第67話 「嘘ならいいのに」
うぐっ...
気がつくと周りの空間はゆがみまくりケミカルな蛍光色...赤、黄色、緑、オレンジの光が波打ち所々凸凹してる所がありなんだか目の錯覚の検査をしてるみたいだ。
きもちわりぃ
酔ってきてしまったので集中切らさないために無詠唱でメイリスをかけ三半規管の動きを整えた。
ハルートのマナの気配を探してみたが今のところ何も分からない。
この空間のどこをどう進んでどう手続きを踏めばどこにたどり着くかは演算で何となくしか分からないしその行った先がハルートのいる場所なのかどうかすら分からないが今はひたすら集中を切らさないようにしてプログラム通りに詠唱もし続けた。
マナも生命エネルギーも恐ろしく消費しながらしばらくもがいているといつの間にか真っ暗な空間に出た。
「あははははははは!ようこそ!よくここまでだ取り付いたねぇ。あははは!僕のおもちゃ君!」
どこからともなく子供のような声でそう叫ぶのが聞こえた。
「だれだ!」
「君の探している人はもうここにはいないよ!僕だけが彼をそこから出すことができるんだ。それにもう僕のマナを流し込んで記憶も曖昧にしてしまったからね!君たちの目の前に現れるのはもう少し先!準備が出来たら君を使って最大の魔術を発動させるんだ!その時には会わせてあげるからね!
僕のお人形さんの知識欲と君の彼への執着と恐ろしい魔力があればなんだって叶う!君たちはもう僕のもの!あははははは。」
「なにを...言ってんだ。」
「自己紹介が遅れたね!僕はツァイヴァース!君たちが古代魔術と言って封印した時を遡る魔法の記された本さ!
ハルートはずっーと僕のことを潜在的に探していたんだ。
僕はそれを知っていた。だから彼を手に入れたんだよ。
君は彼を裏切れないだろ?あはははは目を覚まさそうなんて甘いことを考えないことだね。
君たちの力じゃ絶対に無理だからね!
だってこれからもっと時間をかけて洗脳をしていくんだから!あはははははは。また会えるのを楽しみにしているよ。勇者様!じゃお疲れさん!」
奴がそう叫んだ次の瞬間目を開けると俺は図書館の禁書庫...みんながいる場所まで戻ってきていた。
「....。」
俺は...自然に涙を流していた。
絶望?いや違う恐怖だ。
「う、うあ...うあああああああ。」
俺は突然膝から崩れ落ちて涙をボロボロ流し大きな声を出して泣いてしまった。
「ダ、ダイゴ!?どうした。」
すかさず戻ってきたことに気がついたモーティが駆け寄って俺を支えてくれた。
「ハルートが...ハルートがァ...。」
そこからしばらく込み上げる吐き気をその場でぶちまけ涙を流し止まらない震えの中みんなが俺を支えてくれていた。
しばらくして落ち着いたあと俺は事の顛末をみんなに話した。
「...そうか。もうあいつはそこまでやってしまってたやんな。俺が見た予測よりずっと早く動いとったんか...。」
「....。」
「大丈夫だよ!ダイゴ、ウルドゥトのところに行こう。なにか手があるかもしれないよ。」
俺の手を握るマカフィ。
「あぁ...そうだ...な。すまない取り乱した。それに泣かないと決めていたのに心に溜め込んでいたものが限界を迎えてしまっていた。」
「いいんだよ!ダイゴ。君はすごいよ。今現在の獣人類では到底手の届かないような高度の魔法をやってのけた。それはハルートのためでしょ?そのためにたくさん無理をしてるのをここにいる全員が見てたから。泣きたい時は泣いていいんだよ。」
俺は彼女の優しい言葉に再び涙が出そうになったが今度こそ止まら無くなりそうだったのでぐっと堪えた。
「なぁダイゴ。お前はさ人より少しだいぶ早く大人にならないといけなかったんだな。大丈夫だよ、お前がどんな風な気持ちを俺たちにぶつけてもさ俺たちは仲間だ。受け止められるぜ。
少ししか付き合いがないからわかんねーけどさ、ハルートみたいにお前が言わなくても全部理解してくれるみたいなのは無理かもしれねーけど俺は聞いたことはちゃんと受け止めるからな。いつでも言ってくれ。」
モーティも笑顔でそう言った。
俺は耐えきれず少しだけ涙を零したが歯を食いしばって耐えてみせた。
「ありがとうな。二人とも。
それからレビさん。すみません、こんなに散らかした挙句何の成果も得られなくて。」
「いえいえいえいえ!何言ってるんですか元はと言えばこちらが巻き込んでしまったようなものです。それにあんなにすごい魔法を目の前で見ることなんて普通できませんし...ハルートさんはきっと帰ってきますよ!ダイゴさんみたいにすごい人が着いてるんですから。」
