第65話「僕はサンちゃん」
意識が...朦朧とする。
私はどれくらいの間眠っていたのでしょうか?
そして一体ここはどこなんだろう?
「ハルート!目が覚めたんだね!僕のトモダチ!」
本が...喋っている?
「あらら?記憶が混濁しちゃってるみたいだね。君の名前はハルートだよ。僕はツアイ!サンちゃんて呼んでね!君と僕はここでずっと二人で暮らしているんだ。」
....?私がこの本と?
「喋らなくても大丈夫だよ!今僕のマナを流して記憶を送るからね。」
本はそう言うと私にマナを流し込み過去の記憶?と思わしき映像を私の脳内に流しました。
そこに映されたのは彼と私が日々ここにある書物を読み漁り研究を重ね切磋琢磨しながら二人で思考を重ね楽しんでいる様子でした。
あぁ...思い出してきたような気がします。私は本が好きでした。
「サンちゃん...?」
「うん!そうだよ!僕だよ!君の唯一の友達で家族のサンちゃんだよ。どうしたの?ハルート。」
「私は...あなたの?」
「うん!そうそう!大親友だよ!家族なんだよ。」
「そう...ですか。」
あぁだめだ。意識が朦朧とする。
「ハルート...疲れたんだね。いいよ。ゆっくり休んでね。僕はずっと君を見守ってあげるからね。必要だったらお話も読んであげる。ゆっくり眠ってね。」
「あり...がと...う。」
私の意識は深い闇に飲まれていきました。
次に目を覚ます頃には私の意識もだいぶはっきりとしてはきはき喋れるようになっていました。
「おはようございます。よく眠れました。」
「おぉ!ハルート沢山おしゃべりできるようになったね!」
「えぇ...まだ頭にモヤがかかったような気分ですが一度目を覚ました時よりはマシです。」
「うんうん、今は難しいこと考えなくていいからね!君は少し難しい魔法に挑戦しよとして失敗してしまって今の状態になっちゃったんだよ。君は魔力が少ないから無理はしないで欲しいな。」
「あぁ...そうだったのですね。ご心配をお掛けしました。サンちゃん...それより目覚ましに本を読みたいのですが何かおすすめはありますか?」
「おぉ!それはいい!それじゃあこんなのはどう??」
サンちゃんが渡してきたのは...おそらく古代魔術に関する書籍でしょうか?
記憶はだいぶ朧気ですが魔術やいつかどこかのタイミングで研究をしてきたであろう内容だけははっきり覚えています。
その為非常に彼が渡して来る本が興味深く思えました。
それから...どれくらいの時間が経ったのでしょうか?
私は夢中になり本を読み漁るとその度興味深いことをサンちゃんと話してあぁでは無いこうでは無いと議論を重ね知見を深めました。
それは私にとって至福でどんな瞬間よりも心地がよく感じました。
「あちらの文献にあった...この例題なのですが...。」
「あれはね...。」
こうして長いあいだ時が経ち外ではどれくらいの時が経っているのかも分からないほどでした。
...外?
外とは...この書庫の外の事...?
そもそもこの書庫が今の私の世界の全て...外の世界など存在しているのでしょうか?
私が思考を張り巡らせていると、
ハルート...。
どこかで誰かが私を呼ぶような声が聞こえた気がしましたが聞き覚えあるはずなのにその声が誰のものであるのか思い出せません。
「ハルート!大丈夫?つかれたんでしょう?マナの消耗が激しいみたいだよ。今僕のマナを流すからね。」
私が黙り込んでいるとサンちゃんは再び私にマナを分け与えてくれて私はそれが心地よくて眠ってしまいました。
今までとは違い眠りが浅かったのかその時は夢を見ました。
私が白い毛並みの凛々しく魔術が得意な青年に連れられ冒険をしている夢でした。
...彼の名前はなんなのでしょうか?
