第64話「契り」
目を覚ますとマカフィが隣で泣いていた。
モーティはそれを宥めている。
「マカフィー?」
俺が呼びかけるとマカフィーは顔を上げぐしゃぐしゃな顔で笑顔を作ろうとした。
「いいよ、無理しなくて。ごめんな...お前の人生をお前だけのものにしていいなんて言ったのに...こんなことになって。」
「えぐっ...うっ、ダイ...ゴのせいじゃない...。」
モーティも見たことがないほどくらい顔をしておりもはやお通夜だ。
「....ここで俺まで落ち込んでたら誰も救えないな。なぁ二人とも、馬鹿げた話ばかり聞いたけどさ。それでも俺たちは俺たちだよ。
アイツらには観測者としての役割がある。
それと同時にさドールー教の族長だし、マーシェット商会のローザニア代表じゃんか。
...納得いかなすぎるけど俺たちは俺たちなんだし
俺は料理人。マカフィーは信仰魔法が得意な僧侶で天真爛漫なかわいい普通な女の子、モーティは頼りになる兄貴であり俺の弟子みたいな存在。
それでいいと思わない?今すぐにどうこうしなきゃいけないのはハルートのことだけだし。
運命がどうとか、ロールがどうとかなんて今は考えず...もし本当にその時がきたらその時どうしたいかを自分で決めたらいんじゃないかな。
だって、俺たちは俺たちなんだ。たとえ観測者に背いたって俺達にはシャルやハルートがいる。
世界が敵でも仲間が居るじゃん。
今は...そう考えるしかないんじゃないかな。」
モーティは俺の方を見て静かに頷いた。
「ダイゴ...ありがとね...。」
マカフィーは涙を流しながら俺とモーティの手を握った。
「大丈夫さ、俺やお前って少しばかり強いんだから。どんな敵が来たって蹴散らしちゃえばいい。
俺たちはひとりじゃないんだからさ。」
まるで自分に言い聞かせるようにしてマカフィーの手を握り返しモーティの手も握った。
「起きたようだな。こっちにくるといい。」
ウルドゥトは隣の部屋から歩いてきて俺たちにそう言った。
さっきの会話を聞かれてないか少しだけヒヤヒヤしたが俺たちはウルドゥトについて行った。
「食べるといい。」
昨日ウルドゥトが座っていたテーブルにアルファバードの丸焼きが置かれていた。
俺達はあまり会話をせず静かに出されたものを食べた。
味は美味しかったのかもしれないが心ここに在らずであった。
食べ終わったあとは今後の流れを話し合った一先ず納得は行かないが、ハルートの為にウルドゥトの目的である魔書の暴走を止めることに協力運びとなった。
先のことは分からない...ただいまはハルートに危険が及ぶのを避けみんなで予定通りマリジャナルを目指したいと思った。
「この家の中になら直接転移することを許そう。ただし村の中へは転移をするな。余所者の魔法を嫌う村人たちから殺されるぞ。
この家の中には特殊な結界を貼っておくからダイゴの魔法でのみ出入りできるものとしておく。」
「あぁ、わかったよ。図書館に行ってひとまずハルートの様子を確かめてくる。無事だといいんだが。」
「まだ動き出して日は浅いようだからな余程の事がない限り禁書庫にも立ち入れんようだしそんなに心配はないだろう。くれぐれも我々観測者周りの事は他言してはならんぞ。わかったら行け。」
「あぁ、わかったよ。皆、帰るぞ。」
俺が静かに呼ぶとマカフィーとアルスとモーティが近くによった。
「フープル!」
虹色の光に包まれ光が消えると一瞬でロイズの街の図書館近辺に俺たちはいた。
「はぁ...とりあえず図書館に行くか。」
「せやな....。ダイゴ君後でちゃんと謝らせて欲しい。」
「....わかったよ。今はお前の役割を果たす時なんだろ?....いいから行くぞ。」
アルスにも大きな抱え物があるのだろう。
だが今はそんなことよりもハルートだ。
図書館に入るとなんだかザワついていた。
「アッッッッ!冒険者の方ですか!どうか助けてください!私のせいで依頼を引き受けてくれ方が....。」
大人しそうな見た目のライオン獣人の女性司書が俺にすがりついてきた。
「どうしたんですか?それよりこちらも立て込んでましてハルートという男がこの図書館にいるはずなのですが。」
「そんなっっ....ごめんなさい。私のせいで禁書庫の魔書に魅せられどこかに消えてしまったのがハルートさんなのです.....。もしかしてお仲間の方ですか?この度は私がとんでもない事件に巻き込んでしまって大変申し訳ございません。」
涙をポロポロ流し声を枯らしながら大きく頭を下げる彼女。
なるほど...?ハルートが仲良くなったと言ってた司書というのは彼女のことか?
