第51話 「クッキングタイム」
マルシェの近くに飛んだ俺たちは少しだけマルシェを見て回った。
アベルがアルスに派手な女性らしい格好を強いる気持ちが少しだけわかったが胸にしまい込んだ。
「お店はあっちですね!行きましょっ。」
なんだか少し楽しそうに見えるのは俺がそうであって欲しいと願っているからなのだろうか?
店の前に到着し、インターホンを鳴らすと中から小柄なリスの獣人が出てきた。
どん〇りを辿ってもつきません〜と俺の頭で勝手に流れ出すメロディ...。いかんいかん、でもさ...あまりにも森の小さなレストランて感じの雰囲気なんだよこの人...。
「いらっしゃいませ。アルスさんのお使いの方ですかね?」
「えぇ、そうです。こちらを渡すように言われてきました。」
「わぁありがとうございます。あ、申し遅れました。ここのシェフをやっていますマリアと申します。」
「僕はアルスさんの身の回りの事をやっていますアベルと申します。こっちは最近うちの商会がお世話になっているダイゴさんです。」
「どうも、ダイゴと申します。」
「あ!アルスさんが言ってた凄腕の料理人の方ですね!今晩楽しみにしてますね。」
「今晩?」
嬉しそうにするマリアさんの言ってることがいまいちピンとこず首を捻った。
「あー!もしかしてですけど、アルスさんから何も聞いてませんか?今日の夜はうちのレストランでダイゴさんがパーティのお料理を作ってくれるってお聞きしました!私達も手伝うなりお勉強させていただくなりパーティに参加するなり好きにしていいって言ってくださって!そんなすごい方の料理が見れるなら普段から本当にお世話になってますし、今夜は予約も入ってないのでぜひうちの店を使ってくださいってなったんです。」
やられた...。
「あぁその事だったのですね。そのことは事前に聞いております。こちらこそこんなにも素敵なレストランさんの中でお料理させていただくのがとても楽しみです。」
仕方が無いのでアルスの顔を立てるためにも知っている振りをしておいた。
...あいつ全部わかってて俺がいるところでアベルに物を頼んだな!
そして転移で消えたのも問い詰められるってわかってるからで用事があるのなんて本当かどうかわかったもんじゃないぜ。
アベルの可愛さにデートみたいだと浮かれていた俺だったがレストランを後にして商会に戻ってきた頃にはイラつきやらレストランで料理できることが楽しみやらで複雑な気持ちになった。
「アルスはまだ帰ってないか?」
一言文句を垂れようと思ったがやはりいない。
ったくもー!
「あっはっはっ!」
事の顛末を聞いたモーティが大爆笑で笑い転げている。
ハルートは肩を震わせて笑いを耐えてるしシャルは揚げ物と味の濃いものをリクエストしてくるし...。
はぁ...俺の作るものにはシナジーを徹底させたいが今夜はそうもいかないか。
「...いいか?今夜作るのはパーティ料理だ。俺が専門にしてたものとは違うが徹底して作るからな。」
「本気七十パーってところか?楽しみだぜ。」
モーティがガッツポーズをとる。
意図を汲み取って欲しい人物にわかって貰えたようでよかった。
言い訳はしたくないが別モンを作る以上本物のフレンチを作った時に出せるものとではやはり違う気がする。
つうか俺が否定するまもなく勝手に何もかもが進んでる感じ...やっぱり好きになれねーなアルスのやり方はよ。
シャルのリクエストには、フリッター...いや?カツレツ?
