第52話 「スコーンのお口でちゅ」
「ダイゴ!?また飲んでるの?よくあれだけゲーゲーして飲めるね。」
マカフィーが目をまん丸にして俺を見るが俺はちっちっと指を横に振った。
「メルディアンにワイン無くして何を飲むつー話なわけ?
苦しかったがもう二度と同じ失敗はしない。既に解毒をかけながら飲んでるし。」
「あははははおめーらしいや。つーかよ俺は今日打ち震えたよ。あんたが作ったホンモン...これがそうなのかと思ったよ。
どれもまず食材へのリスペクトが半端じゃねぇ...。美しく、美味いそしてなにより全てが主役かのように立っていた。
付け合せに出てきたリゾットですら一つ一つ丁寧に化学式を組んでいるというのが食べてすぐにわかったよ。調味料の分量...いや器具一つ一つの使い方、立つ位置...混ぜ方やそれの速度に及ぶまで一つ一つに意味があるんだというあんたの言葉がそのまま生きてるんだと思った。
肌感でわかるようになっていくと言っていたがその場所に立てるようになるまでどんだけくらいついてきたかよくわかったぜ。
本当今日はありがとうな。」
「繊細な味の機微をまずは感じ取れるその舌が身についてきたな!こちらこそ久しぶりに真剣に料理できて楽しかったよ。アルスの勝手に仕組んだことと言うのはなーんか腑に落ちないけど食べてくれてありがとうな!料理は美味いと思って食べてくれる人がいてこそだからな!」
「ダイゴさん、本当に私もモーティさんと同じ意見です。目の前で見ていたからこそあなたの無駄のなさや常に計算をし尽くしているその動きに感動しました。」
「あは、マリアさんにもすぐ出来るようになりますよ。良かったらいつか僕がやるお店で働きませんか?」
「いいんですか!是非...と言いたいところですが私には父が残してくれたこのお店があります。
もしダイゴさんが大丈夫なら私がこのお店でできる限りの事を全てやり切っていつか私と主人の子供が産まれてその子に継承できるくらいに育ったら...その時はあなたのお店で働かせてください。」
「あはは先は長そうですがそれでもマリアさんは素晴らしいものを持っていると思います。そのいつかをお待ちしていますね。」
「はい!今日見たことを忘れずにやっていきます。よかったらここでたまにこうしてパーティを開いてください。その時わたしにできることがあればお手伝いします。」
「いいですね!マリアさんさえ良ければ定期的にやりましょう。その時はアルスを通していただければと思います。」
「はい、今日は本当に素晴らしい機会をいただいてありがとうございました。」
その後、パーティはまたもや朝方まで続いた。
片付けやら掃除やらを全員に手伝わせて徹底してやっていたら昼過ぎになっていた。
外に出ると日差しが暖かくて心地いい。
「ん〜もう眠い通り越してあたまがぽや〜とするね。」
マカフィは半目で笑う。
「俺は風呂によって帰りたい。この前のところとか!」
「お〜いいね。じゃあたしとシャルはそうしよっか!場所覚えてるの?」
「あぁなんとなくな!こっから近いと思うぞ。」
「おっ!いいね!他の人たちはどうするー?」
「俺は帰る。ちょっと昨日の料理の感動を忘れんうちにノートにまとめたいんだ!」
「私もご一緒していいですか?」
「おっけーー!モーティは帰って、ハルートは来るのね!」
アベルは行けないだろうしここは俺も商会に残るか。
「俺は商会に帰るよ〜。シャワーだけ浴びて昼寝するわ。」
「えー!ダイゴこないのぉ!まぁいいか!」
「俺もやることあるさかいに遠慮しておくわ〜。」
アルスはそういうと転移でどこかに消えた。
というわけでそれぞれ散り散りになった。
モーティの家はここからすぐの所にあるらしく歩いて帰っていると手を挙げて路地の中に消えていった。
「二人になっちゃいましたね。」
「だなぁ。なんかあれだけ騒がしかったから少し寂しく思えるな!ははっ。」
「ダイゴさん...その、ありがとうございます。」
「んー?なにがぁ?」
「僕、普通に温泉入れないので気を使っていただいたのですよね?」
「なんの事だー?わからんな。」
「本当にありがとうございます。」
「んー、まあ変に気負うなよ。
今度、タッカンブルの宿でも貸し切ってもらって温泉いこうな。」
「はいっ!ぜひ!」
決まったぜ!俺めっちゃ男らしくない!?
「そんじゃ帰るか!転移で。」
「いえ、ダイゴさんさえ良かったらこのまままた街を散策しながら帰りませんか?」
んー!めっちゃ嬉しい!ちょうどこの辺りからあまーい匂いがしてるからつまみ食いしててぇなぁと思ってたんだよな。
「おん、いいよ。」
「わーい!嬉しい〜。」
本当にこの子は男に見られたいと思ってる?
女の子にしか見えませんけど...。
という気持ちは心にしまっておこう。
「甘いもの苦手じゃないですか?
