第46話「面倒くさすぎて森」
座学の集合は早朝も早朝。
まだ真っ暗けで雪こそ止んでいるものの凍てつく冷気が漂う中外で行われる地獄のような状況に胃酸が上がってきそうだ。
ルフレを全員にかけ、暖かくなる魔法を施したがそれでも寒い。
おそらく氷点下二十度くらいだと思う。
「はい、それでは皆様。初めていきます。
私、ホーリーナイトコーチング担当のアサと申します。
清く美しい心をもつものだけがホーリーナイトとして活躍できます。
皆さんにはしっかりと基礎を身につけていただき最高位のホーリーナイトを目指していただたいと思います。」
そこからはなんだかもう目を白黒させるようなマナーやら品位やら厳かさやらナイトシップやらなんかのありがた〜い講習が始まり、それが身についたかどうかの心理チェックのロールプレイやらなにやら盛りだくさんで少々参ってしまった。
ちなみに早朝...もといほぼ深夜から始まったが終わる頃には真っ暗。
アベルは見事に体調を崩した。
「すみません。」
部屋に戻ったあと
熱を出し寝込むアベルをハルートの癒しの調べと俺の魔法で癒していく。
ただし月の物で受け入れる体制が少し弱かったりマナのバランスが整っていないため若干治りが遅い。
「大丈夫だ。寝てろ。ハルートも断髪をされて魔力が安定してない時があるみたいだな。お前まで倒れたら元も子もないから無理せずダメなら俺に任せろよ。」
「はい、ありがとうございます。」
は〜全くモンエナがぶ飲みしてたあの頃を思い出すエーテルの消費量だ。
俺自身も消耗してるからマフィールごときじゃ魔力の回復が追いつきゃしない。
そんなこんなでどうにかこうにか座学を乗り越えた俺たちは晴れて騎士団の仲間入りだ。
「サーシャルロッテ!新人を案内してあげなさい。」
全員の前での挨拶が終わったあとは騎士団長は不在のため副団長がシャルに命令した。
聖騎士団の寮をシャルが先頭切って歩きながら俺たちに小声で囁いた。
「俺も今少し動きにくくなってる。やはり怪しいという話が出てたもの達が一気にいなくなってるのが疑念の種なんだと思う。表向きには遠征ってことになってるけど...こりゃ思ったより早く動いていかないとろくな事にならないかもしれねぇぜ。」
あ〜めんどくさ。めんどくさすぎて草通り越して森って感じ。
「すまないシャル頼みがあるんだ。シャルが仲良くしてる中にももしかしたら怪しいのがいるかもしれない...こんなことお願いするのは心苦しいのだがリストの中にいるやつでお前と仲いいヤツと俺を上手くコネクションしてくれるか?」
「あぁ。それなら今夜食堂でお前らの歓迎会がある。立食パーティを開いてもらうように手配したからそこで上手いことやれ。」
シャルちゃん...カッケー。いつもの子供っぽいガサツな彼女はどこにもいない。
威厳のある騎士団の威厳のある位の先輩だ。
「ありがとう。」
寮の部屋は三人部屋でハルートと俺とアベル。
そこもおそらくシャルが上手く手を回してくれたのだろう。
アルスより頼りになる俺の仲間....絶対に俺もシャルやマカフィーが自由に生きる道を取り戻してみせる。
「ダイゴさん、僕...そのアレが明けました。これで体も自由に使えます。今日は立食パーティならお酒も絡むでしょうしうまく情報を掴めそうです。長く潜入をするつもりできましたが今回で決められるかもしれませんね。」
「無理はするなよ。デキちまったら大変なんだから。」
「つけますし大丈夫です。それにもしできても...堕ろすのには慣れてますから。」
「アベルさん...今言うべきではないかもしれませんが、私からも言わせてください。あなたの体はあなたのものです。搾取されるために生まれてきたのではないです。長い間苦しんできたのですね。
どうかこの件が終わったならば...いやこの件が進んでいく中でも無理だけはなさらないでください。」
ハルートはいつもこういう時黙っているのに今日はやたら情熱がこもっている。
「いいんです。僕はアルスさんの為に生きると決めたのですから...その為にはなんだってします。娼年をやっていた頃は自分では何も決められずそこしか生きる道がありませんでしたが今は選べるのです。僕が皆様の役に立てるなら僕はなんでも平気です。それがアルスさんの為になりますし。」
「...それでもあなたの体はあなただけのものです。それだけはどうか...どうか忘れないでください。」
俺は黙ってふたりの会話を聞いていた。
ハルートも過去に何かあったのかな。
いつか苦しかったそういうのも笑ってみんなで話し合えたらいいな...。
夕食までは剣の稽古やら武道やら魔術の試験があった。
剣はへっぽこすぎて俺は全くダメだったが先生はシャルだったのでどうにか誤魔化せた。
驚いたのはハルートが結構剣を扱えるということ。
