第50話「お酒の魔物」
モーティの話によると、なんでも小さな頃は漁師か船乗りに憧れて居たため水の魔法や天候の影響をカットする魔法それから海の魔物の戦う為の訓練なんかもしていたのだとか。
ひょんなことからマリジャナンレストランを手伝うことになりそこからピザを人に作って食べさせる楽しさを学んで自分で店を持つ頃にはここ交易の街ローズでピザの店を持ちたいと思うようになったのだとか。
「ダイゴ...お前とは目指してきた方向性は違えど人を自分の作ったもんで喜ばせたいという努力のベクトル自体はそんなに変わらないのかもしれない。でもお前はそれを更に突き詰め自分や周りと戦ってきたのだな。自分の甘さにため息が出るよ。」
「あはは...いや、モーティ違うよ。
俺はたまたま環境が揃っていて勉強をする為の準備があったんだ。
お前もそういう場所に巡り会えて、トップだけを目指していたらまた話は違ったさ。」
「これからお前の傍に居れば俺はそういう環境に身を置いて行けると肌で感じたよ。
あ、そうだひとつ言っておくが焦んなくていい、俺の事まで責任を負う必要はない。俺は自分でお前について行くことを選んだんだ。この先結果がどうなったとしてもお前が責任を感じる必要なんかねーし俺を甘やかす必要もねーからな。」
「...おう、わかったよ。」
そんな感じでも静かサイドではどんどんと酒の量が増えていき段々と熱い会話が交わされるようになってきた。
「だーからー!例えばトマトがあるだろ?トマトひとつでも育てかた太陽の浴び方地域、運び方切り方切るための器具で全て変わっちまうんだよ。」
「...あぁ〜そうだよなぁ!俺もそれをお前に教わるまで人がいいって言ってるものを使えばいいと思ってたよ。だからなぁ...。」
そんな感じでさらに1時間ほど経つとハルートは先休みますとベッドの方に消えていき、
俺は少し酔っ払ってきたが解毒の魔法をかけるのはもったいない気がしてモーティと盛り上がった。
モーティは俺の三倍くらいの量を飲んでいるのにケロッとしている。
アルスはマカフィにセクハラを働きそうになりマカフィに泣かれシャルにボコボコにされていた。
アベルは呆れ返って深く丁寧な謝罪をマカフィにして後で自分の部屋で一緒に遊ぼうねと約束し、アベルを引きずりながら彼の部屋へ連れ帰った。
マカフィはシャルに抱き抱えられ俺たちの客間へ戻った。
そんな訳でモーティと二人になってから更に1時間ほど経つが...こいつバケモンか?ワインは二十本...ウィスキーは十五瓶は開けてるのに未だにケロッとしてやがる。
俺は途中から水しか飲んでない。
「ん〜少し酔ったなぁ。久しぶりに楽しく喋っちまった。ビジネスの会合なんかでは車内の飲み会も含めみんな真面目であまり楽しくなくてなあ。会社は売っちまっちまたが俺は今みたいに生きてくのが正解かもしれんガハハハハハ。」
少し酔った?あの量飲んでその程度なの?
怖いです。
「なぁひとつ聞きたいんだけどさ、そもそもなぜ会社をやっていたんだ?」
「それがなぁ。宛もなくロイズに来たばかりの頃、さまよっていたらアルスさん誘われたんだよ。今ここのポストが空いてるから金も溜まるしお前なら適性があるからどうだ〜ってな。なんで俺なんかにと疑問ではあったし怪しいとも感じだが、前にも言ったと思うけど幼なじみがこの街で業種の近いビジネスをしててな。あいつもやっていけてるんだし俺もやってみようかと思ったんだ。マリジャナルで売った店の資金もここまで来る旅費や暮らしの中で消えてしまって、他に宛もなかったしな。どうせ騙されるならそれもそれで面白そうだと思ったんだよ。
そこからはトントン拍子にことが進んでなぁあっという間に従業員も増え結構いい所まで行ったんだよ。飲食とは無関係ではなかったしいつか自分の会社で店を出せればと続けてきたんだけどな...まぁそっから前に話した通りの有様さ。」
「なるほどなぁ。」
「まぁこんなおっさんになってバカみてぇだと思うけど一緒に頑張りてぇあんたなら任せてもいいかもしんねぇって思ったんだよ。よろしくなダイゴ。」
「あはは、バカみてぇなんて思わねぇよ。夢を追い続けるってのは並大抵の覚悟じゃないんだ。ていうか結構すげー体つきしてるけど戦いはまだいけそう?」
「おう!それなら心配ないぜ!会社やってる時にも舐められないように散々鍛えてきたからな。冒険者ランクは登録したことないが料理にランクならSS持ってるぜ。職業はおそらくエレメントウォリアーってところかな。」
「後でステータスも知りたいし冒険者ギルドの方にも登録に行こうか。どっちにしても俺のパーティに所属する手続きもしないとだし。」
「おう!頼むぜ!」
「なぁ。気になってんだけどあんた一体いくつなの?」
「俺か?俺は34だよ。すまんな老けてるだろ?あははははは。」
「マジで!?思ったより若い。俺は28で元の世界を死んでるんだけどつい最近この世界の暦上で誕生日を迎えたんだ。元の世界とは少し違うけどステータスに変換された誕生日が書いてあったからな。」
