第39話 「分かるかね?ハトソン君。」
浴場までは歩いていくらしく夕方のロイズの街並みを歩いて大衆浴場まで向かった。
住宅街の方を通るとなんだかどこからが懐かしいパンのやける香りやシチューの香りがしてそれぞれの世界がいまも周り続けているのだとエモーショナルな気持ちになった。
マルシェ通りや店が立ち並ぶエリアは仲良く買い物をする家族やスーパーの目の前で泣き叫ぶ子供をあやす親がいた。
ガラスの扉の向こう側ではそこに働く人達が居るし、向かいの店は店仕舞いをするために店主っぽい人が外に出てきていて、同時に出てきた隣の店の同じく店仕舞いをしようとするこれまたその店の店主っぽい人と立ち話をしていたりした。
この世界に来てからもう何度も思ったけれど人の営みっていうのはどこでも変わらないのだと思わされる。
俺が感慨深い気持ちになっているとハルートは不思議そうに俺を見ていた。
「ふぁ〜あ!魔法をこんなに使わないとまるで疲れることがないなぁ。」
「ふふっそうですね。エーテルをがぶ飲みするダイゴが見られなくて少々残念です。」
「ハルート君。分かっていないね?俺は魔力なんて自分で回復できるのだよ。」
「はい、そうですよね。」
「それをしないで飲むというのとはどういうことか分かるかい?」
「それはまさかエーテルのお味がお好きなのですか?」
「そうそう!元の世界のジュースにそっくりでさぁ。あの清涼飲料水って感じの味が欲しくなんだよなあ。」
「とても繊細な舌をお持ちなのにあの砂糖と魔学調味料のたっぷり入ったものもお好きなのですか。てっきり自分で魔力回復するのが面倒なのかと思っていました。」
「チッチッチッ。ホンモノを知ってるからこそああいう作り物が欲しくなるのさ。分かるかね?ハルート君。」
「ていうかダイゴ、その喋り方なんですかああ、笑ってしまうのでやめてくださいよ。」
クスクス笑いながら俺の方を見るハルート。
俺はダイロックホームズ。
助手のハトソン君に甘美なジュースの味をわかってもらいたいのだ。
クソ!このネタハルートに通じないのが悔しい。
「ついたで〜。」
アルスはやたらでかいコロシアムのような形の建物の前で立ち止まる。
「でかっ!」
「せやろ〜昔はコロッセオいうてここで決闘なんか行われててそこに入ってた温泉が男たちの癒しやったんや。で闘技場としては役に立たんなった現代では改装されて全てが温泉なったんや〜。アクアベリーみたいな決闘場とちゃうくて観客すごい人数入る施設やったんよぉ〜。勇者レオの時代に表向きの奴隷が開放されたさかい戦わせる文化がのうなってお風呂になったんや〜。」
「す、すごい!ボーッと着いてきてしまいましたがそういえばロイズの街にはそういう施設があると本で見たことがあります。そんなところに来れるなんて幸せです。建物を残すのは歴史を保護するという共通法があるからなんですね!」
あーこれだめ知識箱にスイッチが入っちゃうよぉ。
「ハルート、その話めっちゃ気になるわ。風呂に入りながらもっと教えて貰おうぜ。」
「あ、私としたことが!すみません、皆さん。入りましょうか。」
門を潜ると長めの階段を上り施設の入口へと辿り着く。
暖簾がかかってる!なにこれめちゃ銭湯ぽくない!?
暖簾を潜ると自動で開く横開きの石扉。
魔学ってすげー!...でもこれ風情なくない?
中は茶白のレンガが建物全体にあしらわれていてやはり闘技場の名残なのか所々汚れが目立つ。
修繕はされているようだが魔法で保護するように結界が組み込まれているな。
受付のきゃわいい黒猫獣人のちゃんねーにチップ込みで四人分の代金を渡しシャルとはここで別れ浴場の方へと向かった。
温泉らしい香りが立ち込めてきていよいよ風呂に入るのだと言う気持ちが高まってきた。
中にいろんな獣種が居て色んな国から来てそうな雰囲気。
ローマさながらの文化があるからロイズってのは交流の街なのかもな。
ちなみに日本人から見た外国人ってわかりやすいと思うけど獣種もそんな感じで結構わかりやすい。
もちろん色んな種類の動物が入り乱れているが寒い地域の犬獣人は長毛や狼系の獣人が多い傾向があったり逆に暑いところではシャム系の猫獣人が多かったり。
もちろんそれが全てでは無いのだけど転生してすぐの頃から、何となくこの辺りの国で生まれたのかなぁ?みたいな予測が感覚的にわかる能力が備わっている。
これ結構料理人にとっては重要でこの世界の食文化を理解するのにもとても必要なことなのだ。
神様サンキューな。
多分この世界で生まれ育ってきた奴らには当たり前にある感覚なんだろうけど...。
「ダイゴ見てください。あそこの柱はかの有名な戦いの...。」
はーじまったはじまった。
もちろん話を聞くのは面白いのだけれどこちらがぼーっと考え事をしていても容赦がない知識のマシンガンは思考を濁らせてくる。
決して悪く言いたい訳では無いのだけどそーっとしておいて欲しいよぉって思ってしまうこともないことは無いのでそこは悩みどころである。
脱衣所はすげー広くてでかい鏡やらドライヤーなんかが置いてあってなんだか少し日本のような景色に安心する。
ハルートは備え付けの鍵付きロッカーに荷物をしまい自分の少しだけ値の張るローブもその中に入れた。
俺はやっすい服しか着て来なかったのでただのカゴにしまいハルートに出してもらった小さいタオルを片手にさっさと浴場へ入った。
ちなみにアルスはかなり近い距離を歩いてきてかなり嫌だった。
「なぁ〜裸の付き合いや〜あらいっこしようやぁ。」
きも!こいつきもいい!まじきもい!