この辺だとあそこのスコーンが有名なんですよ。僕、ご馳走するので良かったら行きましょっ!」
「おぉ!スコーンね!大好き。」
昔イギリスに連れてってもらった時唯一美味かったのがスコーンだったので記憶深くに残っている。
「あぁ!ダイゴさん見てください!ちょうどお昼時だから行列です!どうしましょっか!」
レンガや石造りの可愛い街並みに似合うデ〇ズニーみたいなオシャレな店の前にはとぐろを巻く列が。
...ぐぬぬもう既にスコーンのお口でちゅ。
「並ぼ。お前となら行列も嫌じゃないよ。」
深い意味は無く素直にそう言っただけなのだけどアベルは少し赤くなってしまう。
「あはは...僕もダイゴさんとならやじゃないです。」
か、かわいいいいいいい!
なるほど...言われるとこんな気持ちになるのか。
多分俺、誰にでも言ってるから気をつけよう。
「僕同年代のお友達が沢山できて本当に嬉しいんです。対等に話せるってこんなにも楽しいんだって思いました。」
「あはは...俺も全く同じこと思ってた。でも、お前にはアルスもいるだろ?」
「いや〜あはは、アルスさんには拾ってもらったご恩もありますし、気を使っては貰ってますが...なにより僕が彼の役に立ちたいなって思ってるので養ってもらってるし対等かって言われるとちょっと微妙なんですよね。」
「まぁそういうもんなのか。確かにあいつは腹の中がわからなすぎるしな。」
「あはは...僕ですらそう思います。
ダイゴさんは自分の世界を創って、ストイックにずっとお料理をされていたんですもんね。」
「まぁな〜そんなこんなで敵ばっかりだと思い込んで生きてたし...だから青春なんてもんは皆無の年齢イコール彼女なし歴だよ。あはははは。」
「かっこいいです!僕は人の懐に入り込んでしか生きて来れなかったから...自分の道を生きてきたダイゴさんめっちゃ尊敬します!」
「それはお前に与えられた生きる方法がそれしか無かったからだろ?お前は逃げずにそこと向き合ってきたんだ。それはそれですげーことだって。」
「ありがとうございます。僕そんなふうに言って貰えたの初めてでめっちゃ嬉しいです。」
それからアベルはこの街の歴史や成り立ちを教えてくれた。
まあ...全部神から与えられた知識の中にあることだけど、人から聞くと面白いもんでその世界に生まれたものから見た新たな視点が得られるのでとても新鮮だった。
そこから約一時間弱夢中帰って話しているうちに俺たちの順番がやってきた。
店の扉はオシャレすぎると言っても過言では無いオシャレなブラックチェリーのような色味の木に湾曲した黒い鉄の持ち手がついている。
扉を開けると鳴るドアベルがまた洒落ている。
店の中は満杯という訳ではなくテーブル席とテーブル席の間隔もありそのうえ空いているテーブルもあってが密接しないようになってる。
おそらく余裕を持った人が余裕を持った接客を受けるための店という感じ。
他の客を見るとオシャレなマダムや落ち着いた雰囲気のカップルなんかが多かった。
俺たちが案内されたのはステンドグラスが嵌められた窓側。
白のテーブルクロスに午後の陽射しに照らされキラキラと色んな色の光が反射している。
「うわぁ〜綺麗。」
アベルはそれを見て喜んでいる。
シルバーの水差しで切子のようなグラスに水を注ぐ。
俺のは青色、アベルのは赤色。
それぞれグラス色の影がテーブルクロスを染めていた。
「ダイゴさんこのお水美味しいですよ。」
お!?水が美味いのか!これはスコーンに付け合わせる紅茶に期待できるな。
アベルに言われて俺も一口飲んでみる。
おぉ〜これは結構硬度の高い水だな。
ちゃんとイギリス風の紅茶になりそうだ。
俺は軟水で淹れるアールグレイが大好きなのだがたまには本場っぽい紅茶もいいかもね。
「うんうん、本当だ。硬度がある水だな。飲み口は重みがあってミネラル感あるな。」
「すごーい!そんなことわかるんですか!?僕には美味しいことしか分かりませんでしたよ!」
「あははまぁ料理には使う水も重要だからね。」
水魔法でpHまでいじくれるようになったら便利だろうなぁ。
メニュー見るとランチものもあったが今は気分じゃなかったのでスコーンと地球で言うところのアッサムにあたるアルボスの紅茶をホットミルク別添えで頼んだ。
アベルは同じものをと言って俺と同じものを頼んだ。
しばらくグラスを眺めたりアベルと他愛もない話でクスクス笑いあっていると紅茶とスコーンが運ばれてきた。
付け合せのアプリコットジャムやブルーベリージャムなんかも一緒に来てテーブルを彩る。
まだほかほかのスコーンを早速一口行きたいがまずは紅茶だ。
