第68話「可愛いお肉ちゃん」
ウルドゥトのところから帰還して約1週間俺はボケた老人みたいな生活を送っていた。
起きたらぼーっとしてアベルが作ったご飯を食べてまた横になって眠くなったら寝て。
アルスがたまに頼んでくることを手伝って。
ルカとマカフィーは楽しそうに買い物に行ったりたまにアベルも一緒に行ったりしていたみたい。
モーティは相変わらずストイックに筋トレしたりピザの研究をしたりしていた。
こんなにも何もしてないのは俺だけだ。
何もしてないというよりかは...何も出来なかったのだ。
まともに生きようとするとハルートがいるはずの場所に穴が空いて見えて涙が出そうになる。
俺にとってここまで大きい存在だったとはこんなことになるまで気が付かなかった。
俺にとってあいつは親友でありこちらでの家族だ。
...もしかたらあいつにどこか父さんのような父性を感じていたのかもしれない。
父さん...会いたいよ。
イカンイカン、こんなうじうじしていてはろくな事にならん。
はぁ...こんな時彼女でも居たら支えてもらえるんかなぁ。
俺ってば恋愛にも興味がなくてシェフになること一筋だったもんな。
付き合ったこともあるし童貞とかじゃないけどやっぱり仕事優先なあまりどの国でも振られまくったなぁ。
どれもみんな向こうから告白してくるのに...ったくよ。
「ダーイーゴ!今日はマリアさんところでご飯食べるよ!くる〜?」
休暇最終日今日も変わらずベッドで天井と見つめあって心でお喋りって感じのことをしているとマカフィーが俺に声をかけてきた。
「うーん。行こうかなぁ。」
体を起こしたら自分の体馬鹿みたいにおもてーことに気がついた。
「うわっ!体重っ!」
「あれ?ダイゴ、なんか太った?」
「...やべほんとだ。この一週間食っちゃ寝だったからな。」
マカフィーに言われ体周りを確認すると割れていた腹筋の上に可愛いお肉ちゃんが乗り、至る所に少しだけだが肉感が出てきていた。
「あ〜!いけないんだ!マリジャナルではみんなで海水浴するんだよ!そんなダルダルじゃルカに笑われちゃうよ!」
「え〜初耳なんですけど。てか、俺水着も持ってないよ。」
「アルスがどうにかしてくれるでしょ!さ!さっさと身なりを整えて!みんな下で待ってるから行こう!」
「お、おう。」
マカフィーはまるでいつも通りで俺だけがこんなに落ち込んで...イカンな。
みんなだってそれなりに食らってるはずなのに...。
俺は久しぶりにしっかりとシャワーを浴び髪の毛をセットしブラシで体毛を整えて正装に着替えた。
「お!ダイゴ!そのスーツ似合ってんな!」
下に降りるとアルスが俺に陽気に話しかけた。
「ははん。まぁな、ルカ事件の時に買ったやつなんだ。」
「ひどぉーい!人のこと事件呼ばわりですか〜?」
「だってお前すげー強引なんだもん!」
「あはははは!たしかに!私一直線なところあるんで。」
みんなやたら明るく振舞っているような気がしたけど俺はあえてそこを突っ込まないことにした。
久しぶりの魔法でマナが乱れていて失敗するのではないかとヒヤヒヤしたがみんなをフープルで連れマリアさんの店までやってきた。
「ん〜なんかスーツの腹の辺りがきち〜。」
「あはは!」
マリアさんの店のベルを鳴らし中に招き入れてもらうと中はビュッフェスタイルで大きな長テーブルに様々な料理が並んでいた。
「コースじゃないのか。」
「俺がそう頼んだんよ!マリアさんもマリアさんの旦那さんも含めてみんなでパーティの方が気楽かなってな。シャルちゃんもおるし。」
「...あーたしかに。ならこんなスーツ脱いできていい?そういやみんなもよく見りゃラフな格好のやつもいるな。マカフィー、ルカ、アベルが可愛いドレス着てるからてっきり正装かと思ったよ。」
「あはは。あの子らは今日買ったんを着たいだけやろ。」
「あーそういう事ね。じゃあ俺もお前がいつの間にか俺の部屋に置いといてくれたダル着になってくるわ。」
「あーあれな!君が前にそんなん欲しい言うてたから用意しておいたわ。」
「せんきゅ!それじゃちょっくら行ってくる。」
「おう!乾杯は待っとくわ〜。」
俺は急いで商会の自分の部屋までフープルし着替えると戻った。
「お、おかえり〜!麦酒でいいよねー?」
マカフィーは俺の分のビールを用意してくれていた。
立食式なので隣に行きビールを受け取るとみんなに合わせて乾杯した。
「明日からは少し長い旅になるけど何かあればダイゴのフープルですぐ飛べるし...気楽に行こうね。」
「あぁ、本来なら少しお楽しみ旅的な予定だったし急がずそれぞれの街できちんと楽しく過ごそう。」
...ハルートごめんな。
俺はどこか申し訳ない気持ちになりながらマカフィーと喋っていた。
マリアさんの奮ってくれたビュッフェの料理たちはどれも俺のこの前料理を見ていたからなのか隙もなくどれも美味い。
しかし...今はとてもそれを考えたり感じたりするのが苦痛に感じた。
ハルートが居たらあぁじゃないこうじゃないと聞いてもらうのにな。
「ダイゴさん、どうですか?このお料理たち。」
マリアさんは俺に聞いてきた。
「...美味しいですね。どれも食材を活かし見た目、香り、食材の持つ意味を考えて作れていると思います。」
聞かれたから答えてこうしまったけれど本当はもっと伝えてやりたいことが沢山あった。
でも今それを俺に口にするほどの気力が湧かない。
例えばサラダのトマトも恐らくこれは酸味が強い種類の物だがこれはどちらかと言えばミジョテやポタージュ向き...もしくはバターでソテしたものをここにある鶏肉用のソースにするとか...。
基本的なことは何も間違ってないが少々爪が甘いような気がする。
「ダイゴさん、ありがとうございます。また色々落ち着いたらもっともっと詳しく一緒に教えてくださいね!今日は色々忘れて楽しんでいただく日なのに私、考えさせるようなことを言ってしまってごめんなさい。さ、冷めないうちにどれも召し上がってくださいね。」
...オウフ。
全部見透かされてるんだろうか?