もはやフライドチキン...うーん。
食材を見ないことには何ができるか分からないが俺が今猛烈に食いたいのはソテーされた肉だ。
俺が頭を捻っているとアルスが大量の食材の入った袋を持って帰還した。
「ただいま〜。さぁ!ダイゴ!レストランまでフープルや!」
にんまりとした顔でこちら見る整った顔を一発ぶん殴りたい気分だった。
「はぁ...言いたいことはあるが今日はもういいや。みんないくぞ〜!フープル。」
全員を連れ再びレストランに戻ってきた俺はインターホンを押しマリアに中に招き入れてもらった。
「アルスさんダイゴさん皆様!今夜はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いいたします。ではマリアさんまずはキッチンへ行く前に衛生を整えたいのですがコックコートはお借りできたりしますか?」
「はい!こちらです。」
マリアに案内され裏から入ったので事務所を通り抜けその奥にあるロッカールームに案内された。
他の奴らは一度挨拶を済ませるとレストランのホールの方へと店の外を一度出て正面入口から案内されていた。
うんうん、キッチンへの衛生観念もしっかりしてるな。
個人経営だと適当なところあるからそういうのあったら指摘してしまうところだった。
店自体はそんなに大きくないし新しくも無さそうだが事務所に至るまで徹底して清掃がされているようで居心地がいい。
借りたコックコートを着ると久しぶりの心地に感動しそうだった。
少し大きかったのでサイズを変えてもらったけど。
こういうのは徹底してぴったりしたサイズにしないと衛生観念が崩れかねない。
獣人用の飛沫防止マスクをつけコック帽をみにつける。
あ〜顔の毛も白いから全身真っ白しろだぁ。
でも落ち着くなぁ。
爪切りを借り深爪しそうなほど爪を切り手を二度洗いしペーパータオルで拭き取る。
この世界にも除菌スプレーがあることに感動を覚えながらしっかりと肉球や指の間にそれを練り込む。
アルコールとは別の成分らしく少し変わった香りがする。
キッチンへ行きまずは環境の確認。
魔法で点火するコンロ...それから何種類かのオーブンにサラマンダーやらフレンチで使えそうな機材が揃ってるな。
器具の方はフライパンにソースパン、ソテーパン、鍋各種、キャセロール、牛刀などの必要な刃物何種類かシノワや木べらなんかも一通りある。
うんうん、これなら割といいものが作れるな...あっ忘れていたが今日パーティか...そうなるとオードブル...といってもフレンチで言う前菜のようなものでなく日本で親しまれる方のオードブルなんかがいいかもしれないな。
「あ〜ありがたい。こんなにもちゃんと器具があるとは。」
「そう言っていただけて嬉しいです。メルディアンの専門店ですのでダイゴさんのお得意な分野だとお聞きしてます。」
「はい。そうなんです。あ、アルスは何を買ってきたのかな?見てもいいですか?」
アルスが買い込んできた紙袋の中身を見てみると...。
食材自体はどれもわりと良いものではあるが...あまりシナジーがない。
「ん〜なんというかまとまりがありませんね。」
「マリアさん!そうですよね!」
マリアさん!わかってるぅ!
「うーん...これならシャルの言ってた味の濃い料理となるとアロゼした鳥魔物肉....せっかく鳥1羽分あるからローストチキンもいいかも...いやでも時間がかかりすぎるか。というかそれにはハーブとかいくら食材が足りない...いっそヴィネガー煮とか?」
「本当にお料理お好きなんですね!パッとこれを見ただけで皆さんのご要望も取り入れていくつか候補が浮かんでいるなんて!」
これくらい普通のことのように思えたが褒めて貰えるのは悪くない。
「いえ...うーん。調味料などはお借りしても?」
「えぇもちろんです。仕込み済の食材などはご予約やケータリングでのて今日予定があるので難しいですがこの中にあるもので未調理のものでしたら私に一度聞いていただけたら問題ないですよ。」
「ありがとうございます。でもやはり買われた食材の中で上手いことやってみるのも面白そうなのでなるべくこの中で済むようにやってみます。」
「流石です!」
そんなこんなある程度の出来上がりの見栄え予測と食材を余らせない計算と作業時間の予測が着いたところで俺は手を動かし始めた。
まずはやはりこの鶏肉を活かす。
アロゼが食いたいのでもも部分をカットをし下ごしらえをしておく。
胸はひとまず皮付きでカットしてバタフライ型に開き叩いておく。
ササミはカットしたあとしっかり筋切りをして氷魔法で冷やしておく。
手羽はコンフィにするためにローズマリーやローリエ、白ワインを入れた袋の中に入れしっかり密閉し少し時間置く。