オシャレな花柄のティーポットで中は見えなかったが同じ柄のカップに注ぎ淹れると赤茶色が満ちていき、ほんのり茶葉が踊っているのがわかる。
タンニンが硬水に反応しているのか色濃くバーガンディ色にも見えるそれはうっすらとだけメープルのようなアッサムならではの香りを放っている。
一口含むとやはり香りは強くないがアッサムで目立ちがちな渋みと苦味も薄くほんのり甘くまろやかな味わい。
ここで熱々のミルクを足していく。
深く濃い赤茶色に細い純白が注がれるとまるでダンスをしているかのように絡み合う。
混ざりあっていくうちにベージュ味がかってグラデーションを作り出す。
スプーンで少し解いてやるとベージュによりに近づく。
まずは一口。
うまい...紅茶は薄くなっているはずなのに先程より香りはシャープにミルクの濃厚な香りと混ざり合いその奥で感じる花のような紅茶の香り。
舌触りはより滑らかになりミルクの甘みも加わって入れていないのにまるで砂糖が入っているかのようだ。
「ん〜ダイゴさんの真似をして飲んでたらなんですかこれ!美味しすぎます!紅茶一つでこんなにも色んな楽しみ方があるんですね!」
「うん実はまだあるよ!紅茶にジャムを入れるんだ。本当はイチゴジャムを入れるんだ。
ここにはないから後で聞いてみよう。」
「ブルーベリーやアプリコットじゃだめですか?」
「うーん悪くはないけどブルーベリーの方は酸味や渋みがでるだろうし...アプリコットは少しアンマッチすぎる様な気がするんだよね。香りが強い分紅茶と殺し合いをしてしまうんじゃないかな。」
「うーん。ここうちが卸しているのでなんとなくわかるのですが恐らくイチゴはなくて...というのももともとはここのお店イチゴ農園にあったのですが...ちょっとオーナーとそりが合わなくなったみたいで以来いちごは使わない方針にしたみたいなんです。」
なんそれ〜勿体ねぇな...。
「あらぁ...そうなのね、じゃあ仕方ない。ジャムはスコーンにつけて楽しもうか。スコーンを紅茶につけるとまた味が変わって面白いから色々やってみるといい。」
スコーンそのものはサクッとした食感なのにボソボソしないしっとりとした生地うん、完璧。
バターの香りが思ったより強くイギリスのものより美味い。
ただ、紅茶を魅せたいのかスコーンを魅せたいのかどっちか分からないというところは少し残念だが今はものすごく腹が減っているのでバター感の強いスコーンは大歓迎である。
ジャムを付けるとなるほどとなった。
ブルーベリーの方は思った以上に香りが強く酸味も結構ある。
その変わり甘さは控えめでバターの香りと殺し合いにならず薄いはずの甘みが強く感じられる。
アプリコットの方はこれでもかと言うくらいに甘い代わりに酸味やえぐみが抑えられていて香りもそこまで強くなくこのスコーンに乗せるために調整されたジャムなのだということがわかる。
アプリコットの方は行き過ぎるとジャスミンを甘くしたみたいな香りになるので俺としては他のものにもこのジャムをつけて食べたい。
「んーーー!美味しい。ダイゴさんこのジャム最高ですよね!あ!これうちの商会でもここから取り寄せて通信販売してるんでよかったら買ってくださいね。」
ん〜やめて〜今宣伝しないで〜!
白いライオンの男の顔がチラつくから不味くなる。
「お、そうだな。考えとくよ。」
アベルもアルスに徹底して教え込まれてるのか染み込んだ商売人根性がこういう所でシミ出すらしい。
ひとしきり紅茶やスコーンを楽しんだあと宣言通りアベルにご馳走になり俺たちはフープルで紹介まで戻ってきた。
既にアルスやシャルたちも戻ってきていて茶化されたのは言うまでもない。
「明後日はついにグレイスの洞窟行くさかい買い物は明日のうち済ませとくんやで。まぁ必要なもん言うてくれれば俺が用意せんこともないけど...できたらこの街の店たちにお金落としてって欲しいさかいよろしゅうに。」
夕飯前の作戦会議ではここでもアルスのいやらしいあきんど根性が垣間見えた。
「はぁ〜エーテルやポーションはお前が用意してくれよな。あと装備品もできたら頼む。防寒耐性のアクセサリーやらはこっちでもどうにかするし個人の買い物は自分たちでもするからその辺は頼むぜ。」
「せやな〜、しゃあないか。」
金は使わないで取っておくに越したことはない。
そこから夕飯を食べブッキンアドベンチャー以外のボードゲームもやったりしてなかなかに盛り上がったがみんなそれぞれ対して寝ていないので眠気の限界がすぐにやってきてもう寝ようかということになり俺はシャワーだけ済ませ早々にベッドへと入った。
時刻は午後六時。
直ぐに抗えないほど眠気が襲ってきて(抗うつもりなど毛頭ないが)そのまま夢すら見ない深い眠りの中に俺は落ちていった。