それとも俺が余程愛想笑いが下手?
はは...どうしょうもねぇな!
「マリアさん、これだけは忘れないでくださいね。マリアさんはこのパーティを楽しいものにしてくれようと準備をしてくださりそこに合わせて食材の仕入れや調節をしてくださったんでしょうから。
そういうもの全てが本来料理の持つ意味のもてなしであると思います。
今は俺の余裕がなくて全ては伝えられませんがとても美味しいそれだけは事実です。
気を使わせてすみません。それから、ありがとう。」
「ダイゴさん、こちらこそ本当にありがとうございます。どうかご無理だけはしすぎないようにされてください。」
「あはは...。おっと変な雰囲気にしてしまいましたね。今日はこれ以降は色々忘れて楽しみませんか?ほら横にいる旦那さんも一緒に乾杯しましょう。」
それからしばらくはなるべくハルートのことを考えないようにしてパーティを楽しむことにした。
しばらく色んな人ところを回ってから俺はアルスの隣にやってきた。
「アルス!そういえば前に言ってたメルディル方向の依頼ってなんだ?」
「あーそれな。今回お願いするんはちょうどページパムーンにおるルナ関係のことなんよね。
あんまり大きい声で言うとマカフィーちゃんやルカちゃんに騒がれてしまうから今は詳しくは言えんのやけど彼から直々に少し依頼を頼まれてしもうてな。
あとはその道中や街でも仕入れや取引の為のアポも取っておこうと思ってるで〜まぁ電車や船に乗ってる間にも俺は俺のできることやって商会の収益あげようかな〜と思ってんねん。そっちも手伝えたら手伝って欲しいけどまぁ...アベちゃんも連れてくさかいそっちはどうにかなるやろ。」
「ほーん...マリジャナルまではどのくらいかかる?それからマリジャナル自体はどれくらい滞在できる予定なんだ?」
「せやなぁ...マリジャナルまではここから五日もあれば着くと思うで。電車の方との繋ぎは正直その日のうちにでもできるんやけどマリジャナルでも少しやりたいことがあるさかい四日間くらいはいよう思ってるで。」
「そうか。わかった。ウルドゥトには言ってあるのか?」
「いんや。あの人はそういうん勝手に俺の事なら分かるさかいわざわざは言っとらんよ。」
「ふぅん。わかった。」
「あんまし難しく考えすぎるんは良くないで。ハルートくんのことに関しては残念やけど年単位とかそういうクラスで見た方がええと思う。本当に簡単なことやないねん。でもそれはツァイにとっても同じで呪いではなく洗脳ともなるとマナが完全に循環式って染まるまでには相当時間がかかるねん。
...正直君の未来は暗いもんではないよ。
そこに彼がいるかどうかはまだ見えへんけど。
ただ、今はそんなに難しく考えて自分を攻める必要はないッちゅうことやで。
信じて待つのが一番やからね。」
「あぁ...わかった。すまないなお前にまで気を使わせて。」
「あはは!しおらし!君らしくないなぁ。」
アルスは空のワイングラスを傾けてニヤリと笑う。
「うるせー!ったくしょーがねーからグラス貸しな。注いでやる。」
「おっ、珍しい!口移しでもええんやで!」
「気持ちわり!いい加減にそれやめろよ!ほんと嫌なんだけど。」
「あはははは!すまんすまん!あ、つぎはスパークリング飲みたいな。」
「お!いいな。グラス変えてくるから貸しな。赤の味と混ざるだろ。」
「はは!ほんと君はいつでも味を大切にしてんのやね!頼んだわ。」
アルスからグラスを受け取るとカトラリーやグラスがまとめられたところから新しいグラスを取り返却用のバッドが置いてあるところにグラスを返し、ビュッフェのお酒コーナーエリアになっている酒がまとめられたテーブルからスパークリングワインを1本取った。
アルスと乾杯をしてフリッターやらブルスケッタをつまみながらこれまた他愛もない話をして少しづつ俺の日常を取り戻していった。
その夜はその後潰れるやつや寝出すやつが居て、俺は最後まで片付けをしたり厨房の掃除をしたりしていつの間にか朝になっていた。
「ふぁ〜ねみ。」
久しぶりに自然に眠いと感じた。
「しゃ〜ないなぁ。大衆浴場でも行ってからかえるか〜。」
店内掃除を完璧にした後眠ってしまったマリアさんや旦那さんに置き手紙をして外に出るとアルスは大きく伸びをしながらそう言った。
潰れたものの解放をしてくれているアベルとルカには悪いが俺も片付けを三時間以上やっていて疲れたのでアルスの意見に賛成だった。
「じゃあ死んでるやつ送ってくるから一旦待ってて。」
俺は潰れているシャルとマカフィーと世話をしてくれるアベルを部屋まで送り届けみんなの所へ戻ってきた。
「さ!生きてるやつみんなで風呂いこう!」
「「「さんせー!」」」
今日からは船旅だ。ハルートのことは気長に待とう。
必ず取り返せるそう信じて待っていようと思った。