その間にガラをぶつ切りにし、工程をみて理解してくれたマリアさんが予熱してくれていたオーブンに入れる。
そんなこんなで丸鶏を余すことなく調理するだけで結構な時間がかかってしまった。
まぁ..いいか。
フレンチっぽい方は下ごしらえをある程度終えたのでひとまずそれくらいにして残りの食材で日本料理に近いものを作ることにした。
専門外だがパーティとなったら俺が食いたいので...。
まずはタコやら鯛やらの魔物がパックに入っていたのでそれらをマリネして...っおっとカルパッチョを作ることにした。
...日本ぽいアレンジを加えれば日本料理と...呼べなくもないはず。
それからツナ缶があったのでこっちはリゾットを作るためにトマトをにんにくでアロマティゼしておいたオリーブオイル炒めていく。
ハァンええ匂いや。
日本料理って思ってるのに...どうしてかフレンチやらイタリアンやらに寄ってしまうな。
そのあとはオーブンから出したガラをエシャレット、人参、オニオン、セロリと共にルヴニールしていく。
そこに水を足し煮込んでいる間に今度は他の料理の用意をしていく。
あーこれ一人でやることじゃないな。
だからってマリアさんは一生懸命見てるのに手伝わせるわけに行かんし...気合い入れるか。
氷魔法で冷やしておいたささみをフープロでペーストにしていく。
合間に用意した卵白をそのペーストに加えよく混ぜるとまとまりが出てきて弾力も加わる。
さらにこちらも合間に作っておいた生クリームを少しづつ加えて混ぜていきその後、
パッセする。
そうして残ったものを塩コショウやスパイス、みじん切りにした野菜類を混ぜていく。
指先で炎の魔法を使いスプーンで掬ったそれを味見していく。
うん、パサつきもない...重すぎないし、きちんと締まってんな。
完成したファルスを先程、延した鶏ムネに乗せ巻いていく。
なんだかどれもこれも俺の世界の鶏肉とは魔物だからなのか違っているので感覚が狂いそうになるがそこは感と経験で補ってみる。
ちょ〜っとせこいけど魔法で上手いことつなぎ目を無くすかのように熱を鶏ムネにだけ入れていい感じに開かないようにしてからそれをじっくり焼いていく。
コンフィ用の手羽を袋から取り出し水気ペーパーでしっかり取る。
小鍋を用意し時間が無いのでオリーブオイルを回しがけていき手羽を沈めていく。
タイムの葉を入れ予熱したオーブンで焼いていく...。
まだまだこれでも全て終えるには半分くらいの工程。
そうしてうまいことその他やりかけのことを順序よくこなし全ての料理が完成して行った。
順番的にアルスに最初に食べられるのだろうと思うと腹が立つが盛り付けも完璧にすませ料理を運んでいく。
本当は出来た順番で出したかったのだが今日はそういう訳には行かない。
大テーブルをくっつけ大きなテーブルにその上に美しく並べた料理は我ながら宝石のようだ。うんうん、いいね。
「う、うわああああ!すげー!なんだこれは!」
モーティは盛り付けや皿やシルバーの配置のズレのなさに驚いているな?恐らく。
「いや〜ん!なになにさいこおなんだけどー!ダイゴありがとぉ!」
マカフィちゃん...嬉しいけどコックコートを着ている間はごめんね。
俺は抱きついてくるマカフィを避けてしまった。
「すまない!この服を着ている間は俺は料理人なんだ。衛生観念を崩したくない。」
「うぉおおお!まじかっけー!」
モーティは小学生みたいな喜び方だな。
「流石です。ダイゴ、食材の意味、引き立たせ方、盛り付けにおいての魅せ方...芸術と言っても過言では無いです。」
肝心のアルスは無言でパシャパシャ写真を撮ってる。
はぁ...。
「ダイゴさん!本当に凄かったです。キッチンでのあなたは分身をしているかのように素早い身のこなし無駄のない動き丁寧な作業。私にはまだまだ真似できそうにありません。現場の仲間たちと協力してもあなたがやったことを再現するのは難しいです。後で質問したいことがあるのでご指導お願いします。」
...この子欲しい。
「わかりました。こちらからも後でお話があります。本当に今日は素敵なキッチンをお貸しいただきましてありがとうございます。」
アルスがストックからワインを出しパーティは始まった。
まずはアルスがどれも一口ずつ味見していく。
「うん!完璧や...俺これより美味いもん食うたことないわ。絶対にダイゴ君を離さんからな。うちと取引しような。」
じっくりと味わったあとアルスはニコニコしてそう言った。
じっくり久しぶりにフレンチを楽しみながらルカのことを思い出していた。
あいつとの約束もなんだか霞を掴むようなところから水に片栗粉を解く位の所までは進んだかなぁ。
たとえ変だけど...。
何にしてもまだ遠いぜ!
俺はパーティも他所にワインを口に含みながら遠い目になっていた。




