第49話「ほぼ宴会」
モーティは自信なさそうに笑いながら俺を見る。
「あはは、まだまだ甘いと言われるかもしれんが自分なりに少し研究してみた。食ってみてくれないか?」
「よし、アルス!ワイン持ってこい!」
「ほい来た!」
「...マーシェット商会の頭領を顎で使うダイゴ...すっげぇまじリスペクト。」
少しズレた感覚をお持ちのモーティ君は俺をキラキラした目で見ていた。
「なあなあなあ!ピザ早く食おうよ!俺腹減ったよぉ。」
相変らず自由ねぇシャルちゃん。
騎士団にいた時のかっこいいあなたはどこへ行ったんだい?
「私も...お腹がすきました。」
ハルートまでこの始末。
「わぁ...開発の時に散々食べたものと匂いが違いますね。」
アベルも嬉しそうにしている。
「チーズをたっぷり使って耳の中にも仕込んであるんだ。」
それだけ聞くとピ〇ーラみが増したな...。
まぁ...ここはひとつ褒めてやれるポイントを見つけなくては。
実際香りはかなりいい匂い。
焦げたニンニクと少し甘い玉ねぎの香り。
具にはウィンナーやらベーコンやら乗ってる。
生地は見た目カリカリしてそうだが手で触れるとしっとりとした部分もある。
それじゃ先ずはひとくち。
うーん!たしかに前より生地は良くなってる。
オレガノが練り込んであるのか?香りは悪くないが少しうるさいな。
カリッと歯ごたえともちもちとした弾力が同時にあり発酵は室温に合わせて丁寧にやったんだな。
オリーブオイルもすこしかかりすぎててチーズの油分を考えると少しくどいかも?
逆にこのチーズはなんだ?すげー美味いぞ。
カマンベールやチェダーに近い濃厚さとモッツァレラの強い糸引があって食べごたえがある。
ただやはり総じて少しクドい気がするな。
塩味のバランスは取れてるがほんの少しだけかかったメープルが余分でこれならはちみつに変えた方が五味の調和がとれそう。
ニンニクもあえてだろうけど強めになっているから主張のしあいが激しく結局何を食わせたいのかわからんな。
「ダイゴ、どうだ?正直に頼む。」
モーティは不安そうに俺を見た。
「わかった...まずは前より良くなってるポイントから伝えるぞ...。」
俺は慎重になおかつ正確に本人が努力したポイントを認めながらフィードバックをした。
正直良くはなったが未だスーパーで売っているものレベル...。
ここからもどんどん洗練して食材やそれらの作り手へのリスペクトも込めて一つ一つ丁寧にやって欲しい。
「ダイゴ、今度あんたが本気で作ったもん食ってみてぇ。本物との違いを知って打ちのめされるだろうけど。」
「いいよ。しかし、このキッチンでは少し限界があるな....。まアルスにどうにかしてもらうか。」
「ダイゴ君俺に遠慮のうなってきたなぁ〜。」
「ま、それだけあんたのこと認めてるとも言えるからな。」
「はは〜手厳しい〜。つーかうんまいな〜俺はすきやこれ!この味のまとまりがない感じがジャンキーでサイコーやで。こういうジャンルでやってけば売れるんちゃうん?」
「シェフの誇りってんのはそう安売りするもんじゃないのさ。こういうのはホンモンが作れるようになってから別業態でやればいい。」
「職人やな。まぁ君がそういうんならそれでええわ。ちなみ、モーティはどう思ってんの?」
「ダイゴの言う通りだと思います。俺が作りたいものを作るために今は腕を磨きたいです。」
「謙虚やなぁ〜。俺は商人やさかい強突くなところあるんで許してな。」
ピザを食べ終わったあとはちょっとした宴会状態になった。
「それでな...グレイスのおばちゃんにも〜こっぴどく怒られてんねん。あははは...。」
アルスは楽しそうな様子だ。
お酒の場は勝負どころと口で言っておきながらもシンプルに飲むことが好きなように見える。
「お、よう見たらもうおつまみないやんけ。あべちゃ〜ん。ストックからなんか出してやぁ。」
「はいただいま。」
アベルはキビキビ動いてアルスの要望に答えていく。
俺やハルートもなるべく動くようにして少しづつみんなの世話を焼いた。
「わるいなぁ。ダイゴくんお客さんやのにぃ。」
本当にそう思っているならお前も動けよなっ!たく
という言葉は胸にしまっておくことにした。
そんなことをしているとシャルがいつも通り半裸になりだしたので俺は必死に止めにはいる。
「んだよぉ!あちーんだよ!!いいだろ!」
「俺たちだけならまだしも!他の奴らもいるんだぞ自重しろ!みっともない。」
「るせーなルクシスのじじいより親みてぇなこと言うじゃんか。」
「ルクシス?お前の剣技の流派のことだったか?」
「そーそー!まぁ俺の血ぃ繋がってる方のオヤジのことな!あいつ剣技の流派持ってんだよ。なのにしょーもねー事して。」
シャルは唸りながらボトルごとウィスキーを飲む。