夢なのに名前を知りたいと思うのはおかしいことですね。
......私はサンちゃんの親友で家族。
きっと彼が言うのだからそれが現実なのでしょう。
目が覚めたら私は涙を流していました。
「ハルート...どうしたの?怖い夢を見たのかい?」
...そうではありません。
あの栗色の髪の毛と白く美しい毛並み...鍛えられた体で軽快に動き戦うあの青年...。
私は彼が恋しく思えて涙を流していました。
「いえ、すこし夢の中で懐かしい気持ちになったような気がして。」
....。
その時サンちゃんがすこし固まったのがわかりました。
「...ハルート?僕の前でその夢の話をしてはいけないよ。僕は君が見たその夢が嫌い。君が見る夢は僕や本の世界のことだけでいい。今見た夢を忘れることだね。」
彼の言葉に何故か私はひどく恐ろしさを感じました。
声のトーンはいつも通り子供のようなコロコロした声なのにどうしてでしょうか?
「分かりました。サンちゃん先程の話の続きをしませんか?」
私は彼に嫌われることが恐ろしいのでしょうか?
処理できない疑問を抱え酷く気持ちが悪いですか今深く追求することはあまり良くないような気がしたので今はただ彼と話して思考を重ねていくだけでいいのかもしれないとも思いました。
疲れて眠るとまた彼の夢を見ました。
今度は灰色の毛並みに深紅の髪の毛が美しい狼の女性とそこに寄り添う小さなショートヘアでメガネをかけた猫の女性も一緒に出てきました。
私は夢の中で彼らをかけがえのない存在のように認識していて酷く懐かしく優しい気持ちでいられました。
私の居場所は彼らの中にあるような気がしてなりません。
おかしいですね、夢と現実が区別がつかないなど...。
夢の中では食べ物を沢山食べていました。
お腹が減りご飯を食べ、白い毛並みの青年が喜ぶのを見て私も嬉しくなり一緒にバカをやったりして、なんだか食事がとても楽しいものだと思えました。
食べ物というのは奥が深く料理によってどんな色や形にも変化しました。
また夢の中の世界は美しく山や川美しい森や街の夜景がキラキラしていました。
あぁ...私はこの世界に行きたい。
彼らがいるこの夢の世界に生きていたい。
強くそう感じるようになってきました。
目を覚ますといつも通り狭い書庫の中で茶色い天井が見えるだけでした。
そこには美しい景色も美味しそうなものもありません。
お腹が減る感覚というのもどういうものだったかも夢の中に消えてしまい思い出すこともできませんでした。
「おはよう!ハルート!」
彼に夢の話は厳禁ですね...本当はもっとこの夢について知りたいので彼と話したかったのですが。
「おはようございます。サンちゃん。今度はどんなお話をしましょうか。」
「んー!そうだなぁ!古代魔術のことをもっと知りたいと思わない?」
「...そうですね。ちょうど行き詰まっていたことも理解でき始めましたし。もっと難しい文献や古語の解読を進めましょうか!」
「うんうん!古語なら僕が教えられるからね。」
「そうでしたね。あぁ...楽しいですね。」
「うん!楽しいね。」
私はそうして彼に古代魔術の本を勧められては研究し疲れたら眠りにつく。
そんなことを繰り返し気がつけば古代魔術の発動条件や発動するための呪文などを暗記しており唱えようと思えば唱えることができるようになっていました。
「ハルート!すごいね!僕は誇らしいよ。」
サンちゃんは明るい声で私に言います。
「...少し疲れました休みますね。」
「うんゆっくりおやすみ。」
眠りにつくとまた彼らの夢を見ました。
今回は船に乗っている夢ですごく狭い部屋から綺麗な部屋にアップグレードをした後でした。
心地よく皆で過ごし、でも油断してしまいみんなで風邪をひいてそれも楽しい思い出だねと笑いあっていました。
「....ルート!」
今日は彼らが私を呼ぶ声を聞けました。
「ハルー...ト!」
水の中に反響するみたいにぼんやりとしていましたが呼ばれる度懐かしい気持ちになり安心しました。
「ダイゴ...。」
気がつけば私は誰かの名前を口にしていました。
それが夢の中で発したのか夢現で寝ぼけて言ったのかは分かりません。
ただこの名前はとても大事な人の名前のような気がしました。
帰りたい...どこへ?
私は分からないままただ再び深い眠りに堕ちていくのでした。