「きもっ!やめろよマジで。」
「あはははは自分おもろい反応するなぁ。あはははは。」
何がそんなに面白いんだこっちは真面目に気持ち悪いんだってば!
「連れてきてくれたのは嬉しいが金は俺が出したんだ!すまんが自由に過ごすぞ。」
とアルスを突き放し一旦1人の時間を過ごすことにした。
まずは軽く体を流し備え付けの石鹸で体と頭を洗ってからな真ん中にあるプールみたいなでかい浴槽の端の方の縁に腰をかけ足を入れる。
おっ?思ったよりぬるい?
緑がかった乳白色のお湯は40℃いかないくらいの温度でゆっくりと浸からなくてもとても入りやすい。
体全体を浸からせたあとはゆっくり中心へと足を進めた。
中心に近づくつれ徐々に温度が上がっていくのが分かる。
おー源泉下から出てんのかな?
見渡すと吐き出し口なんかはないのでおそらく中心の湯船の底からお湯が出ているようだ。
というか排水の必要も無いほど湯が溢れているしレジオネラ的なのどうなの?と思ったけど...よく思い出したらタッカンブルで風呂掃除した時魔法でやったことを思い出した。
おそらくその要領でこの浴槽もお湯を抜く必要ないから排水溝とかないのか?
温泉といえば至る所に排水するための穴があると思うのだけどお湯の中にもそれっぽいものは今のところ見つけられないし湯船の縁の方にもない。
あるのは緩やかな下り坂の一番下になっている入口のところの排水溝だけだ。
ちょうどいい温度を自分で見つけられる設計になっていて暑くなればぬるい方へ寒くなれば熱い方へとできるのでサイコーではある。
ということで早速、ちょうどいい所まで練り歩きそこに腰を下ろしてため息をつくと煙の中からハルートが吹き出す声が聞こえた。
「す、すみません。あまりにも間の抜けた声にわらってしまいました。おや?もしかしてダイゴですか?」
「そうだよぉ!俺だよぉ!怖いお兄さんだったらどーすんだ!」
「その時はその時ですよ。」
穏やかなハルートの声は浴場に反響してまるで歌のようだ。
「それよりアルスは近くにいないか?あいつ気色わりーからちょっと距離を置きたいんだ。」
「あっはっはっ!大丈夫。サウナに行くと仰ってましたよ。」
「サウナあるの!?」
「ええ、露天に行く途中にあるようです。私は暑いのダメなので遠慮したいところですがダイゴも気が向いたら私のことは気にせず行ってみたらいいと思います。」
うんうん、これこれ人のプライベートスペースを犯さない...これが気を使うってこと!
そして気を使わせすぎないし気を使いすぎない!これが男の友情だろ!?
あー落ち着くなぁ。
「ハルート!お前は良い奴だなぁ。」
「あはは何を言ってるんですか。知識欲も少し落ち着いてしまったので私ものんびりとここを楽しませてもらいますね。それでは露天に行ってきますので失礼します。」
「おう!行ってら〜。」
どこまで心地よい男なんだ!お前は!
アルス!見習え!距離の詰め方がキモイんじゃ!
しばらく温泉に揉まれ意識が閉じかけそうになっていると突然肩を叩かれた。
「ダ〜イゴ君。」
「げっ!アルス。」
「げっとはなんやねん。」
「近いよぉ〜離れてキモイから。」
「これがアベルだったら喜ぶんやろぉ?冷たいなぁ。」
「そりゃ!アベルは女の子じゃないか!お前はゴリゴリの男だもん!嫌だよ!」
「ふはは...そうかそうかぁ。実はな面白い話があんねん。」
「何?聞かせてくれよ。」
「どぉしようかなぁ。」
「教える気ないのか?じゃあいいや。」
「んもぉ〜ほんま自分冷たいなぁー。」
「いや!マジで近いんだっていきなり!怖いんだわ。」
「あひゃひゃ...そらすまんすまん。」
「で?面白話って?」
「やっぱ気になる?5JANな!」
「金とるんか!じゃあいいわ!」
「冗〜談やって、あははは。実はなグレイスランド教壇にはきな臭い話が出てんねん。君なら知っとるかもしれんけどその詳細の金の流れをふわっと掴んだところなんよね。俺の用事ってのはそれに関することでな。シャルちゃんやマカフィーちゃんおるところではなかなか話せんくてな。」
その一言に俺は突然興味のスイッチが入った。