あーあーそんな行儀の悪い。
そのウィスキーは高いんだぞ...俺も少し飲んだけどあれは恐らく、シングルモルトの高熟成でめちゃくちゃ深みのある味で薫り高くて美しいスパイスのようなキメとフルーツを熟成させたような深みのある思い甘さが相まって...とか言ってもわかんねーか。
ていうか...ルクシス流ってこっちの世界で相当有名なホーリナイトの剣技だよな...。
習得難易度が高くハイクラスのホーリーナイトでも習得はほぼ不可能と言われてる...。
こいつの親父さんほんとすげー人だったんだな。
「シャルぅ〜!だぁいすき。」
マカフィはマカフィで酔っ払ってしまったのかにゃんにゃんとシャルに擦り寄ってるし。
「はぁ...。」
俺がため息を着くとハルートが俺のグラスにワインを注いで手渡してくれた。
このワイン栓を抜いたばかりか?香りがすげぇ強い。
結構な年数のものなのか独特の薫りが漂う。
ただ匂いを嗅ぐだけでは、まるでブルーチーズのようにも思える香りなのだが、
その奥にしっとりとした甘さと上品なのにその奥にキリッとした強いフルーツの生きた証を鼻腔の奥で感じ取ることができる。
うん...いいねこれ。
順番が逆になったが色味もよく見てみる。
ガーネット~マカボニー色の間くらいのオレンジ味がかったそれは急に出したからか少しばかり澱もあるが気になるものではない。
グラスを傾けたり回してみると濁りはそこまで無いのと脚が比較的ゆっくりであるがそこまで落ちるのは遅くないのを見ると適度な粘度であるというのがわかる。
まずは一口舌の上でじっくりと転がしていく。
思ったよりも甘い...酸味は薄いが果実感が強いので香りとしてしっかりと残っている。
渋みはまろやかで口当たりは柔らかい。
アルコール感も薄く飲みやすいがシャープでキリッとしたドライさが残りほんの少しだけ重たい印象がある。
こりゃ...チーズがほしいな。
ひとくち飲んだだけでも丁寧に作られ多層的な味わいが心を軽やかにしてくれる。
マル酒もそうだが発酵させる酒ってのはなんでこんなにも美味いのだろうか?
「いかがですか?」
まるでテイスティングタイムのようにハルートは片手を後ろにしてもう一方の手でワインを持って俺に聞く。
「うん、ではこれを頂こう。...ぶはっ!」
俺は自分で言って吹き出してしまった。
ハルートがレストランごっこを降ってくると思ってなかったのでその意外性とお茶目さがおかしかったのだ。
「あははは...ダイゴ笑ってしまったら威厳がないですよ。」
「威厳!?ないない!俺にそんなもんないよ。」
あ〜最高!温度感と知識観があうこういうヤツとふざけ合えるなんて...。
この世界に来て唯一良かったと思えるのはハルートのような友人ができたことだと深く思う。
「ダイゴ。これ私も飲んでもよろしいですか?」
「っっったりめーだろ!ほらグラス出せ。」
ワインをハルートのグラスに注ぎ入れてやり乾杯をした。
段々と周りが動物園かと思うほど騒がしくなってきたが俺たちは知的な会話を酌み交わした。
馬鹿な話もいいけどやっぱり勉強になる会話って好きなんだよなぁ。
「お〜宴じゃ、宴じゃ〜。」
突然そう叫んだのが聞こえたので見てみると、アルスがパンイチで踊っている。
お前も裸族かよ!
商人とは思えぬほど筋骨隆々の身体をタコのようにくねらせながら踊り出した。
「ちょっ!アルスさん!みっともないです。」
「ん〜だってアベちゃん〜!たのしやろ〜。まぁなんだかんだでまた大きな金が動いてくれそうやし。」
なんのことを指しているのかは分からないがおそらく教団からも金は入ってくるだろうし、シェリーおばさんとの新しいビジネスも
決まったようだし...全てこいつの計算通りなのだろう。
「それとこれとは別です。僕が言ってるのはみっともないって話ですよ。」
「うるさいな〜オカンかいな〜。自分も脱いだらええやん。一緒に踊ろうや。」
「ちょ、なぜそうなるんですか!」
慌てふためくアベルにすこーしだけ期待をしている俺がいた。
それにしてもアルスという男は本当に多面的である。
勤勉で上品に振る舞う所もあるかと思えばだらしくなる見えるところもあり、しかも常に何手先も読んで行動しているようなので何が目的なのか腹の中が見えない。
にもかかわらずこんな風にアホ丸出しの馬鹿な部分も多く人間味を感じられる。
俺としてはだいぶ...薄気味悪い。
「賑やかになってしまいましたね。」
ハルートが苦笑いをする。
「はあ...。腹立つから高い酒開けちまおうぜ。」
「そうですね。」
俺とハルートは拳を合わせアルスの近辺にある高い酒を勝手にいくつか拝借してテーブルの端の方でチマチマと晩酌した。
途中からはモーティも加わり、ダンディな彼の人生の話を聞いた。