「おー!俺も34になったばっかだぜ!5しか違わねーんだな。」
「だな!ちなみさもう一個知りたいんだけどアルスっていくつなの?知ってる?」
「確か...26だったような。」
「年下かよぉ。なんか悔しいぜ。まぁあいつならあの若さであそこにいてもおかしくないよな。」
「あはははは!違いねぇ。」
少しお酒を飲んでも大丈夫な気がしたので俺はモーティと何度目か分からない乾杯をマル酒でした。
...しかしそれが不味かった。
気分よくて味を楽しんだあと一気にクイッと行ってしまったのだ。
飲んですぐは平気だったが突如意識が薄れてきて視界がブラックアウト。
その後目を覚ますとベッドの上に居た。
すぐに激しい吐き気に襲われ視界のゆらぎと浮遊感で目を開けていても閉じていても不愉快極まりない。
すぐに解毒の魔法をかけたがマナのコントロールが上手くいかず地獄のような吐き気にトイレへ駆け込んだ。
全身を震わせ胃が出るんじゃないかと言うほどの苦しみに身がよじれ涙があふれる。
苦しい!死ぬ!
少し落ち着いたあと何とか這いずって部屋まで戻ったがグルグルする視界に口の中に漂う胃液の香り。
最悪すぎる。
苦しんでいるとおそらくとっくに起きていたハルートが解毒薬を俺に飲ませてくれた。
しかし、それもすぐに吐いてしまう。
ハルートはシャルを連れてきて俺をベッドに寝かせると優しい旋律を奏で始めた。
解毒と治癒を少しづつおこなう癒しの旋律だ。
頭がガンガンと痛むのが少しづつ和らぎ...いつの間にかその音を聞いてるうちに眠りに落ちていった。
そして再び目を覚ますと夕方だった。
喉乾いた...。ゆっくり起き上がるとまだ少し残っているのかフラフラとした。
脱水もあるんだろうな。
下に降りると、アベルがポーションを白湯で溶いて飲ましてくれた。
「...っ!やっと意識がはっきりしてきた。」
それまではなんだか音が反響するように聞こえて誰かが喋っていても聞き取れなかったが落ち着くと自分も喋れるようになっていることに気がついた。
「あっはっはっ!ダイゴ!お前静かになったと思ったらゲロ噴射しながら眠りこけてたぞ!」
モーティは笑いながらそう言った。
こりゃ...色んなところに迷惑かけたな。
「モーティ、ハルート!シャル!つーかみんな...ごめん!俺潰れたことなかったのに...昨日は酔ってるのが楽しくて解毒を途中で入れてなかった。本当に迷惑をかけた。すまない。」
まずは素直に謝罪をする。
「ガハハハ!まぁ酒なんて失敗して強くなんだよ!ゲロまみれだったし、失禁もしてたから服も変えさせてもらったぞ!」
「いやまじか!モーティ本当にすまない。」
そういえばガラステーブルといつもの木の椅子がない...。
もしかして俺がゲロまみれに?
うわ〜こりゃアルスにも一言いるな。
「アルスは?」
「新しいテーブルと椅子を買いに行ったよ。もともと古くなってきてて飽きてきてきたから買う口実ができたと喜んでいた。」
「いや...まじで申し訳ねえ。」
「いやそれよりさダイゴ大丈夫?あたしで良ければ回復するからマナ整ったら教えて。下手に刺激するとまたマナがごちゃってなるかもしれないからね。」
マカフィちゃんは優しいねぇ。
「大丈夫!自分で今回復魔法をかけてみるよ。」
俺は集中させ体に流れるマナと大気や星そのものから感じるマナをコンセントレートし共鳴させ魔法を使うための準備をした。
「フィーラル!マフィール!ルメイリス!」
三つ同時に詠唱したが特に違和感なく自分の体にかけることができた。
お陰で体力や魔力がだいぶ戻り体からアルコールの気配も消え去った。
「相変わらずめちゃくちゃな魔力だなぁ。」
「あははこれもたまたま貰ったもんなんだ。前に話したろ。」
「そうかなぁ?ハルートに聞いたけど出会った時から確かに以上に魔法を扱えていたけどその後変態的に勉強してたって言ってたよ。」
「まあ...なんだ。俺は突き詰めたいと思ったら一直線に走っちまうんだよ。」
マカフィと話していてると自分が意外と猪突猛進なのかもしれないと思った。
「あっはっは!一流の場所にいたのもそういうおめーの努力があったからこそだなぁ!恐れ入ったぜ!後で魔法も教えてくれよ!水の他に風は使えるんだが氷の魔法も覚えたいんだ。」
モーティも笑う。
そうやって褒められるのにはあまり慣れてない。
もちろん褒められるのは好きで割とお調子者なのだけどガチでみんなから褒められるとなんか照れるな。
父さんはなんでも褒めてくれたけどシェフになって現場に立ってからは厳しかったし、ホテルに至っては蹴落とし合いだったからねぇ。
「あ、ダイゴ君おきたんけ?」
そこへアルスが戻ってきた。
「アルス!マジですまない。お前の大事な椅子を汚しちまった。」
「あぁ、あれな。ええよええよ〜新しいのんもかなりええ感じのやつ見つけられたし前から飽きててなんか物足りひんかったし。」
そう言いながらストックから買ってきた新たなテーブルと椅子を出した。
今度は黒のマーブル模様の....大理石か?