さしずめ上手いこと仲良くなって、彼女が依頼と言っていたから一緒になにかの手伝いの形で禁書庫に入ったところを魔書に連れ去られたんだろうか?
「大丈夫ですよ。ハルートは必ず取り戻します。こちらこそハルートの奴がご迷惑をおかけしてしまって本当にすみません。ファタリテドゥデステンリーダーのダイゴ・マツカゼです。
落ち着いてからで問題ありませんので正式に依頼として俺たちに処理させて貰えませんか?」
「ええ...それは本当に助かります。ですが...今回のことで私は依頼を操作する権限を剥奪されてしまいまして私からお願いすることができないんです。申し訳ありませんが後で図書館側からギルドへ依頼を出すのでそこで正式に受理してもう一度お越しいただくとはできますか?」
「はい、もちろんです。御手数ですがチーム専用依頼として出してもらえれば漏れなく俺たちが受けられるので助かります。」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。では私はこのあとまだやることがあるので一旦失礼しますね。」
鼻を啜りながら目に涙を溜めそれでもふんわりとした笑顔で彼女は俺にそう言った。
「はぁ...。よしマカフィー、モーティ...アルスも一度商会に戻るぞ。」
俺は三人を連れ再びフープルを使用し商会へと戻ってきた。
「おかえりなさい。」 「おかえりー!」 「おっかえりー!」
アベル、シャル、ルカが仲良く俺たちを出迎えてくれた。
俺があまりにも深刻な表情をしていたからなのかルカは神妙な面持ちでこちらを見つめ、アベルはアルスに何があったかを問いただした出した。
ざわつき出したので俺は一旦みんなをまとめあげることにした。
「みんな、すまん...今は詳しくは言えないんだがハルートが連れ去られちまった。つーわけでこのまま俺たちはギルドに依頼として受けに行くよ。みんなは休んでてくれ!」
「は?ダイゴ何言ってんだオメー。」
シャルは俺の胸ぐらを掴む。
「ハルートがいなくなってんのに俺達には無関係だとでもいいてぇのか?」
「そうじゃない...落ち着いたらきちんと話すし、必ずハルートを連れて帰るから今はここで待っていてくれないか?
大人数だと少し厄介になりそうなんだ。」
鋭いシャルの眼光に狼狽えながらも俺は冷静に答えた。
「チッ...。マカフィーも連れてくのに俺はダメなのかよ。」
「そうじゃないんだよ。シャル!わかってくれ...本当にすまない、俺を信じてもらいたい。」
「クソッ...ハルートの野郎が帰ってきたら約束通りみんなでマリジャナルに行くんだかんな。忘れんなよ。」
「あぁ、わかってる。」
「ちっ...行ってこいよ。俺の助けが必要ならいつでも言えよ。俺はお前の仲間なんだから。」
...ははいつかマカフィーに俺が言ったセリフをシャルが俺に言ってくるなんてな。
「あぁ、ありがとう。」
フープルすると早く着きすぎて依頼が届いていないかもしれないので歩いてギルドに向かうことにした。
歩いている途中アルスはかなり思い詰めた表情で俺にこう言った。
「ダイゴくん...俺バツ受けてもええわ。全部話したる。世界の理なんか知らんわ、俺がみんなを巻き込んだんや...。」
「ちっ...てめぇのせいじゃねぇだろうが。お前は役割を果たしてたんだろ?だが落とし前はきっちり果たせよ。お前は...永遠に俺の味方でいろ。観測者が全員敵に回ってもお前は裏切らないと約束しろ。そうじゃなきゃお前を今ここに置いておくのも俺は嫌だね。」
「....そん通りや、わかった。ダイゴ、モーティ、マカフィーちゃん。俺は君たちチームに入るよ。もちろん商会はこのまま続けるし観測者としての役割からは逃げれんけど...それでも俺は最後まで君らの味方でいようと思う。それでええかな?」
「...いいかどうかは後になってわかることさ。裏切ったら容赦しないからな...わかったか?」
「あぁ...約束や。」
「あとで契約書を作れよ。魔道契約を結ぶからな。」
「わかっとる...。」
魔道契約とは裏切った者に呪いが付与される恐ろしい契約だ。
だが俺はそれくらいしないとこいつが信用出来ない。
信用したくないわけでは決してなくて...出来ないのだ。
複雑な気持ちを抱えたまま俺達はギルドを目指して今日もいつも通りに回っているロイズの街を歩いて行った。