「はい...。」
「こちらのことは大丈夫ですし処理しておきますから。ギルドへもこちらで対応しておきます。今は気にせず行くべき所へ行かれてくださいね!」
「何から何まですみません。みんな!行くぞ。」
俺はエーテルを飲み干してみんなを集めるとフープルでウルドゥトの所へと向かった。
「よく来たな。おかえり。」
ウルドゥトは今日もお面のままこちらを見て落ち着いた声でそう言った。
「なぁ!」
俺が慌てて話しかけるとウルドゥトは静かに頷いたあとこう続けた。
「分かっている。しかし...今は彼を見つける方法がまだない。申し訳ないが少し時間をくれないか?こちらでもそれ相応の儀式のリスクを使ってでも見つけなければ世界に相当な影響が出そうな事案なんだ。」
「....あぁわかった。」
俺が項垂れるとウルドゥトはアルスへ問いかける。
「アルス!お前も何も見てないんだろ?」
「あぁ...恐らくやつは観測外の空間を作ってそこにいる。俺らが知れん場所と言ったらこの世の掟を超えた所や...。やつがそんなにも力をつけていたとは本当にこちらのミスでしかないで。」
「....だとすると神格化してるという恐れもあるのか...。あまりにも封印が長く人々の興味関心も恐らく研究者の中では熱心な奴もいたようだし...そういった念がマナに変換されてやつの力になって居るのかもしれんな。」
「...せやな。でも今はそんなことよりオレはダイゴくんに一言謝らせて欲しいわ。
すまんな...本来なら知らんでよかったはずのことを押し付けてしまった上に大事なハルート君もこちらが見落としたもんに飲み込まれてしまってすぐ助けられへんくて。
本当にごめんなさい。」
アルスは深く頭を下げた。
「...いいよ。アルス、ありがとう。
ウルドゥト、お前がどうにかしてくれるんだろ?」
「あぁ...こちらとしても放っておく訳には行かない事案なんだ。全力を尽くそう。」
...悔しいが今は待つしかない。
「わかった。みんな...シャルたちの所へ帰ろう。」
「なにか起こりしだいすぐアルスに連絡を入れよう。その時は頼んだぞ。」
「...あぁ、わかった。フープル!」
商会に戻ると俺はよほど真っ青な顔をしていたのか誰も話しかけてこなかった。
皮の椅子の感触もよく分からないほど絶望...とも言えないくらい心が無になっていた。
「...。」
そんな様子をシャルは俺の隣で俺の肩を組み腕をさすってくれた。
マカフィーはその反対隣で俺の手を握りモーティは近くで黙って座っていた。
ルカも珍しく静かで黙って座っている。
アルスは淹れて貰ったお茶を静かに飲みその隣には
お茶を淹れ終わったアベルが座っている。
「...みんな。ごめん、ハルートを...精一杯やったのにハルートを取り戻せなかった。」
「....そうか。」
「今、とある人の協力でさらに探してもらっているけど...見つかるのもいつになるかは分からないんだ。」
「...あぁ。」
「必ず取り返す。ハルートは俺の大切な仲間なんだ。」
「わかった。でもお前は間違ってるぞ、ダイゴハルートは俺たちにとっても大事な仲間だ。なんか話せねぇ事情もあるみてぇだから深く聞かねーけど俺はお前の仲間だかんな。」
シャルは俺の肩を組んだままそう言う。
「....ありがとう。」
その後は、しばらくお茶を飲んだりしてみんなで過ごした。
「なんか、疲れたな。」
「あはは...そうだね。なんだかんだずーっと動きっぱなしだったもんね。」
「マリジャナル...か。」
「少し休憩...するか。」
今はとても新しい冒険をする気分にはならない。
「アルス、すまん1週間かそこら休みを貰えるか?」
「ええよ。出発はいつでもええねん。君らに合わせるさかい、それに俺は俺でこっちでやらんとあかんことぎょうさん溜まってんのや。」
「わかった。じゃあ1週間後の今日出発にしてそれまで少し休息にしよう。今は頭を切り替える時間も欲しいしハルートのことそんなにすぐに割り切れそうにないから。」
「おう!了解や!商会にいる時頼み事する時もあるかもしれんけど嫌やったら断ってええからな。」
「あぁ。わかった。」
その日は俺は風呂にも入らずすぐに布団に行き眠りについた。
朝起きたらハルートが帰ってきているような気がしたから。
そんな訳ないけれど俺はぼんやりとする意識の中ハルートが奏でるハープの音が聞こえてくるような気がしていた。