アベルはなんか...可愛かった。
武道もシャルが先生になってくれた。
今度は俺はそれなりに強かった。
ハルートはダメダメ。
アベルはやっぱり...可愛かった。
魔術の先生はマカフィーがやってきた。
ま!言うまでもなく俺は何もすることがなくてハルートは魔力が切れそうになってて大変そうだったしアベルは基礎的なところがまだいまいちらしく俺とマカフィーで教えてやった。
...思ったがこれおそらくシャルやマカフィーが相当頑張って自分たちが先生になるよう動いたんだろうな。
お陰で何も外部に露出せず上手いことやれた。
でもこれやっぱ長引いたら長引いただけ相当まずいな。
なるべく今夜で決められるようにしていかないと。
稽古が終わったあとは少し自由時間があったのでリストに乗っている先輩方に挨拶回りに行った。
ちなみに残りのリスト入りの奴らは全部で六人...。
既にしょっぴかれたのが十五人だ。
アベルが菓子折を用意してくれそれのお陰でそれぞれの人達と結構打ち解けられた。
その中で早速ぼろを出したやつが二人ほど居た。
一人目の時は菓子折を出しただけでは冷たく無視をしてきたのでこういう奴は大概...本当に底意地が悪いか素行が悪いかのどっちかだ。
俺は、一か八か賭けに出てみることにした。
「実は...なんか先輩のところに来ればいい話があるって...聞いてきたんです。何か知っていますか?先輩のようにまだ若くして位を持っている方は珍しいです。その立派さには秘訣があるのですか?自分のようなバカには分かりませんが宜しかったら教えを説いていただけませんか?」
「お、お前はそういうのがわかる口なのか...これさ、見てみろよ。いま巷ではやってるんだよ。まだお前らはペーペーの騎士だろ?給料だって生きていくさえ怪しい金額のはずだ。俺がお前に紹介してお前が他の奴に紹介していく事でどんどん報酬が増えていくんだ。教会としても信者が増える仕組みになってるし何も悪いことじゃない。」
資料を出しながら俺に一生懸命説明するパイセン。
ね、ねねねネズミ講ーーーーーー!
生ネズミ講初めて見たァ。感動〜。
俺はとりあえずその場で興味がある振りをし散々聞き出し挙句すぐに法皇に報告した。
ちなみになんでこいつが炙り出されなかったのか聞いたところ普段は真面目で研究職の頃は博位も持っているほどの勤勉な男であったという。
それから徹底してネズミ講で紹介したヤツに次の紹介の前には必ず自分を通せとターゲットを精査させていたらしい。
こういう奴ってのは仲間意識が強いからな...そんなやつほど自尊心を高めてやってゆさ振ればボロが出る。
二人目は...もうなんて言うかサイテー。
最初は無口であまり喋らなくてどちらかと言うと強くて寡黙で評判も良さそうな男だったのだが俺があの手この手で誘導していると仲良くなったと勘違いしたのゲロった。
「なあなあなあ!新人!見てくれよ。俺の奴隷。」
そう言って見せてくれたのはスマホの中でペットカメラのように映っている性奴隷の姿。
美しい買ったであろうブロンドの紙はボロボロで白い猫獣人ならでは可愛らしい毛並みもボロボロ。
手枷と足枷を付けられ床に落ちた食べ物を食べていた。
あやうく、ぶん殴りそうだったが何とかこらえた。
「えー!すごい!なんでバレずに買えるんすか?俺もめっちゃ欲しいッス!」
「ふっふっ...タダで教えると思うか!?」
「...次の給料日まで待ってくれたら必ずお支払いします。いくらですか?」
「ジョーダンだよ。お前は話してて話な分かりそうなやつだからな。本当は誰にも言ってないんだけどお前には教えてやるよ。」
「アザス!」
「実は騎士団長すらそれで最近しょっぴかれたらしいんだけどよ!あの人とは別のルートがあるんだよ。イヒヒ...俺の仲間になハッキング得意な奴がいてな魔法もうまいんだ。そっが上手いことカモフラージュと斡旋してなんとか買い付けたんだけどよ...保管場所も聞いたらびっくりすると思うぜ。実はさこの寮の地下なんだよ。誰にも分からないように魔法で細工した部屋をそいつが五年かけて作ったんだ。」
は〜い実はアルスお手製のアプリで全て録音してます。
そしてそのデータは法皇の元へ届きます。
「すっげぇ!後で俺にもヤラせてくださいよ!横どったりしないから一回だけでいいんで。」
「っち仕方ねーなぁ。二本刺し試してみたかったんだよぉ。今度お前と試してみるかぁ。」
あ〜ぶん殴りてぇ。
というか俺の部屋の盗聴の犯人は十中八九こいつの友達だ。
そのお友達がこいつに俺たちの話をしてないところを見るとこいつですら信用してないのかもな。
しかも今まで挨拶してきた中に必ずいるってことだろ!?
あ〜嫌だねぇ、なんで転生してきてまで俺はこんなことしてんだろう。
そんなことをしているうちにあっという間に夕飯の時間になった。




