから細かく教えてくれ!ぁぁぁとそれからバーテンなら細かい酒や食材に関するこだわりや知識が喋れるといいよな!」
「...だなぁ!てかサンキュウなぁ。
ん〜とは言えめんどくさい!まぁやるからには完璧にやるか!すまんがよろしく頼むぜ!」
「おう!こちらこそだぜ!」
仕方が無いのでバーにもどるとさっきのバーテンのスカンクのお兄さんがこちらをうるうるした目で見ていた。
「あなた達ですか!僕に教えてくださるのは!」
「...あ〜はい。」
「アルスさんから聞いてます!」
「...始めましょうか。」
「ここだと目立つので裏の厨房に来てもらってもいいですか?」
俺らは彼に言われるがまま従業員入口から厨房へ向かった。
「...この格好やだなぁ。しゃーない服を借りるんも悪いから魔法でどうにかするか...。シュレップ!」
俺は服の上から体全体を消毒する魔法をかけた。
これは俺がひっそりと研究し続けて編み出した初めてのオリジナル魔法だ。
待機を浄化する魔法を進化させたものだ。
つい最近手のひらにかけることに成功したので思い切って全員にかけてみた。
「...!今のは消毒か?衛生系の魔法なんてあるのか!」
モーちゃんは驚いていたけど今は説明がめんどくさいのでひとまず苦笑いをしておいた。
「ダイゴさん...というのでしたっけ?違ったらごめんなさい!魔法が使えるのですね!凄いです!」
「あ〜まぁそれなりにね。あはは。」
「僕も魔法使いに憧れて修行しましたがさっぱりで!ヴォルすら出せないんですよ!あはは!」
「君は魔法が苦手なのか!俺もそう得意じゃないけど料理必要なものは覚えたぞ!ダイはちょっとレベルが違うから比べるのも良くないけどな!」
「そ、そんなに凄いんですかぁ!びっくりです。僕元々はアクアベリーの商会に居たんですが人が足りないからとここに駆り出されてきて右も左もわからず...よかったらお酒の作り方だけじゃなくて色々教えていただけたら嬉しいです!ほんと...ご負担にならない範囲で大丈夫なので...どうかお願いできませんか?」
...ちょっと厚かましいけど憎めなくて哀れに思えてきた。
「ったく...まずは酒を作るぞ!丁寧に教えるけどそう何度もは言わないからしっかり覚えろよ!まずは酒の違いと意味作られ方を覚えろ!作られた意味を考えられるようになれば文化がわかる。文化が分かればその土地にあった味がわかる。
それが分かればアレンジや活かし方だって分かるようになる。」
それから俺は醸造、蒸留、混成それぞれの酒の作られ方その中でどの酒がどれに分類されるかを丁寧に教えた。
カクテルはそう詳しくはないが食材の知識があれば味の科学は何となくわかる...。
ただこの世界では俺の知らない魔石から作られた酒やらなにやらもあるらしくその辺はモーちゃんが説明をしてくれた。
カクテルの名前は俺もそこまで詳しくないがそっちはメジャーどころをモーちゃんが抑えてくれていたので簡単にまとめることができた。
肝心のホットワインに関してはスパイスの種類やドライフルーツやフルーツの組み合わせなんかを理屈に基づいて教えて人や風土に合わせた作り方を考えるベースを丁寧に説明した。
「ありがたいです!本当に分かりやすくてこれならあんちょこが無くても作れるかも!」
「ははん!そりゃよかった。バーテンがあんちょこ見てたらかっこわるだろ?お前が商人で助かったよ。商品を覚えるのと同じ感覚だと思うんだ。」
「はい!まさに!お客様に対する売り方なら僕、得意なんです!なんと言ってもマーシェット商会アクアベリー代表の弟子として沢山修行させられて来ましたので!」
「あははそいつは頼もしい。船のバーテンに必要なのは流動的な客のニーズにどれだけ瞬時に順応できるかだと思うぜ。」
「本当に...助かりました。まだまだ分からないところもあるのでいくつか質問してもいいですか?」
「あぁ、いいよ。」
それから真面目な青年の質問タイムが始まりそれを丁寧に答えていった。
片付けやOJTなんかをやっているうちにすっかり深夜になってしまった。
「は〜!疲れた!」
「ほんっっっとありがとうございます!1日でこんなに自信がつくようになるなんてほんと思ってませんでした!」
「...明日から仕方ないから俺とモーちゃんも一緒にカウンターに立つよ。船が着くまでの間手伝えそうな時は様子を見て手伝ってやる。流石に何日もカウンターを閉じておくのもアルスも不本意だろうし客共も君のことを知っているからマイナスイメージがついちまってるだろうかな。」
「い、いいんですか!?そこまでして頂いて!」
「あぁ...やるからには完璧にやりたいんでね。」
「あぁ!ダイゴさん!本当に尊敬します!あ!そういえば名乗るのがほんと遅くなってすみません!
マルクと言います!」
「あはは!真剣すぎて俺も忘れていたよ。アルスから聞いてるだろうが俺がダイゴ、こっちがモーティだ。」
「よろしくな!マルク!」
モーちゃんもニカッと笑う。
「よろしくお願いします!お二人とも...本当に頭が上がらないです。」
「あはは!まあまあ君も仕事を押し付けられたようなものだろ?それなら俺も一緒だし仲間さ!仲間。」
「ダイゴさぁん!アニキってよばせてくださあい!」
「あっははは!アニキか!お客様の前ではダイゴさんと呼んでくれるならいいよ!」
「もちろんです!アニキ!」
こうして俺とマルクとモーちゃんとの奇妙なバーテンダーとしての短い日々が幕を開けることになるのであった。