のテーブルとまだ皮の匂いが強い漆黒の椅子を六つ並べて行った。
「んふ〜高かったけどやっぱかっこええな〜。」
聞かなくても一流の素材が使われていることは分かるが一体いくらしたのだろう。
アルスのやつは、ひとしきり椅子を眺めたりテーブルを撫でたりしていたが突然アベルの方を向いて頼み事をした。
「アベちゃんすまんけど目的地設定済の転移札渡すさかいおつかいお願いしてええか〜?」
「はい。」
「あ、それなら俺がフープルで手伝おうか?浴場行く時にこの街の中割と歩いたし何となく場所が思い出せれば店の前まで飛べるぞ。」
俺はせめても何かしようと思い提案をしてみた。
「おぉ〜そりゃ助かるわ。転移札の原価馬鹿たっかいさかいお願いするわ。今地図をメールするな。」
アルスから送られてきた地図を確認するとマルシェや店が立ち並ぶエリアの奥にあるレストランだった。
「今夜はここ貸切ったったで。
俺はちょっと夕飯までに別の片付ける用事があってな。昼間に挨拶は行っておいたからあとはこの小包を置いてきて欲しいねん。」
そう言うとアベルに小包を渡した。
「わかった。直接は飛べないけどマルシェや見覚えのある店まで飛んでそこから歩いていけば良さそうだ。」
「ありがとう〜。ダイゴ君、アベちゃん、よろしゅう〜。」
そう言うとアルスは転移でどこかに消えて行った。忙しねぇ野郎だぜ。
「ダイゴ!ありがとう。」
柔らかい雰囲気の笑顔を俺に向けるアベル。
しかも今日は少しだけ女の子っぽい格好してる。
どうもマカフィの趣味に似てるところを見るに、恐らく一緒に買い物に行ってマカフィが選んだものらしい。
「似合ってるな。その服。」
本当は可愛いねと言いたかったが本人が望まないかもしれないことは口にしない方がいいと思った。
「ありがとう!フィーが選んでくれたんだ。僕のイメージは黄色とか向日葵なんだって。」
うんまじわかる。その柔らかくなんでも包み込んでくれそうな包容力と周りを照らすほんわかした雰囲気が向日葵みたい。
でも...抱えた暗闇の部分を強く生かして自分を武器にしているその様はアスファルトに咲くやスミレのように思えるし紫っぽいイメージもあるからそういうのも似合いそう。
俺って自分のファッションセンスは壊滅的だが料理に似てるからなのか人に何着せたら似合いそうかはよく分かるんだな。
「あはは、あいつが選んだのか。アベルに着せられるのよりはいいな!」
「うん、フィーが似合ってるって言うならそうなんだろうしそれならそれでもいいかなって!僕がしたい格好とは違うけどフィーが喜んでくれるし僕はそれで嬉しい。」
ん〜なんていい子なの!?後でおじさんが水着を買ってあげようね。
ちなみに今日のアベルの服装はミモザ色を柔らかくしたようなクリーム色にも近い黄色のキャミソールにベールのかかったふわふわのトップスにハイウェストのジーンズで足首が少し見えるスタイル。
靴はオレンジ味がかったパンプス。
うんうんさすがマカフィセンスいいな。
「あー!ダイゴスケベな目でベルを見てるのー?やらしー!」
よく見るとマカフィの方も似たセットアップを着ていてこちらは子猫の目のようなキトンブルーに近い灰色味がかかったブルーと黒のジーンズにダークブルーのパンプスだ。
こっちもよく似合ってんな。
「ちがうちがう!似合ってるなって褒めてたの!マカフィが選んだんだろ?センスあるなぁ。お前も似合ってて可愛いよ。」
「えへへー!でしょ!ダイゴわかってるぅ。」
「ダイゴさんそろそろいきましょっか。」
アベルはその美しいピンクから金髪にグラデがかかったようにも見える髪の毛をフワッと靡かせ俺の近くへやってきた。
いい匂い...今日はミモザと金木犀の匂いの香水か。
「よし!それじゃ行くぜ!フープル!」




